その奇蹟に喝采を2(12/26編集)

狂言巡

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大瀧朝凪の誕生日

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 校門の桜並木はすっかり葉桜になっていた。見上げた空は威圧感のない青色で、コートの緑が鮮やかに映る。朝練が終わって、制服に着替えている少女――大瀧朝凪おおたきあさなぎは、十七年前の今日この日に生を受けた。風が暖かくて午前の授業は体育以外すっかり眠りこけてしまった。バレずに眠る術を覚えてしまうのは学生としては致命傷だが。眠い時に眠りお腹が空けば食べる、そんな朝凪にとっては『ラッキー』でしかなかった。
 もう弁当は食べ終わっているし、昼休み教室にいると同輩後輩問わずに(九割は女子)いくつものプレゼントを押しつけられるのは目に見えているので彼女は席を立った。プレゼントが要らないワケじゃない、いちいち相手するのが面倒なだけなのだ。教室から自分の姿が消えてれば皆机の上に置いていくだろうから、プレゼントは手に入るし相手はしなくてイイし万々歳だ。そう思って行き先は屋上に決めた。そして手早く携帯電話を取りだしてメモリダイヤルを探る。もう無意識でも呼び出せるほど使っているので、さほど時間も掛からなかった。

「『屋上いるから、来い』」

 たったそれだけの文面メールを送りつけた。

「おー来た来たっ! こっちこーい」

 開いた扉と共に待ち望む姿を発見した朝凪は、柵の下――グラウンドに向けていた体を後輩の黄桜梅園きざくらうめぞのに向け、右手を大きく振った。梅園は小さく手を挙げてそれを受け、小走り気味に朝凪へ近づいてくる。

「どこの屋上にいるのかぐらい書いといてくださいよ……まあ、今回は一発だったから良かったですけど」
「お前初っ端がソレってどうよ。もっと大事な台詞があんだろーが!」

 隣に来た彼の少し低い頭部をぐりぐりと撫で回して、顔をうんと近づけた。

「お誕生日おめでとうございます」

 梅園は小さなため息をついて、言った。朝凪はしょーがねーなとでも言うように手を離すと、それをそのまま彼に突きつけた。端整な顔にでかでかと『くれ』とでも書いてありそうな程ストレートは要求に、さっきよりもずっと深いため息をついて紙袋を差し出した。

「ここで取り出していーか?」
「ご自由に」

 紙袋から梱包を取り出して、重さを確かめるように持った。プレゼントは薄い水色の包み紙に、真っ赤な細いリボンが丁寧に巻かれている。重さは上々。梅園の性格からしてお菓子或いは嵩張らない雑貨でも包まれているんだろうと、朝凪は満足してそれを紙袋に戻した。

「サンキュ梅園。まぁ、この日のアタシにしてみりゃあこんぐれー当然の権利なんだけどな」
「あーそうですか。……全くもう、貴女は貰うためだけに呼び出したんですね」

 呆れた口調でも梅園の表情はとても優しくて、少なからず朝凪はドキマギした。ふと、プレゼントをもらうだけじゃつまんねぇなという思いに駆られる。きっと今教室に戻れば結構な量のプレゼントが机に積まれているんだろう。そんな多数のプレゼントと今梅園に貰ったばかりのこのプレゼントは全く意味が違うのに、貰って帰るだけじゃ同じ価値になりそうな感じが妙に気に入らない。朝凪はおもむろにさっき戻したばかりのプレゼントを出した。

「今食べるんですか」

 梅園はきょとんとした表情のまま朝凪を静かに見守っている。プレゼントからしゅるっとリボンを外して、その皺を真っ直ぐに伸ばした。そして梅園に向き直って、「左手」と一言。

「お前はアタシにとって別格だかんな。お返ししてやるよ」

 左手の薬指にふわりと赤いリボンを巻けるだけ巻いて、慣れない手つきで蝶を止まらせた。梅園は、まさか朝凪の口から「お返し」何て出てくるとは思っておらず、呆然と為すがままになっていた。結び終えた赤いそれはとても不格好なカタチになっているが、朝凪は満足そうに笑って蝶に口付けた。

「いつかちゃんとココに指輪をはめてやる、期待してろよな」

 満更でもない。そう思ってもう一度「誕生日、おめでとうございます」と梅園が言ったら照れくさそうに笑っていた。
 Happy Birthday Dear Оtaki Asanagi.
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