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第198話 父と母の愛
しおりを挟む「いやぁ、今日も疲れた疲れた。にしても大変だねぇ若者は。年を取ったおじさんには気が重すぎるよ」
「……まだ貴方は若いでしょう父上。それになに母上も父上を甘やかしてるんですか。やめてください、恥ずかしいです」
「いいじゃない。こうやってまたバロスに行けるかなんて分からないじゃない。だったら今のうちに楽しまなきゃ」
「……それは家でもやれると思いますよ?」
ラーナとルシアとのスイカ割りは無事終わり、今はやっとお昼になったということで俺は父上と母上とともに久しぶりにご飯を食べていた。
ソフィア達はどこかに行ったのか、まだここには戻ってきてはいない。
それはいい。それはいいが……目の前自身の親のイチャイチャを見せられながら食べるのだけはどうにか出来なかったのか?
「……それに」
箸で掴んだ細い食べ物……焼きそばもどきを見て俺は何故か原作の妙な再現っぷりに乾いた笑いが出るほかなかった。
なんでこの世界はこんな……しかも味もまぁまぁ美味いのが実に気に食わん。
「あ、アクセルそれ嫌いなの?だったら私にくれないか?」
「なにさり気なく息子の昼ご飯取ろうとしてるんですか。あげませんよ」
「えぇ、それ好きなのに……焼きラーメン」
「…………」
……一瞬だけこの料理に殺意を湧いたのはきっときのせいだ……うん、なんだ焼きラーメンって?もうふざけて考えたとしか言いようがないぞ。
「まぁまぁそんな意地っ張りにならないの。よしよし」
「……母上は母上で僕の頭を撫でるのはやめてくださいよ……」
「え~昔みたいにママって呼んでくれないの?なんだかさみしいわ~」
「……とにかく揶揄うのはやめてください」
子どものように甘やかす母になんとか訴えるが、ニコニコと笑みを浮かべて俺の頭を撫でるのをやめない。
何故かそこにソフィアとマリア……ユニーレの面影を感じてしまい、どれだけかけても母上には一生敵わないと思わせられてしまう。
「それにしても、どうだった?今回の旅行は?」
父上が机に肘をついて俺にそう聞いてくる。それに対してバロスに来た来たことを思い出して、正直な感想を彼に伝える。
「まぁそうですね……楽しかった……いえ、とてもリラックス出来たと自分の中では感じていていますよ」
彼女たちと色々な所を回って、様々なことを経験したが、俺の中ではとても思い出に残るようなもので……自分自身、リラックスできたと感じている。
それを聞いた父上は満足そうに頷き、今も外で遊んでいる人々の光景を眺める。
「……まだ、アクセルのするべきことはまだ終わってないだろう?」
「ッ!」
……急に核心に近い言葉を言われ、俺は思わず動揺してしまった。
「おっ?図星かい?まぁだとは思ったよ」
「……知っていたのですか?」
「何年息子のことを見てきたと思ってるんだい。15年……いや、少なくとも5年はしっかり見てきたつもりだよ」
……この人には、隠し事なんて出来ないな。だから苦手だったんだがな……アクセルではなく、その中にいる俺のところに踏み込んでくるのではないかと予感してたから。
「君はもしかしたら、私たちが知っているアクセルではないかもしれない。それは、あの時一目見た時にそんな予感がしたさ」
「……もし、そうだとしたら……お二人どうするんですか?」
責められるだろうか、返せと言われるのだろうか……今までに感じたことのない感情を隠しながら聞いてみたが、俺とは真逆に二人はあっけらかんに言い放つ。
「いや、別に何もしないさ」
「そうなのね~って気持ちよ」
「……は?」
あまりに普通に言ったから、俺は思わず息を止めてしまった。
「あっはは。アクセルのそんな顔初めて見たよ。アルマンが君をいじる理由が分かった気がしたよ」
「いや、あの……な、なんで?」
純粋な疑問であった。どうして平気でいられるんだ?どうして何も言わないんだ?
分からなかった……二人の考えてることが。
そんな風に考えてると……隣から誰かが抱きしめられた。
それは紛れもない、母のものであったのは分かった。
「は、母上?」
「当然よ。貴方が、たとえ本当のアクセルでなくても……大切な息子である事実は変わらないわ」
その時感じたのは間違いなく……前世の時に感じた母の愛情そのものであった。
この世界に来て再び感じたことのない感情に戸惑ってると、父上がこちらを向いてくる。
「2年前、ペレク家の因縁を断ち切ることができ、そして今私たち家族がこうして笑って暮らせるのは、君のおかげだアクセル」
「ち、父上……」
「……ま、そんなことがあってもなくてもアクセルが……君が、私にとって大切な存在であることは変わらないけどね」
あははと飄々として笑ってくる父上。それに対して俺は……何も、言うことが出来なかった。
感じることが無かったであろう愛情に、恐怖に俺は……振り回されてしまう。
「今はまだ分からなくてもいいさ。でもこれだけは覚えておいてくれアクセル。私たちは……」
「どんなに変わっても私たちはずっと、貴方を愛してることを」
「っ!」
「ちょ、リアーヌ!私の台詞を!」
「いいじゃない。貴方が早く言わないから私が先に言っちゃったわ♪」
そんな二人を会話を聞いて……俺は何か心の中から込み上げてくるものを感じた。
分からない。どうして、どうして二人はそれを理解してもそんな言葉を…………。
「……それに、おそらくその思いを私たちよりも重く、深く感じてる子達もいる」
「えっ……」
父上の……マエルの視線が再び海へと向けられる。
その先にいたのは……今も楽しく遊んでいるみんなの姿だ。
「ソフィアやマリアだけじゃない。ローレンス様やユニーレ様、それにジークやナーシャも」
「皇女様と聖女様はまだはっきりとはしてないと思うけど、きっと貴方のことを大切に思ってるはずよ」
「そ、それはアクセルであって僕では」
「違うよ」
俺の言葉を遮断して断言してくる父上。その言葉に息が詰まってしまう。
「アクセル。君のその言葉は、彼女達の想いを無碍になる。口に出すのはよそうか」
「……分かりません。僕には……父上や母上が言ってることも」
それは、向けていい感情ではない。なのに何故……何故二人は……あいつらはその想いを胸にしまっているんだ?
そんな静寂は波の音と人のはしゃぐ声により消されるが、不思議と今の俺には何も聞こえそうにも無かった。
「……と言っても、要は一人で抱え込むなって話なだけだよ。さぁ、ご飯ご飯。早くしないとアクセルがソフィア達に取られちゃうしね」
そう言って再び父上と母上がご飯を始まる。対する俺は、彼女達の姿を目に映す。
(…………なんだ?なんなんだ?この、感情は……)
今の俺には、それしか考えることが出来なかったのだ。
◇
とある海岸にて。一人の男が、岩場の上に立ちながら、広大な海の景色を見て酒を飲む。
「………よぉ、この前ぶりか?今日はやけに絶不調じゃねぇか」
その背後に20にも満たない男……アクセルがが彼の背中を見続けていた。
「……考え事だ。気にするな」
「はっ、男っていうのはいつも悩みを持っている生き物だ。もっと気楽に行こうぜアクリル」
「……」
再び、その海岸にて悲劇に遭ってしまった人物……ミゲルとの対話が始まるのは言うまでもなかった。
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