黒狼夫婦の事情(1/12更新)

狂言巡

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三男とデート【大学時代】

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 世鷹の『夜桜を見に行こう』という誘いに、黒猫は二つ返事で頷いた。春はようやくやってきたが、夜はまだまだ肌寒さを伴っている。世鷹は愛車を一時間程走らせて、小高い山の麓の駐車場に止めた。

「着いたよ」
「……これは、なかなかの穴場ですね……」
「僕だってプライベートまで人ごみにもまれるのはごめんだからね」

 車を出れば冬に戻ったような空気が満ちていて、體が勝手にふるりと震えた。少し服を着込んできて正解だった。それに世鷹と繋いだ手が温かいから、頬を撫でる冷たい風にも耐えられる。他にも車は数台止まっていたが、人の気配はほとんど見当たらない。申し訳程度に舗装された坂道を登ると、開けた高台に出た。
 すると、これまた景観を損なわないように申し訳程度のライトアップがなされ、左右にところどころひっそりと植えられている桜の樹に彩りを添えている。その傍には気にならない程度の人影が寄り添って点在していた。辺りは、夜の海の底のように静かだ。他愛もない話をしながら幻想的な桜の中を歩いていると、急に一陣の風が吹き荒れた。桜の花弁が、二人の頭上に降り注ぐ。月光を浴びながら舞い落ちる桃色はとても優美で、とても幻想的だった。

「綺麗……」

 淡い桃色と漆のような闇とのコントラスト。その美しさに見惚れていると、世鷹に名前を呼ばれた。

「黒猫ちゃん」
「はい?」

 肩を抱き寄せられると共に、唇を塞いでくる、温かい温もり。そして、彼の唇が離れる間際、唇をペロリと舐められた。

「よ、世鷹さん!?」
「ついてたよ」
「ふ、普通に取ってくれればいいのに……」

 強めの風が吹いた際に黒猫の髪に花びらがくっ付いていたと言われて、赤い顔で抗議する黒猫に、世鷹はくすりと笑って囁いた。

「何て言うのは後付けの口実で、本当は僕が君にキスをしたかっただけなんだ」

 ――抱き寄せられて、桜吹雪の中でしたキスは、少しだけ甘かった。
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