ちょっとFな話(2/11更新)

狂言巡

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魔物王子と生贄姫

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 とあるA国とB国の境にある洞窟には魔物が住んでいると有名だった。そこに生贄としてA国の末姫がお付き者数人を洞窟の前に放置された。人を食うと恐れられている洞窟の魔物は亡国の皇子で、兄が神の祠を壊した咎で一族ともども魔物になる呪いをかけられていた。皇子以外の一族は自暴自棄になり、他の国を壊して退治されて死に絶えたが、王子は魔物になっても心優しく、洞窟でひっそりと暮らしていただけだった。

 今までの生贄は自力でどこかに逃げて行ったが、目の前にいるのは十にも満たぬ幼姫と年老いた家来が数人。森を抜けて出奔する力はなさそうだった。魔物は哀れに思い、少し成長するまで面倒をみる事にした。姫もお付きの者も魔物を恐れず、心を開いてくれた事もあり、家族のような関係を築いていった。皇子の呪いは「どんな姿になっても愛してくれる者にキスされれば解ける」ものだった。

 美しく成長した姫が兄のように慕っていた魔物を一人の異性を意識してキスをした時、魔物は元の美しい皇子の姿に戻る事ができた。姫も皇子も喜んだが、二人を祝福してくれたであろうお付きの者達は老衰で既に失くなっていて、戻れる国はないのでそのまま洞窟で暮らす事にした。

 姫には年の離れた姉姫が居たのだが、風の噂で「魔物が人に戻った。とても美しい青年だった」というのを耳に入れ、B国に嫁いでいたが愛人にしようと妹を殺して皇子を手に入れようとした。部下に命じて妹を何の躊躇いもなく蜂の巣にして、姉姫は洞窟に入り、失禁した。噂の美しい青年はおらず、姉の前には怒り狂う魔物が自分を睨み付けていた。呪いは「元に戻れるのは愛した者が生きている間だけ」という条件付きだったのだ。

 魔物は姉姫を踏み潰すと、妻の命を奪った家来を焼き殺し、妻の亡骸を食べ、妻の故郷であるA国も姉姫が嫁いだB国も完膚なきまでに滅ぼして、二度と洞窟から出て来る事はなかったという。今でも洞窟から魔物のような風ともとれるような哀しい声が聞こえてくるのだと、必ず洞窟がある森の前を通らなければいけないC国の商人はD国の人間に語っている。
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