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堪能
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「……僕はそんな欠食児童に見えるのかな?」
「はい」
数時間前に教授に言われた言葉を反芻しながら、冗談で聞いたつもりだった。けれども黒猫は存外本気の顔で肯定した。
「母と祖母の受け売りですが、美味しい物って愛情なんですよ。だから先輩はもっとパクパクいっぱい食べた方がいいんです。何でも食べてみましょう。私が知ってる美味しい物は何でも紹介しますし、食べたい時は一緒に探しましょう」
何を言われているのかさっぱり理解らない。けれども横から子供にするように頭をヨシヨシ撫でられるのは、不思議と悪い気持ちはしなかった。何より、躰の中からも外からも温かかった。
身も心も温められて初めて、世鷹はある事に気付いて、そして目を閉じた。
(ああ、ずっと)
(ずっとぼくは、さむかったんだなあ……)
もう深夜に近い。硝子が寒さに白く曇り、暖炉の中でもう半ば灰になった薪がうす赤い熾火になって燃えていた。愛犬を膝の上にのせて、サークルの部長は手酌をしながら妙に楽しそうに黒猫と世鷹のやり取りを見ている。世鷹も酔い潰れたふりをして黒猫の腕によりかかって、そっと目を閉じた。
兄弟と過ごす事以外で初めて感じた、温かな冬のひと時だった。
「はい」
数時間前に教授に言われた言葉を反芻しながら、冗談で聞いたつもりだった。けれども黒猫は存外本気の顔で肯定した。
「母と祖母の受け売りですが、美味しい物って愛情なんですよ。だから先輩はもっとパクパクいっぱい食べた方がいいんです。何でも食べてみましょう。私が知ってる美味しい物は何でも紹介しますし、食べたい時は一緒に探しましょう」
何を言われているのかさっぱり理解らない。けれども横から子供にするように頭をヨシヨシ撫でられるのは、不思議と悪い気持ちはしなかった。何より、躰の中からも外からも温かかった。
身も心も温められて初めて、世鷹はある事に気付いて、そして目を閉じた。
(ああ、ずっと)
(ずっとぼくは、さむかったんだなあ……)
もう深夜に近い。硝子が寒さに白く曇り、暖炉の中でもう半ば灰になった薪がうす赤い熾火になって燃えていた。愛犬を膝の上にのせて、サークルの部長は手酌をしながら妙に楽しそうに黒猫と世鷹のやり取りを見ている。世鷹も酔い潰れたふりをして黒猫の腕によりかかって、そっと目を閉じた。
兄弟と過ごす事以外で初めて感じた、温かな冬のひと時だった。
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