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身嗜み
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「身嗜みはきちんとね」
それが夫(次男)の口癖だ。
ぱき。
水を替えた花瓶を置いて手を引いた時、壁に手が軽くぶつかった。違和感に気付き視線を落とした時には、既に指に残る爪は短くなっていた。
「気付いたら欠けてました」
うんざりだと言わんばかりに投げ遣りな回答をすれば、対峙するリオンは一層眉を潜める。しまったと慌てて口元を抑える黒猫だが時既に遅し。にこりと綺麗に口端を釣り上げてリオンは顔を近付けた。
「そうか、私達が再三注意していたよね、黒狼家の妻として人を使う事に慣れないさいと。そして気が付いたら欠けていたの」
「…………」
薄っすらと浮かべられた笑み。傍目から見れば美しいに違いない。しかし黒猫は身を強ばらせる。微かに開いている目が全く笑っていないからだ。こういった時のリオンの怒りを身を持って黒猫は知っている。震えないよう膝の上で両手を握り締めるがとても直視など出来はしない。
「意外だね、物分かりが悪いはずはないと思っていたのだけど……」
クスクスと笑みを浮かべるリオンは、男だ女だとか一線を超える美しさを醸し出している。視線を下げたまま、この状況から被害を最小限に収めるためにはどうするべきか思考を巡らせる事で精一杯の黒猫の顎を掬い上げ視線を合わせ、笑みを消す。
「貴女を構成する全ては私達のものだ」
欠けた爪のある手を取り、甲に唇を押し当てれば細い躰はびくりと跳ね上がる。幾度も唇を落としながら欠けて歪つになった爪先まで到達、そのまま口内に含み舌を這わす。
ざり、ぴちゃり……。
欠けた部分を舐めればざらりとした感触。しかしリオンは止める事なく、わざとらしく音を立てなお指を口に含む。
「リオンさ……それ、やっ……!」
ぞわりと背が粟立つ感覚と響く音に耐え切れず、耳まで赤く染めて黒猫が弱々しく抗議を申し立てればようやく解放される。
「今回は許してあげる……次はないと思いなさい」
表情を消してリオンが告げれば黒猫は何度も頭を振って肯定を示す。やっと常の笑みを浮かべたリオンにほっと胸を撫で下ろすが腕は捕まれたまま離される気配がない。
「……あの、り、リオンさん? 離して頂けないと部屋に戻れないんですけど……」
恐る恐る告げれば何故戻る必要があるのと返されて、まさかと嫌な予感がしたので伺い見ればいつの間にか企む笑みを浮かべていた。
「許してあげるとは言ったが、ただとは言っていない」
「お、お金はありませんよっ!」
条件反射で声をあげてしまい、リオンにクスクスと笑われる。居たたまれず視線を逸らせば少しずつ躰を押し倒されて。
「言うまでもないとは思うけど、今の私が何を求めているか解るね?」
そりゃあ判りますよ、悔しいけど。何だかんだ言いながら、借金の質草として引き取られた黒猫を、リオン達は決して嫌っているわけではない、逆に好いている。でも夫達の行動に時おり着いていけず、反発するような態度を取りもするが結局は適うはずはなく。落ちてくる唇を受けとめながらそっと背に腕を回し、力を抜いて身を委ねた。
それが夫(次男)の口癖だ。
ぱき。
水を替えた花瓶を置いて手を引いた時、壁に手が軽くぶつかった。違和感に気付き視線を落とした時には、既に指に残る爪は短くなっていた。
「気付いたら欠けてました」
うんざりだと言わんばかりに投げ遣りな回答をすれば、対峙するリオンは一層眉を潜める。しまったと慌てて口元を抑える黒猫だが時既に遅し。にこりと綺麗に口端を釣り上げてリオンは顔を近付けた。
「そうか、私達が再三注意していたよね、黒狼家の妻として人を使う事に慣れないさいと。そして気が付いたら欠けていたの」
「…………」
薄っすらと浮かべられた笑み。傍目から見れば美しいに違いない。しかし黒猫は身を強ばらせる。微かに開いている目が全く笑っていないからだ。こういった時のリオンの怒りを身を持って黒猫は知っている。震えないよう膝の上で両手を握り締めるがとても直視など出来はしない。
「意外だね、物分かりが悪いはずはないと思っていたのだけど……」
クスクスと笑みを浮かべるリオンは、男だ女だとか一線を超える美しさを醸し出している。視線を下げたまま、この状況から被害を最小限に収めるためにはどうするべきか思考を巡らせる事で精一杯の黒猫の顎を掬い上げ視線を合わせ、笑みを消す。
「貴女を構成する全ては私達のものだ」
欠けた爪のある手を取り、甲に唇を押し当てれば細い躰はびくりと跳ね上がる。幾度も唇を落としながら欠けて歪つになった爪先まで到達、そのまま口内に含み舌を這わす。
ざり、ぴちゃり……。
欠けた部分を舐めればざらりとした感触。しかしリオンは止める事なく、わざとらしく音を立てなお指を口に含む。
「リオンさ……それ、やっ……!」
ぞわりと背が粟立つ感覚と響く音に耐え切れず、耳まで赤く染めて黒猫が弱々しく抗議を申し立てればようやく解放される。
「今回は許してあげる……次はないと思いなさい」
表情を消してリオンが告げれば黒猫は何度も頭を振って肯定を示す。やっと常の笑みを浮かべたリオンにほっと胸を撫で下ろすが腕は捕まれたまま離される気配がない。
「……あの、り、リオンさん? 離して頂けないと部屋に戻れないんですけど……」
恐る恐る告げれば何故戻る必要があるのと返されて、まさかと嫌な予感がしたので伺い見ればいつの間にか企む笑みを浮かべていた。
「許してあげるとは言ったが、ただとは言っていない」
「お、お金はありませんよっ!」
条件反射で声をあげてしまい、リオンにクスクスと笑われる。居たたまれず視線を逸らせば少しずつ躰を押し倒されて。
「言うまでもないとは思うけど、今の私が何を求めているか解るね?」
そりゃあ判りますよ、悔しいけど。何だかんだ言いながら、借金の質草として引き取られた黒猫を、リオン達は決して嫌っているわけではない、逆に好いている。でも夫達の行動に時おり着いていけず、反発するような態度を取りもするが結局は適うはずはなく。落ちてくる唇を受けとめながらそっと背に腕を回し、力を抜いて身を委ねた。
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