情愛ボトルキープ(1/5更新)

狂言巡

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沈黙/葵と暁

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 ふと、沈黙が落ちる。昔から二人でいると、こんな一時ひとときがよくあった。ただ黙って一緒にいるだけ。そんな気まずさのない時間だ。
 葵はそんな時間が、決して嫌いじゃなかった。たぶん、ヒカルも。ヒカルが葵の手を両手で包み、撫でたり指をなぞったりしながら、ぼんやり窓の外を眺めている。
 静かで穏やかな時間。こうやっていると、ずっと一緒にいたみたいだ。昨日再会した事が嘘みたいな気がしてくる。
 葵に寄りかかるヒカルの頭に顔を寄せ、スンと匂いを嗅ぐ。それだけで、匂いに紐付いた記憶が頭の中に溢れる。
 使っている洗剤やシャンプーは違うはずなのに、あの頃と同じヒカルの匂いがする。不思議だ。記憶に染み付いた懐かしい匂い。ヒカルの匂いと躰の重み、温度を感じながら、あの頃の事、これからの事、色んな事に思いを巡らせる。そして昨夜の事も。
 貸したTシャツの襟ぐりから覗くヒカルの肌に、葵が付けた鬱血が散らばっている。徹夜が向いていないヒカルが寝落ちした後、マーキングのつもりでこっそり色んなところに痕を付けた。気付いただろうか。おそらく、気づいていないだろう。
 嗚呼、駄目だ。せっかく穏やかな時間を過ごしているのに。ヒカルを見ていると、昨夜の痴態を思い出して、また我慢できなくなりそうだ。今日はヒカルの話を聞きたい。冷静になりたくて、煙草を取り出して立ち上がろうとした葵の膝にヒカルが頭を乗せてきたので、なけなしの自制はすぐに頓挫した。
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