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「この前の夏休み、留学中に仲良くなった友達のヨイチの家に泊まりに行ったんだ。…最初にひとつ言いたいんだが、ジャパンホラーはなんで、あんな後からじわじわネチネチ来させるものが多いんだよ? その場だけでギャーっとみんなで盛り上がれればそれでいいじゃねーか!」
「家のトイレさえ行けなくなったりバスタイムに目をつぶるのがコワくなったり、ひどいときはマイハウスの中でのザ・エデン、ベッドの中すらコワイなんてことにもなるんだぜ! あれはもう立派な精神的攻撃だよ!ん? い、いや違うぞ、別にオレがそうなったってわけじゃないからな。アメリカンからみた一般的な感想を述べさせてもらっただけだからな。HAHAHA……。ごめんごめん、話の続きをさせてもらうぜ」
アンドリュー・G・ケントはその夜、誉一の家のテレビで『現実にあった恐い話』という面白そうな番組を見ていた。その中に、引っ越した先の家の納戸を部屋に改装したら、鏡やガラスに血まみれの女性の霊が映るようになってしまった……という展開の話があった。やたらリアルでおどろどろしかった。
「だってちょっと想像してみてくれよ。家に帰って、手や顔を洗って、一息ついて……ふっと顔を上げたら『目が合う』んだぞ」
中でも、その霊が一度だけ、血まみれではなくて真っ青で無表情だったり、苦しそうな顔でガラスにうつるシーンがあってね。演出だって判ってはいたが、その無表情がものすごくコ恐ろしかった。血まみれとか首がないという方が、まだ理解りやすくて演出だとすぐ納得できるのだが。それで、誉一が途中でこんなことを言い出した。
「鏡や硝子というのは、反転した世界を映すものだ。つまり一種の異世界といっても過言ではない。だから時たま「ああいうモノ」が紛れ込むのだろう……でも実際、あんな風にあからさまに映るわけがないよねぇ」
アンドリューも少しホッとして答える。
「まったくもって同感だよ、ナンセンスだね!」
「後ろに何かいる、と感じて、振り向くとするだろう? 何もいないよね。いるはずがない」
当たり前だろ、いたら困るぞ! そう言いかけたアンドリューに、誉一は少し首を傾げて、不気味な感じで笑ってこう言い放った。
「後ろじゃなくて君の上にいるんだから」
「Oh no……It’s scary! 冗談じゃねーよ! 今日は一緒に寝てもらうからな!」
思わずそんな事を喚いた。
「ただの冗談だよ」
誉一は慌てて、まるで子供をあやすみたいになだめはじめるものだから気まずい思いをした。
「……まったく、オレの名前に似つかわしくない失態を見せてちまったぜ。知ってるヤツもいるかもしれないけど、オレの名前はね、『勇敢な者』って意味がこめられてるのさ!」
それにしても、さっきの一瞬逆さまに映った女性の無表情! あの演出は特に怖かった。さすが世界もビビるジャパニーズホラーだな、その芸の細かさもいっそホラーだ。そんな感想を伝えると、今度は不思議そうに首を傾げて言った。
「そんなシーンはなかったよ」
またそんなおかしな事を言い出したんだ。HAHAHA、二度もその手には引っかからないぞ。あの青白さは特殊メイクで、単なる演出なんだろう! そしたら彼、珍しく少しムキになったようで。
「この番組について私の記憶に間違いがあるわけない」
アンドリューは全然知らなかったのだが、誉一はなぜかしっかり録画までしていた。……だからイヤイヤながら見直す事になってしまった。そして、彼の言った通り、あのシーンがやってこない。
「ほら、メイクは一貫して血糊仕様じゃないか」
何度見直しても、見つからなかった。アンドリューが一番恐怖を覚えた、あの、無表情の女性。じゃああれは何だったというんだ。
「――鏡や硝子は、反転した世界を映すだろう。つまり一種の異世界だ。だから時たま「ああいうモノ」が紛れ込むのだろう」
よく考えたら、反転した異世界を映すのは、何も鏡や硝子だけに限った事ではない。テレビの画面、パソコンの画面、携帯電話の画面。テレビ番組やネットコンテンツ、それらだって一種の異世界ではないのだろうか。
「……ヨイチがあのとき言ってたことが本当だったなら、その異世界から断絶するほんの一瞬、暗くなった画面に、何かが紛れ込むことってありえるんじゃないか? ほら、今そこに映っているお前だって違う世界の『なにか』じゃない、なんて……きっと神様にだって、保証出来ないんだろうな」
語り終えた青年が、ふっと自分の灯りを消す。
天井にゆらゆら浮かんでいる人影。誰かの影が反転して映っているのだろうか。
「家のトイレさえ行けなくなったりバスタイムに目をつぶるのがコワくなったり、ひどいときはマイハウスの中でのザ・エデン、ベッドの中すらコワイなんてことにもなるんだぜ! あれはもう立派な精神的攻撃だよ!ん? い、いや違うぞ、別にオレがそうなったってわけじゃないからな。アメリカンからみた一般的な感想を述べさせてもらっただけだからな。HAHAHA……。ごめんごめん、話の続きをさせてもらうぜ」
アンドリュー・G・ケントはその夜、誉一の家のテレビで『現実にあった恐い話』という面白そうな番組を見ていた。その中に、引っ越した先の家の納戸を部屋に改装したら、鏡やガラスに血まみれの女性の霊が映るようになってしまった……という展開の話があった。やたらリアルでおどろどろしかった。
「だってちょっと想像してみてくれよ。家に帰って、手や顔を洗って、一息ついて……ふっと顔を上げたら『目が合う』んだぞ」
中でも、その霊が一度だけ、血まみれではなくて真っ青で無表情だったり、苦しそうな顔でガラスにうつるシーンがあってね。演出だって判ってはいたが、その無表情がものすごくコ恐ろしかった。血まみれとか首がないという方が、まだ理解りやすくて演出だとすぐ納得できるのだが。それで、誉一が途中でこんなことを言い出した。
「鏡や硝子というのは、反転した世界を映すものだ。つまり一種の異世界といっても過言ではない。だから時たま「ああいうモノ」が紛れ込むのだろう……でも実際、あんな風にあからさまに映るわけがないよねぇ」
アンドリューも少しホッとして答える。
「まったくもって同感だよ、ナンセンスだね!」
「後ろに何かいる、と感じて、振り向くとするだろう? 何もいないよね。いるはずがない」
当たり前だろ、いたら困るぞ! そう言いかけたアンドリューに、誉一は少し首を傾げて、不気味な感じで笑ってこう言い放った。
「後ろじゃなくて君の上にいるんだから」
「Oh no……It’s scary! 冗談じゃねーよ! 今日は一緒に寝てもらうからな!」
思わずそんな事を喚いた。
「ただの冗談だよ」
誉一は慌てて、まるで子供をあやすみたいになだめはじめるものだから気まずい思いをした。
「……まったく、オレの名前に似つかわしくない失態を見せてちまったぜ。知ってるヤツもいるかもしれないけど、オレの名前はね、『勇敢な者』って意味がこめられてるのさ!」
それにしても、さっきの一瞬逆さまに映った女性の無表情! あの演出は特に怖かった。さすが世界もビビるジャパニーズホラーだな、その芸の細かさもいっそホラーだ。そんな感想を伝えると、今度は不思議そうに首を傾げて言った。
「そんなシーンはなかったよ」
またそんなおかしな事を言い出したんだ。HAHAHA、二度もその手には引っかからないぞ。あの青白さは特殊メイクで、単なる演出なんだろう! そしたら彼、珍しく少しムキになったようで。
「この番組について私の記憶に間違いがあるわけない」
アンドリューは全然知らなかったのだが、誉一はなぜかしっかり録画までしていた。……だからイヤイヤながら見直す事になってしまった。そして、彼の言った通り、あのシーンがやってこない。
「ほら、メイクは一貫して血糊仕様じゃないか」
何度見直しても、見つからなかった。アンドリューが一番恐怖を覚えた、あの、無表情の女性。じゃああれは何だったというんだ。
「――鏡や硝子は、反転した世界を映すだろう。つまり一種の異世界だ。だから時たま「ああいうモノ」が紛れ込むのだろう」
よく考えたら、反転した異世界を映すのは、何も鏡や硝子だけに限った事ではない。テレビの画面、パソコンの画面、携帯電話の画面。テレビ番組やネットコンテンツ、それらだって一種の異世界ではないのだろうか。
「……ヨイチがあのとき言ってたことが本当だったなら、その異世界から断絶するほんの一瞬、暗くなった画面に、何かが紛れ込むことってありえるんじゃないか? ほら、今そこに映っているお前だって違う世界の『なにか』じゃない、なんて……きっと神様にだって、保証出来ないんだろうな」
語り終えた青年が、ふっと自分の灯りを消す。
天井にゆらゆら浮かんでいる人影。誰かの影が反転して映っているのだろうか。
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