三色の神様(10/24更新)

紅の神域

　赤い花の群れの真ん中に立てられた花に劣らぬ赤いパラソルの下、女が椅子に座って本を読んでいた。何度か声を掛けてみるが、聞こえていないのか言葉が通じないのか、返事はない。白い肌、長い手足、白い頭髪、白いワンピース。それはひどく美しい光景で、一歩踏み出すと、水をたっぷり含んだ泥の中に引きずり込まれた。

「慮外者め、無礼打ちだ」





　がばりと仰ぎ見た階段の上の闇には、先程駆け下りた時には絶対になかった、小さくて真っ白な顔がみっちり詰まっている。真っ暗な幾百の柘榴色の眼差しがじいいいっと、自分を視つめていた。目に喰われる。それでも目を閉じたらいけないと思った。だって今、目を閉じたら瞼の裏にあの白い顔と紅い眼が見えてしまうだろう。





「人間って逞しいよなぁ」

　覗き込んだ琥珀は呆れ気味。紅玉が暇潰しで作った化け物屋敷から出られないからって、自分の家だと思い込むだなんて。

「捨てねぇの？」
「罪は自分で気付いてこそだろう」