情欲の淵(2/28更新)

天竺葵の告解

　ソファで寝ている弟の頭を撫でると、膝に頭が乗せられた。甘えたいのかなと思ったが、大きな掌が腰から臀部を撫で、布地越しに押し当てられた。知識でしか知らないが、何となく判る。弟の青味がかった緑の双眸は熱っぽさを帯びていた。

「……え、お姉ちゃん、の事」
「もうそれはどうでもいい。好きに考えてろ。でもな、俺は男だ」
「……飛鷹と一緒や、アカンの」
「アンタが俺をどう定義してようが自由だ。でも俺が望んでる事は違う」

　つまり、肉欲を姉に抱いていて、近親相姦を希望しているという事だろうか。

「えぇー、と……」

　渚は対処に困る。嫌悪感を抱かない自分にも。いつも一緒にいてあげられないし、イワンだってフラッといなくなる。それでも賢くて可愛い、大切な自分の弟だ。彼の存在を完全に拒否してしまえば、取りあえずこの困惑からは解放されるが、何故かそんな事をする気にはならなかった。家族でいたいという渚の望みを拒絶したわけではない。『姉弟』であると同時に、血の繋がらない成人男性であるという事を自覚してほしいだけの話だ。

「……つまり性欲の対象として見ちゃーるさけ、セックスをお姉ちゃんとしたい？」

　端麗な顔立ちの青年は、苦虫を噛み潰したという表現がぴったりの表情で頷いた。