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桐壺紫蘭の誕生日2
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冬休みと云えど、日曜日と云えど、世間がイベントモードに入っていると云えど。恵毘守と紫蘭の部活動はしっかりと存在する。三連休最終日は午前中の活動のみで終った。着替えを済ませて外へ出ると生徒達は、自然とクリスマスやそれに関する話題で持ちきりだ。大体家族と過ごすのが大半で、彼女も例外では無いと思うのだけど。恵毘守は紫蘭を見やる。年中無休で無表情で居るんじゃないかと思う紫蘭を見て、頬がゆるむ。正確には彼女が着けているマフラーを確認してだ。去年まで自分のものだった。
「紫蘭ちゃんはさ、誕生日もクリスマスも同じ月だからすごいね」
「何がどういう風に、凄いというのですか」
「いや、だからその、おめでたい事が続くなあって」
「君の頭ほどでもないですよ」
紫蘭のヒンヤリした態度は前世が雪の女王だったのだろうかと恵毘守は思う。前回の誕生日と違って、彼女は紫蘭への贈り物を用意していなかった。何にすればいいのかわからなかったのだ。悩んだ挙句とっておきのDVDをと思ったがおそらく、いやきっと相手にされない。
「サンタさんに何をお願いした?」
「していません。……恵毘守君の家にはサンタクロースがくるんですか?」
「信じるよ、実在の人物じゃないにしても贈り物だなんて素敵だと思う。贈り物は別に物だけじゃないんだしさ、毎日毎日よい子の紫蘭ちゃんには何を贈ろうかな……ってね」
「南十字星」
「え?」
「……南十字星が見たいです」
突然のお願い事に恵毘守は止まった。すぐさま人通りが滞りますとコートを引っ張られる。南十字星を日本でも見る事が出来るとテレビで見た事があるが、たやすい事ではない。まさか、試されているのか果ては冗談なのか本気中の本気なのか。表情を変えない紫蘭から伺い知る事が出来ない。星を見たいだなんてとてもロマンチストだと思う反面、希望するものを直ぐに贈れないもどかしさがあった。滅多にないだろう紫蘭のリクエスト。どう回答すればいいのかと考えた。
「真に受けないで下さい、言って見たかっただけですよ」
「……難しいだけの話さ」
「星が無理なら、」
ネクタイを掴まれる。ぐいと引き寄せられ(一瞬息が詰まったのは言うまでもない)あろう事かカッターシャツの中に冷たい手を入れられた。
「これ、」
シャツの中から引っ張り出されたのは、恵毘守が祖母から誕生日プレゼントにもらった、流れ星を模したネックレス。
「こういうので、いいですよ」
ふいとすぐに顔が背けられたが、恵毘守は彼女の頬が紅く染まった事を見逃さなかった。偶然窓に映ったその色は薄まらない。――ああ、これも彼女の望みなんだ。
「紫蘭ちゃんの好きな、星の代わりになるかな」
「努力しなさい」
冷たい彼女の手に、未使用のカイロを押し込んだ。ココロのあたたかさが止まらない。陽が当たって溶ける雪のように、心まで蕩けてしまうそうだ。
「紫蘭ちゃんはさ、誕生日もクリスマスも同じ月だからすごいね」
「何がどういう風に、凄いというのですか」
「いや、だからその、おめでたい事が続くなあって」
「君の頭ほどでもないですよ」
紫蘭のヒンヤリした態度は前世が雪の女王だったのだろうかと恵毘守は思う。前回の誕生日と違って、彼女は紫蘭への贈り物を用意していなかった。何にすればいいのかわからなかったのだ。悩んだ挙句とっておきのDVDをと思ったがおそらく、いやきっと相手にされない。
「サンタさんに何をお願いした?」
「していません。……恵毘守君の家にはサンタクロースがくるんですか?」
「信じるよ、実在の人物じゃないにしても贈り物だなんて素敵だと思う。贈り物は別に物だけじゃないんだしさ、毎日毎日よい子の紫蘭ちゃんには何を贈ろうかな……ってね」
「南十字星」
「え?」
「……南十字星が見たいです」
突然のお願い事に恵毘守は止まった。すぐさま人通りが滞りますとコートを引っ張られる。南十字星を日本でも見る事が出来るとテレビで見た事があるが、たやすい事ではない。まさか、試されているのか果ては冗談なのか本気中の本気なのか。表情を変えない紫蘭から伺い知る事が出来ない。星を見たいだなんてとてもロマンチストだと思う反面、希望するものを直ぐに贈れないもどかしさがあった。滅多にないだろう紫蘭のリクエスト。どう回答すればいいのかと考えた。
「真に受けないで下さい、言って見たかっただけですよ」
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「星が無理なら、」
ネクタイを掴まれる。ぐいと引き寄せられ(一瞬息が詰まったのは言うまでもない)あろう事かカッターシャツの中に冷たい手を入れられた。
「これ、」
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「こういうので、いいですよ」
ふいとすぐに顔が背けられたが、恵毘守は彼女の頬が紅く染まった事を見逃さなかった。偶然窓に映ったその色は薄まらない。――ああ、これも彼女の望みなんだ。
「紫蘭ちゃんの好きな、星の代わりになるかな」
「努力しなさい」
冷たい彼女の手に、未使用のカイロを押し込んだ。ココロのあたたかさが止まらない。陽が当たって溶ける雪のように、心まで蕩けてしまうそうだ。
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