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オムライス
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微塵切りの野菜と一口サイズより少し小さめに切られた鶏肉にバターが絡んで、加熱されていく匂いが部屋に広がる。次にケチャップが合わさって共に玉葱や人参が炒められ、更に香りが深みを増した。ジャーから取り出したご飯を一緒に炒めればすぐに恋人特製チキンライスの出来上がりだ。もう一回り小さなフライパンを熱して、卵を一人一個半、冷蔵庫から三個取り出す。片手で卵を割る淡島に感動したような目を向けていた喜秋も、何年前からある光景だろう。
塩を入れ、軽く泡立てられた卵はフライパンに流し込まれ、トロトロ半熟の火の通り具合を見せてから、いとも簡単にホカホカのチキンライスを包んでいった。複数の卵を使ってふわふわにして被せるよりも、柔らかい薄焼き卵のような一枚に包まれたオムライスが好きだと言ったのは、喜秋だった。そんな恋人のリクエストに応えるように、淡島はいつもこのやり方でオムライスを作る。ライスを包んでいる卵は破れる事もなくとても綺麗に形どられ、まるで店で提供されるような出来上がりだ。
「うまく包むわね」
「そら何回作ったか数えきれへんぐらい作っちゃーるさけ」
「……穴だらけのオムライスが懐かしいくらい」
「ストーップ、喜秋くんそれは忘れてほしわ、消したい過去だから」
「いかにもばつが悪そうな顔をしてたアンタは、結構可愛かったわ」
まだ双方学生で淡島が初めてオムライスを作った日。それはそれは今とは比べ物にもならない程の味気ないオムライスが出来た事を、喜秋も淡島もよく覚えていた。卵は薄いを通り越したペラペラ状態で子供に破られた障子の如し、焦げていないのが救いだった。ライスの方もただ油とケチャップだけで作られた以外の工夫もない。食べられないわけでもないけれど、お世辞でもとっても美味しいという物でもなかった。それでも二人で向かい合って完食し、喜秋は丸わかりの嘘を吐いた。
「美味しかった」
その言葉は淡島にとっては悔しくもあり嬉しいもので、今でも強く印象に残っている。それからというもの、元々興味があった事もあり、雑誌を買ったりインターネットで検索して、出来る限り料理について勉強した。何かに挑戦して、そのたび律儀に感想を告げる己を満足気に見る淡島を、喜秋はまた見つめ返すのだ。言葉にしてみると甘すぎる毎日も、今の二人にとってはちょうど良かった。料理に特別必要なスパイスや工夫は、特にないのかもしれない。喜秋にとって、彼女との食卓は幸福の象徴だった。
塩を入れ、軽く泡立てられた卵はフライパンに流し込まれ、トロトロ半熟の火の通り具合を見せてから、いとも簡単にホカホカのチキンライスを包んでいった。複数の卵を使ってふわふわにして被せるよりも、柔らかい薄焼き卵のような一枚に包まれたオムライスが好きだと言ったのは、喜秋だった。そんな恋人のリクエストに応えるように、淡島はいつもこのやり方でオムライスを作る。ライスを包んでいる卵は破れる事もなくとても綺麗に形どられ、まるで店で提供されるような出来上がりだ。
「うまく包むわね」
「そら何回作ったか数えきれへんぐらい作っちゃーるさけ」
「……穴だらけのオムライスが懐かしいくらい」
「ストーップ、喜秋くんそれは忘れてほしわ、消したい過去だから」
「いかにもばつが悪そうな顔をしてたアンタは、結構可愛かったわ」
まだ双方学生で淡島が初めてオムライスを作った日。それはそれは今とは比べ物にもならない程の味気ないオムライスが出来た事を、喜秋も淡島もよく覚えていた。卵は薄いを通り越したペラペラ状態で子供に破られた障子の如し、焦げていないのが救いだった。ライスの方もただ油とケチャップだけで作られた以外の工夫もない。食べられないわけでもないけれど、お世辞でもとっても美味しいという物でもなかった。それでも二人で向かい合って完食し、喜秋は丸わかりの嘘を吐いた。
「美味しかった」
その言葉は淡島にとっては悔しくもあり嬉しいもので、今でも強く印象に残っている。それからというもの、元々興味があった事もあり、雑誌を買ったりインターネットで検索して、出来る限り料理について勉強した。何かに挑戦して、そのたび律儀に感想を告げる己を満足気に見る淡島を、喜秋はまた見つめ返すのだ。言葉にしてみると甘すぎる毎日も、今の二人にとってはちょうど良かった。料理に特別必要なスパイスや工夫は、特にないのかもしれない。喜秋にとって、彼女との食卓は幸福の象徴だった。
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