クリスマス掌編(1/3編集)

狂言巡

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ROSE-SKY

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 クリスマスキャロルの書籍に目を通していた黒松歌留多くろまつかるたは、そっと嘆息する。
 彼女がいるのは四季学園の音楽室。
 あと一ヶ月後に迫った、クリスマス礼拝での独唱のための曲選びのために、ここ数日通い詰めであった。
 それも、やっと今日、決定した。
 顧問が戻った後の音楽室で、一人ぼんやりしていたのだ。
 窓から見えるのは、街灯がぽつぽつと灯りはじめた街並み。
 そろそろ、夕闇に包まれる準備を始めている。
 冬独特の、色の濃い、薔薇色の空。
 かかる雲も、全て、同じ色に染まる。
 ほんのわずかな色の変化に、見ほれていたのだ。
 そこに、突然名を呼ばれ、びくりと痩せた肩が揺らめいた。
 振り向くと、いつもの友人が立っていて。

「終わった? 帰ろーよ」
「……待って無くても良かったのに」
「そう言わないでさー。ここのところ、歌留多と一緒に帰ってないからさー。顔が見たくなったんだよ」
「相変わらずの物好きね」

 氷上恵毘守ひかみえびすはとことこ隣にやってきて、歌留多の視線を追う。
 そして、気づいたか。

「……あー綺麗だね……」

 その言葉に、視線を隣の友人に、夕映えがかかる。
 その凛とした横顔が眩しかった。
 思わず目を細め、視線を戻す。

「あ、そういえば何歌うの? 今年」
「あめにはさかえ」
「宮沢賢治の?」
「馬鹿ね、それは『雨ニモ負家ケズ』でしょ……。私が歌うのは代表的なクリスマスの讃美歌。イエス・キリストが馬小屋で生まれた時、その土地で野宿をしていた羊飼い達は寝ずの番で羊を見守っていた。そこへ突然天使が現れ、暗がりを神の眩しい程の栄光で照らした。この後に、天から天使の軍勢が現れて、神様を賛美したのが賛美歌九十八番。イエス・キリストの誕生を讃える言葉の「いと高き所には栄光、神にあれ。地には平和、主の悦び給ふ人にあれ」からきている讃美歌よ。今回はその日本語訳の方だけど……」
「ふぅん。ね、歌ってみてよー」
「わかってないでしょ……それに、まだ練習してないから嫌よ」
「ケチー。……じゃ、一番最初に聞くのは僕ねー。予約しとく♪」
「だから、アナタは本当に、」
「歌留多の声は優しいから好きなんだー」

 その言葉にため息をつきながらも、胸の中が暖かくなった。
 薔薇色の光に頬が染まる。
 ふと恵毘守が小指を差し出してきた。
 子供かと内心思いつつも、歌留多はおずおずとその痩せた小指を差し出していた。

(――色褪せないこの曲を、誰かに伝えたい。歌う時の私は、いつも笑っていられるのだろうか)
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