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続・再会/転移者と転生者
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鼻先に感じる香と思われる甘い匂いに、ヒカルはぼんやりと思考を巡らせる。どこかエキゾチックな気配のするそれは、この世界に転生してからはあまり嗅いだ事のなかったもので、酷く懐かしいような寂しいような気持ちにさせる匂いだった。布団の中なのだろう、いつの間にか上着は脱がされていてポカポカと温かいけれど、自分の知っている船の気配ではない。
何だか疲れていて、また眠ってしまおうかと思っていた時に唇に柔らかいモノが触れた。何だろうとは思ったものの、包み込まれた躰や背中を撫でる大きな手が心地よくてウトウトしていると、唇にまた何かが触れて「ヒカルちゃん」と誰かに名前を呼ばれた。低くてひんやりと冷たい男の人の声。
「……ヒカルちゃん」
昏くて静かな声に呼ばれた。のろのろとヒカルは瞼を開く。
「……おはよう、よく眠れたかな」
ミルクティー色の頭髪とグリーンの瞳、血が通っていないかのように青褪めて白い肌。どこかひんやりと冷たい夜の気配がする青年。目の前には『悪魔の商人』と呼ばれる男がいた。ほとんど唇が触れあいそうな距離に、一度しか会っていない男がいるというのに、泣き過ぎてぼうっとしている所為か、あまり恐怖心は感じなかった。どうも、腕枕をしながら添い寝をしてくれたらしく、大きな男の腕に包まれてぼんやりとしているヒカルの頬を長い指が優しく撫でる。
「ピチカートは……」
聞くとちょっと首を傾げてから、ベットからやや離れた椅子の上を示した。きちんと畳まれたヒカルの上着に包まってトコトコ族の彼女が気持ちよさそうに眠っていたので、ヒカルは安心した。
「疲れたならまだ眠っていていいよ。一人で寂しいのなら、傍に居るからね」
起き上がらないといけないのに、香の所為かどうにも起き上がる気にもなれないヒカルを制してシメオンが静かに囁く。その拍子に髪がさらさらと首筋に零れ落ちてきて、くすぐったくて身を捩ると硬い胸板に顔を埋める形になってしまった。男が僅かに息を呑む。何をどう解釈したのかヒカルの首筋に顔を埋めて、ぎゅうっと抱き締めてきた。何かを探すように首に鼻先を埋めながら、何度も何度もヒカルの名前を呼んで、ひんやりと冷たい手が服の裾から入り込む。ビクッと震えるヒカルをじっと見つめると、ぽつりと「愛している」と告げた。
「ヒカルちゃん、君の事が好きだ、愛している」
青味がかったグリーンの瞳が、初めて出会った時のようにじっと自分の答えを待っている。だけれど、ヒカルは初めて出会った時のように逃げ出したいとは思わなかった。シメオンの手に自分の手を重ねてみると、やはり自分の手よりずっと大きい。重ねた小さな白い手に、シメオンが小さく笑って指を器用に絡めた。それだけで熱い溜め息を吐く男に、ヒカルは胸がぎゅうっと締め付けられるような、悲しいような寂しいような嬉しいような、どうしようもない気持ちになる。
ヒカルの鼓動が早くなっていく。胸に手を置いたシメオンもそれは感じているのだろう。ユラユラと欲を孕んだ眼差しを投げかけて目を細めて、笑う。頭の芯がふわふわとして、頬が熱くてまるで夢を見ているみたいだ。
「あの、貴方は」
「シメオンだ、シメオン・フロガだ。そう呼んでくれ」
「……シメオンさん」
舌にのせて音を確かめるように、おずおずと口にした名前は小さなものだった。けれど、クロエの囁いた己の名前にシメオンは感激したようにぎゅうっと躰を抱き締めると、ふっくらとした唇を貪った。舌を差し込み、歯列を舐めあげて、咥内を蹂躙する。以前寝惚けたイヌ獣人(雌)にヤラレた時よりもずっと乱暴で欲に満ちていて、熱烈な口付けだったのに、何故かヒカルは全く抵抗しようという気が起きなかった。
「……ヒカル、ヒカル、愛してるッ」
大きな手が滑らかな子供の肌を這い回り、舌が首筋を舐め回して肌の匂いに溜め息を吐きながら指を絡めて、耳元で初めて会った時からこうしたかったと教えられた。
何だか疲れていて、また眠ってしまおうかと思っていた時に唇に柔らかいモノが触れた。何だろうとは思ったものの、包み込まれた躰や背中を撫でる大きな手が心地よくてウトウトしていると、唇にまた何かが触れて「ヒカルちゃん」と誰かに名前を呼ばれた。低くてひんやりと冷たい男の人の声。
「……ヒカルちゃん」
昏くて静かな声に呼ばれた。のろのろとヒカルは瞼を開く。
「……おはよう、よく眠れたかな」
ミルクティー色の頭髪とグリーンの瞳、血が通っていないかのように青褪めて白い肌。どこかひんやりと冷たい夜の気配がする青年。目の前には『悪魔の商人』と呼ばれる男がいた。ほとんど唇が触れあいそうな距離に、一度しか会っていない男がいるというのに、泣き過ぎてぼうっとしている所為か、あまり恐怖心は感じなかった。どうも、腕枕をしながら添い寝をしてくれたらしく、大きな男の腕に包まれてぼんやりとしているヒカルの頬を長い指が優しく撫でる。
「ピチカートは……」
聞くとちょっと首を傾げてから、ベットからやや離れた椅子の上を示した。きちんと畳まれたヒカルの上着に包まってトコトコ族の彼女が気持ちよさそうに眠っていたので、ヒカルは安心した。
「疲れたならまだ眠っていていいよ。一人で寂しいのなら、傍に居るからね」
起き上がらないといけないのに、香の所為かどうにも起き上がる気にもなれないヒカルを制してシメオンが静かに囁く。その拍子に髪がさらさらと首筋に零れ落ちてきて、くすぐったくて身を捩ると硬い胸板に顔を埋める形になってしまった。男が僅かに息を呑む。何をどう解釈したのかヒカルの首筋に顔を埋めて、ぎゅうっと抱き締めてきた。何かを探すように首に鼻先を埋めながら、何度も何度もヒカルの名前を呼んで、ひんやりと冷たい手が服の裾から入り込む。ビクッと震えるヒカルをじっと見つめると、ぽつりと「愛している」と告げた。
「ヒカルちゃん、君の事が好きだ、愛している」
青味がかったグリーンの瞳が、初めて出会った時のようにじっと自分の答えを待っている。だけれど、ヒカルは初めて出会った時のように逃げ出したいとは思わなかった。シメオンの手に自分の手を重ねてみると、やはり自分の手よりずっと大きい。重ねた小さな白い手に、シメオンが小さく笑って指を器用に絡めた。それだけで熱い溜め息を吐く男に、ヒカルは胸がぎゅうっと締め付けられるような、悲しいような寂しいような嬉しいような、どうしようもない気持ちになる。
ヒカルの鼓動が早くなっていく。胸に手を置いたシメオンもそれは感じているのだろう。ユラユラと欲を孕んだ眼差しを投げかけて目を細めて、笑う。頭の芯がふわふわとして、頬が熱くてまるで夢を見ているみたいだ。
「あの、貴方は」
「シメオンだ、シメオン・フロガだ。そう呼んでくれ」
「……シメオンさん」
舌にのせて音を確かめるように、おずおずと口にした名前は小さなものだった。けれど、クロエの囁いた己の名前にシメオンは感激したようにぎゅうっと躰を抱き締めると、ふっくらとした唇を貪った。舌を差し込み、歯列を舐めあげて、咥内を蹂躙する。以前寝惚けたイヌ獣人(雌)にヤラレた時よりもずっと乱暴で欲に満ちていて、熱烈な口付けだったのに、何故かヒカルは全く抵抗しようという気が起きなかった。
「……ヒカル、ヒカル、愛してるッ」
大きな手が滑らかな子供の肌を這い回り、舌が首筋を舐め回して肌の匂いに溜め息を吐きながら指を絡めて、耳元で初めて会った時からこうしたかったと教えられた。
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