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勇者の休息
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スピカは固いがそれなりに広さのあるベッドに身を寄せて、空いた隣のシーツをぽんぽんと叩いた。アーサーはそれに倣い、ゆっくりと横たわる。今だけは強がりは身を潜め、素直だった。取り繕える余裕もない精神状態なのは、痛い程に感じていた。普段は魔物から民を守る勇者だが、心根は寂しがり屋なのは最近知った。成長するにつれて棘にぐるぐるに囲まれてしまった心の中に仕舞い込まれた、その柔らかで純粋な心根は今になってこんなにも揺らいでいる。それを、癒してあげたかった。むずがる赤子のように頭を撫で、抱き締めて、何も怖い事はないと囁きたかった。この場しのぎの戯れだとしても。明日の見えない今だけでも。
そっと背中や肩を撫でさする。馬鹿にするなと怒られるか、不機嫌になってそっぽを向いてこの部屋を出ていかれるか。そう覚悟しても、アーサーはスピカが想定した選択肢のどれも選ぼうとはしなかった。彼は素直に頭を持ち上げ、更に身を寄せ、スピカの胸元へと顔を埋める。窮屈そうに身を丸め、脚を内に折り曲げて、まるで巣の中で縮こまる雛のように。
(あぁ! あぁ!)
スピカは泣きたくなった。こんなにも彼は身内でもない自分に弱みを見せている。それ程にまで追い込まれている。背中を撫でると、アーサーは深々と息を吐いて更にスピカの胸へと額を押し付けた。言葉に出したら、それは真実になってしまう。強さを約束されて重責を背負わされた勇者は、まだたったの十六歳だというのに。弱音くらい、時おり好きなだけ吐かせてやっても良いというのに。運命とは何と残酷なものなのだろう。
そっと背中や肩を撫でさする。馬鹿にするなと怒られるか、不機嫌になってそっぽを向いてこの部屋を出ていかれるか。そう覚悟しても、アーサーはスピカが想定した選択肢のどれも選ぼうとはしなかった。彼は素直に頭を持ち上げ、更に身を寄せ、スピカの胸元へと顔を埋める。窮屈そうに身を丸め、脚を内に折り曲げて、まるで巣の中で縮こまる雛のように。
(あぁ! あぁ!)
スピカは泣きたくなった。こんなにも彼は身内でもない自分に弱みを見せている。それ程にまで追い込まれている。背中を撫でると、アーサーは深々と息を吐いて更にスピカの胸へと額を押し付けた。言葉に出したら、それは真実になってしまう。強さを約束されて重責を背負わされた勇者は、まだたったの十六歳だというのに。弱音くらい、時おり好きなだけ吐かせてやっても良いというのに。運命とは何と残酷なものなのだろう。
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