28 / 34
三男とデート【大学時代】
しおりを挟む
世鷹の『夜桜を見に行こう』という誘いに、黒猫は二つ返事で頷いた。春はようやくやってきたが、夜はまだまだ肌寒さを伴っている。世鷹は愛車を一時間程走らせて、小高い山の麓の駐車場に止めた。
「着いたよ」
「……これは、なかなかの穴場ですね……」
「僕だってプライベートまで人ごみにもまれるのはごめんだからね」
車を出れば冬に戻ったような空気が満ちていて、體が勝手にふるりと震えた。少し服を着込んできて正解だった。それに世鷹と繋いだ手が温かいから、頬を撫でる冷たい風にも耐えられる。他にも車は数台止まっていたが、人の気配はほとんど見当たらない。申し訳程度に舗装された坂道を登ると、開けた高台に出た。
すると、これまた景観を損なわないように申し訳程度のライトアップがなされ、左右にところどころひっそりと植えられている桜の樹に彩りを添えている。その傍には気にならない程度の人影が寄り添って点在していた。辺りは、夜の海の底のように静かだ。他愛もない話をしながら幻想的な桜の中を歩いていると、急に一陣の風が吹き荒れた。桜の花弁が、二人の頭上に降り注ぐ。月光を浴びながら舞い落ちる桃色はとても優美で、とても幻想的だった。
「綺麗……」
淡い桃色と漆のような闇とのコントラスト。その美しさに見惚れていると、世鷹に名前を呼ばれた。
「黒猫ちゃん」
「はい?」
肩を抱き寄せられると共に、唇を塞いでくる、温かい温もり。そして、彼の唇が離れる間際、唇をペロリと舐められた。
「よ、世鷹さん!?」
「ついてたよ」
「ふ、普通に取ってくれればいいのに……」
強めの風が吹いた際に黒猫の髪に花びらがくっ付いていたと言われて、赤い顔で抗議する黒猫に、世鷹はくすりと笑って囁いた。
「何て言うのは後付けの口実で、本当は僕が君にキスをしたかっただけなんだ」
――抱き寄せられて、桜吹雪の中でしたキスは、少しだけ甘かった。
「着いたよ」
「……これは、なかなかの穴場ですね……」
「僕だってプライベートまで人ごみにもまれるのはごめんだからね」
車を出れば冬に戻ったような空気が満ちていて、體が勝手にふるりと震えた。少し服を着込んできて正解だった。それに世鷹と繋いだ手が温かいから、頬を撫でる冷たい風にも耐えられる。他にも車は数台止まっていたが、人の気配はほとんど見当たらない。申し訳程度に舗装された坂道を登ると、開けた高台に出た。
すると、これまた景観を損なわないように申し訳程度のライトアップがなされ、左右にところどころひっそりと植えられている桜の樹に彩りを添えている。その傍には気にならない程度の人影が寄り添って点在していた。辺りは、夜の海の底のように静かだ。他愛もない話をしながら幻想的な桜の中を歩いていると、急に一陣の風が吹き荒れた。桜の花弁が、二人の頭上に降り注ぐ。月光を浴びながら舞い落ちる桃色はとても優美で、とても幻想的だった。
「綺麗……」
淡い桃色と漆のような闇とのコントラスト。その美しさに見惚れていると、世鷹に名前を呼ばれた。
「黒猫ちゃん」
「はい?」
肩を抱き寄せられると共に、唇を塞いでくる、温かい温もり。そして、彼の唇が離れる間際、唇をペロリと舐められた。
「よ、世鷹さん!?」
「ついてたよ」
「ふ、普通に取ってくれればいいのに……」
強めの風が吹いた際に黒猫の髪に花びらがくっ付いていたと言われて、赤い顔で抗議する黒猫に、世鷹はくすりと笑って囁いた。
「何て言うのは後付けの口実で、本当は僕が君にキスをしたかっただけなんだ」
――抱き寄せられて、桜吹雪の中でしたキスは、少しだけ甘かった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。



今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる