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サウスポーの恋人
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何の変哲もない、学校の昼休み。生徒達が好きに昼食をとったり喋ったりして好きに過ごしている。朧月夜と弁天菊之助も例外ではない。教室のベランダに出て、購買で先程買ったばかりの総菜パンを口に入れるか、母が作った弁当を口にしている違いがあるくらいだ。綺麗な所作で箸を口に運ぶ菊之助に、大口を開けて月夜が声をかける。
「そーいやさ、菊之助」
「何でぃ」
「人間の三大欲求ってあるじゃないの。睡眠欲と、食欲とあと性欲」
「ああ、そうだが、だがそれがどうした」
「人ってさ、その三つは生きるために必要だけど……あ、性欲は生きるというか子孫を残すためか。まあ人間には必要事項じゃない? でも睡眠と性欲って、大嫌いなやつと一緒にいるときはできないの。身体的にはともかく、精神的には特に。でも逆に食欲ってカンケーないのよ。大嫌いな奴は隣だろうか正面だろうが食事をとることができる」
ぎぎぎっ、ばりっ。隣から聞こえてくる音に、菊之助はそちらへ視線を向けた。小粒の白い歯が太いソーセージとキャベツを挟んだフランスパンを食いちぎっている。以前テレビ番組で見た「我が子を食らうサトゥルヌス」を思い出していた。さすがに絵画の題名自体は後の授業内容で思い出したが、その時は海外にこういう絵があった気がすると考えた。
違いといえば薄暗い口内に飲み込まれるのは幼子ではなくパンであり、その口の持ち主は恐ろしげに目を見開いた男ではなく、嬉しそうに目を細める娘だということである。もぐもぐとしばらく咀嚼して、嚥下し、再び口を開く。
「そんで、えーっと、今一うまく言葉にできないんだけど……んと、そりゃ嫌いな相手が用意した食事は食べたくないけど、でも自分が用意したごはんがあれば、そんで腹減ってたら気にせず食べるでしょ」
「嫌いな相手からの施しはうけねぇっつうのは毒があるからとかを疑ってか?」
「ぶっは! あんたどこのお偉いさんよそれ!? 毒殺とか! まぁそれも一つになるかもね。でもまぁ人ってさ、一番見られたくないのってきっと自分の寝顔と性に溺れてる姿だと思うわけ」
「つまり世のアベックどもはとんでもねぇマゾっつうことか」
「菊之助さんよ、すましたお顔でとんでもなく斜め上なこと言うのやめて。んー、それは大丈夫なほどその人を愛してるってことじゃないかしら」
「そうか」
「そうであります」
「本当にお前は言葉遣いが安定しねぇな……ん、ちょっと待てよ朧」
「なぁに菊之助」
「つまりおめぇは……その、俺とそういう……性に関することをして、寝顔もそれとともにいつも俺に見られて、それは俺もだが、平気っつうことは」
菊之助の言葉に月夜はにっこりと笑う。そう言って月夜は残りの一口となったパンを一気に口の中に放り入れ、彼より先に完食した。
「そうでっす! 朧月夜さんは弁天菊之助くんが大好きなのでっす!」
「なら何で、おめぇは俺の隣でメシ食いながらさっきみたいな話した」
月夜は笑顔のままだった。菊之助はその変わらない笑顔を見て数回瞬いた後、目を伏せながら溜め息を吐いた。
「ああ、なるほどな、理解した」
「あり? バレちった?」
「まったくおめぇは本っ当にめんどくせぇやつだ」
「それをあんたが言っちゃう?」
月夜は笑った。
「そーいやさ、菊之助」
「何でぃ」
「人間の三大欲求ってあるじゃないの。睡眠欲と、食欲とあと性欲」
「ああ、そうだが、だがそれがどうした」
「人ってさ、その三つは生きるために必要だけど……あ、性欲は生きるというか子孫を残すためか。まあ人間には必要事項じゃない? でも睡眠と性欲って、大嫌いなやつと一緒にいるときはできないの。身体的にはともかく、精神的には特に。でも逆に食欲ってカンケーないのよ。大嫌いな奴は隣だろうか正面だろうが食事をとることができる」
ぎぎぎっ、ばりっ。隣から聞こえてくる音に、菊之助はそちらへ視線を向けた。小粒の白い歯が太いソーセージとキャベツを挟んだフランスパンを食いちぎっている。以前テレビ番組で見た「我が子を食らうサトゥルヌス」を思い出していた。さすがに絵画の題名自体は後の授業内容で思い出したが、その時は海外にこういう絵があった気がすると考えた。
違いといえば薄暗い口内に飲み込まれるのは幼子ではなくパンであり、その口の持ち主は恐ろしげに目を見開いた男ではなく、嬉しそうに目を細める娘だということである。もぐもぐとしばらく咀嚼して、嚥下し、再び口を開く。
「そんで、えーっと、今一うまく言葉にできないんだけど……んと、そりゃ嫌いな相手が用意した食事は食べたくないけど、でも自分が用意したごはんがあれば、そんで腹減ってたら気にせず食べるでしょ」
「嫌いな相手からの施しはうけねぇっつうのは毒があるからとかを疑ってか?」
「ぶっは! あんたどこのお偉いさんよそれ!? 毒殺とか! まぁそれも一つになるかもね。でもまぁ人ってさ、一番見られたくないのってきっと自分の寝顔と性に溺れてる姿だと思うわけ」
「つまり世のアベックどもはとんでもねぇマゾっつうことか」
「菊之助さんよ、すましたお顔でとんでもなく斜め上なこと言うのやめて。んー、それは大丈夫なほどその人を愛してるってことじゃないかしら」
「そうか」
「そうであります」
「本当にお前は言葉遣いが安定しねぇな……ん、ちょっと待てよ朧」
「なぁに菊之助」
「つまりおめぇは……その、俺とそういう……性に関することをして、寝顔もそれとともにいつも俺に見られて、それは俺もだが、平気っつうことは」
菊之助の言葉に月夜はにっこりと笑う。そう言って月夜は残りの一口となったパンを一気に口の中に放り入れ、彼より先に完食した。
「そうでっす! 朧月夜さんは弁天菊之助くんが大好きなのでっす!」
「なら何で、おめぇは俺の隣でメシ食いながらさっきみたいな話した」
月夜は笑顔のままだった。菊之助はその変わらない笑顔を見て数回瞬いた後、目を伏せながら溜め息を吐いた。
「ああ、なるほどな、理解した」
「あり? バレちった?」
「まったくおめぇは本っ当にめんどくせぇやつだ」
「それをあんたが言っちゃう?」
月夜は笑った。
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