学園奇譚集

狂言巡

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 パール・クガツは自室の異変に気付いた。筆立てに立てておいた筆が倒れている。棚に置かれた人形が右や左によっている。本棚の本が僅かに前に出ている。僅かな違いだが、部屋の配置が変わっているのだ。恋人、親友、それなりに親しい人物が忍び込んだのかと思ったが、恋人ならばもっと明確な変化があるし、親友はそんなヘマはしないだろう。この事を親友の祖母に相談してみた。

「おばけさんかねえ」

 成る程いわゆる騒霊現象ポルターガイストか。どうすれば見られるだろう。パールの好奇心を察したのか、駄菓子屋を営んでいる老女はアドバイスを授けてくれた。

「カチューシャちゃんのお部屋は畳かい? ああ床張りなんだ。それじゃあ一人の時、床に灰を撒いてみたら分かるよ」

 その次の日、早速灰を撒いて座って待つと、自分以外誰も居ないはずなのに足音がする。しかも、灰の上に足跡が一つ一つ増えていくが、当然部屋には自分一人。そして足跡が隅に置いてあったルンバに近づき、異物を感知したルンバは動き出す。それでも尚足跡は止らず部屋をうろうろし、ピタリ。パールの前で止まった。けれど息を潜めていると、ふと気配が消えた。白昼夢だったんだろうかと思ったが、部屋には三又の足跡が、たくさん残っている。

「大丈夫だよ、悪いものじゃないから」

 後でこの結果を親友の祖母に話すと、笑顔で応えられるのだった。





 ここ数日、赤ら顔の神父が校内を徘徊するようになった。人間ではない事は誰もが察していたが、害はないので誰も相手にしなかった。それが気に食わなかったのか、今度は学生寮に侵入してきた。

「すみませんなぁ、すぐ回収しに行かせてもらいますわ」

 寮長の五十嵐まゆみがそう返事を返すと、パッと姿を消した。

「あ、此処やね」

 鬱蒼とした森の奥、大木と背の高い雑草に囲われた林檎の木。真下には林檎の実がたくさん落ちていた。

元ネタ:タンタンコロリン





 網呂寿兵あじろじゅひょうの自室のすぐ傍に、一足の赤いハイヒールが揃えて置いてあった。女性陣に確認したが、自分の私物ではないという答えばかり。自分への貢物かと思ったが、ラッピングもなしに贈りつけてくる者など論外だ。仕事を終えて部屋に戻った頃には消えていた。誰かが回収したのだろう。そう結論付けてすぐに忘れたのだが。
 数日後、部屋を出ると記憶のある色が目に飛び込んでくる。あの赤いハイヒールだ。またかと思ったが、それ以上の感想が出る事はない。誰かが足を入れたかもしれない履物に触れる気もなかった。それを何度か繰り返された時のこと。

「……アンタもこりないわねぇ」

 数回目となる邂逅を果たし、寿兵が肩を竦めて呟いた時、ちょうど友人がこちらへ向かってくるのが見えた。

「何や、寿兵くん。かわい子ちゃんにめっちゃ気に入られたんやな」
「ふふ。モテるってある意味罪よねぇ。でも、ここまでアタシにぞっこんなら……いっそ、ほんとにアタシのモノにしちゃおうかしら♪」

 そう、ハイヒールに話しかけた瞬間。赤いハイヒールは、跳び跳ねるように走り去ってしまった。

「ふられちゃったみたいね」
「照れたんやろ、寿兵さん別嬪やさけ」

 今でもときどき、赤いハイヒールが寿兵の自室付近に現れるのを友人や他の生徒も見かけている。別に諦めたわけではないようだ。





 自室で読書していた白雪は、ふと伸びをした時、後ろに陽炎春猫がいる事に気づいた。驚いたが先輩の突拍子もない行動はいつもの事で、白雪は備え付きの冷蔵庫からジュースを取り出し、他愛もない話を暫らく交わしていた。

「白雪、一緒に茶を飲まないか」

 春猫が扉を開けた。手には急須と二つの湯呑が乗った盆。どういう事だ、彼女は数分前から自分の前に……ハッと視線を横から前に戻すと誰も居らず、ちゃぶ台に湯呑が一つ置かれているだけであった。後で湯呑を調べてもらったが「悪いものではない」という結果だったので、白雪は少しだけ迷ったが温かい物を飲む時はそれを使うようになった。時おり茶を淹れると鳥のような鳴き声がするのだと、白雪は友人に話している。
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