ちょっと怖い話(6/26更新)

嫉妬

　恋人に怪異がとり憑いた。何でも兄の友人（以下、武明）のアルバイトを手伝った結果、廃屋に不法廃棄されていた金魚を弔ったところ、懐かれてしまったのだとか。武明の無駄に広い人脈を活かして憑き物落としに診てもらったが、害意はなく数日すれば自然に成仏するという。
　肌に魚の鱗のような物が浮かび上がるという不気味な現象を目の当たりにしているというのに、恋人は「タトゥーみたいですね」と呑気なものだ。死んでも元は魚だからなのか、入浴の間は肌から離れるという。肉体がないので入浴剤が入っていても悠々と浴槽を泳ぐ金魚は幻想的だと自慢気に語る恋人の首根っこを引っ掴み、筒鳥世恵つつどりせっけいは湯を張った浴槽に着の身着のままの恋人を突っ込んだ。びちびちと餌を撒かれた池の鯉のように跳ねる金魚を無言でバスソルトを袋ごとぶちまけて――。

「刺身にされるかと思ったわ」

　後日、そう幼馴染みにぼやいた歌留多の顔は物騒な言葉とは裏腹に赤かった。