後輩の食事情(5/21更新)

狂言巡

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カレーライス2

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 ザクザクザク!
 タンタンタンタンタン!
 新宮が声を掛けようにも、一心不乱に包丁を動かし続ける淡島コイビトに躊躇われた。その原因は判っているため、手伝いを諦めてそっとリビングを離れた。あれは溜まりに溜まったストレス発散方法の一つなのだ。自分ができる事をしよう。検索していた履歴を調べて、悔しいが恋人の好みを最も把握している高野に吟味してもらう。あとはもう煮込むだけと言ったところで無情な音が鳴り響く。淡島は新宮に声をかける。

「冷凍のナン、チンしといて」

 つまり。そういう事ですよね、うん。新宮はリビングの端に備え付けられたインターホンの画面を覗く。栗毛色のツーブロックが特徴の少年みたいな少女が早く開けろと口パクしている。

「はあぁあああ……上がっておいで」

 新宮は家のロックを解除した。従妹の宝は淡島の料理の匂いがどこにいても判るのだろうか。最近、新宮が作った時にインターホンは鳴らない。けれど、淡島が担当する時は必ずインターホンが鳴る。宝が部屋に入った途端に、新宮が輝かしい笑顔の裏に怒りを宿して問い詰める。

「ホンット君は……渚さんの料理のファンなならまだいいけど、ボランティア家政婦が何かと勘違いしてないだろうね?」
「っるせーな。普段姐さん甘えっ放しのヘタレに説教される謂れはねぇよ。文句あっか」

 んべー。舌を出して悪態をつく様はファンなら喜びそうだが、残念ながら新宮からすれば小憎たらしいだけであるな。ぴきっと青筋を立てた新宮が口を開いた瞬間。

「二人ともでけたでー」

 出来上がったキーマカレーは美味しかった。
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