Miss.エッグの事情(9/16更新)

狂言巡

文字の大きさ
8 / 13

再会/エッグと怪人達

しおりを挟む
 再び出会ったのは、組織の工作員の一人が消息を絶った保養地の近くだった。垢抜けた美人で諜報には役に立つ女だったのだが、情報ごと消えたのだ。裏切りの可能性があるという事もあり、オニキスとスモーキーが調査と始末に向かったのだ。二人の前から走ってきたのが、髪をポニーテールにして無難なランニングウェアを着た、エッグの中身だった。スモーキーどころかオニキスまで目を見開いたのは、髪から服までベッタリと赤黒い血で汚れていたからだ。血の海で転びでもしたら、あんな姿になるのだろうが、本人はオニキスを見た途端に表情を明るくした。

「よかった! すみませんお金貸してください! 百五十円!」

 ――お前、他に言う事はないのか。出会い頭に金を無心された事は初めてだ。だが、以前の恩もある。金を出すと手がベッタリと血で汚れている気付いて困った顔をした。頬を赤く染め、走ってきた所為か額には汗が浮いている。どうにも自動販売機でペットボトルが買いたいらしく、スモーキーが代わりに買ってやると、ゴクゴク一気に飲み干した。

「何があったんだよ……」

 オニキスも知りたかった事をスモーキーが聴く。夏の清涼飲料水のCMにでも出てきそうだったが、それだけに血塗れの姿が異様さを増す。

「この先のキャンプ場のオーナーが理想のお嫁さんの生成に励んでてたらしくて。殺されそうになったから逃げてきました。一番近い民家で通報するところだったんです」

 予想外の答えに流石のオニキスも聞き返す事になった。近くの囲炉裏がある旅館に宿泊に来て、ジョギングをしていたらランニングコースのキャンプ場で殺されそうになったという。オーナーの男は美しいと評判の女を集めては殺して解体、繋ぎ合わせて理想の美女を作り上げようとしていたらしい。オニキスもスモーキーも同じ事を考えた。あの構成員は裏切ったのではなく、その犠牲になったのではないだろうか。だとすると、警察が来ると面倒だ。
 案内されたキャンプ場の管理人住居の地下は、有り触れた表現で言えば地獄絵図だった。バスタブは赤い液体で満たされ、床には人間の臓物や皮膚が散乱、天井から手足がぶら下がっている。修羅場に慣れているオニキスが眉を顰め、スモーキーは青褪めた程だ。そこに恐怖も躊躇いもなく突き進んだ女が積み上げられている死体の山を漁り、USBを探し出して、手渡してきた。『ほら私いい子でしょう?』と言わんばかりの笑顔だ。スモーキーはこの異常な光景と笑顔の一般人(仮)に飲まれていたので、代わりに受け取る。

「管理人はどうした」

 聞けば、指で示された先に、斜めに切られた竹に男(半裸エプロン)が串刺しになっていた。

「お前が仕留めたのか」
「違います。追いかけてきたから、後ろに回って突き飛ばしただけです。警察には逃げたら叫び声が後ろで聴こえたって言いますね。あ、借りたお金なんですが、今は返せません」

 自分達の事を内密にするのは英断だと思うが、他に言う事ないのか。

「ボス、コイツはその……」

 スモーキーが後ろから、哀れみとも恐れともつかない声をかけてくる。

「金はいい、この前の礼だ」

 そう言えば納得した様子だった。キャンプ場から出る道すがら、死んだ部下の穴埋めがいると考えて勧誘すれば、怪人でもなかなかしないような表情になる。ゾッとするような狂気が齎す妖艶さが、魂を絡め取る程の引力を放つ。身構えて銃に手を伸ばしたがすぐに韜晦するように笑顔で「健康で文化的な最低限度の生活に満足しております」と断ってきた。こんな血塗れのクセに、何を真っ当な事を言うのやら。スモーキーさえ哀れみを抱くわけだ。おそらく、彼女には狂っている自覚がない。いや、狂っているのが状態フツウなのだ。
 それから数時間後。日本では珍しい大量殺人、しかも犯罪史を更新する猟奇殺人とあっては、注目が集まらないはずもない。三人が立ち去った後、その地区はマスコミと警察が大挙して押し寄せた。テレビはそのニュース一色で、マスコミはヘリで上空から撮影する熱の入れようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...