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第191話 不穏

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「……お兄様?」

……現在、俺は目が黒く濁ったソフィアの前で正座をさせられています。
何故こうなった……いや俺が悪いのは明らかだから何も言えないわけだが……。

「そ、ソフィア?何もそこまで怒らずとも……」

「だめですローレンスさん。私もお兄様には甘いつもりですが……今回ばかりは、今回ばかりは見逃すわけにはいきません」

バリバリバリっとまるでソフィアの怒りかと表すかの様に地面から巨大な氷が湧き始める。

よ、よかった……ここが外で……。

「聞いてるのですかお兄様!」

「は、はいっ!」

ソフィアの轟音とも言える声が俺の耳に響き始める。や、やばい……彼女を怒らせてしまった……。

「何故……何故大人が行くようなお店に行かれたのですか!!お兄様はまだ二十歳になっておりません!!駄目なことなんですよ!!というよりソフィアが立派になってからお誘いしようと思っておりましたのに……!反省してくださいお兄様!!」

「す、すみません……」

……いやでもまさか起きて待ってるとは思わないじゃないか。
いやソフィアだけじゃない。何故か父や母、レイス以外の人物……つまりマリアやローレンス、何故かルシアにラーナなどが俺のことを待っていたのだ。

だから帰ってびっくりしてしまった……ソフィアの、とてつもない圧に。
あの子、意外に真面目だからこういう事に関してはめちゃ怒るんだよな……。

「……お兄様を寝かせてソフィアと一夜を過ごそうと思っていましたのに……」

……聞かなかったことにしよう。深掘りしたら何されるか分かったもんじゃない。

「でも意外だわ。アクセルが大人の店に行くなんてね」

「ふふっ。なんだかいいじゃない。そういう茶目っさがあって私は好きだわ」

「ちゃ、茶目っ気と言うのでしょうか……?でも、そうですね……今度アクセル様と一緒にバーテンダーというところに行くのもいいかもしれません……」

「あら、ジーク様。抜け駆けはよくないですよ。アクセルをお連れする時は私も誘ってください。ぜひ行かせて貰いますので」

「貴方も抜け駆けするつもりじゃないのよナーシャ……」

「……聖人様が大人のお店に……わ、私にはまだそういう所には行けません……!」

みんなそれぞれ感想述べてるが……辞めてもらっていいか?
流石に誰かにじっと見られながら怒られるところを見るのは……なんか、男としての尊厳が失いかねない気が……。

「お兄様!!!」

「は、はいっ!!」

……どうやらそんなことを考えさせてくれる暇は無さそうです。
そうして数時間、俺はソフィアからお説教というなの妹による反省会を正座させながら過ごしたのだった。

その時の脚は……言うまでもなく限界を迎えてたことは言うまでもないであろう。





「……ははっ……ついに……ついにここまで来たんだね」

数ヶ月前に激戦を繰り広げ、幾度となく自分の計画を阻止続けた男……宿敵の気配に原作主人公という仮面を被った狂乱者は笑みを深める。

「覚えてるかいアクセル?きみと初めて出会った時のことを」

アレスは思い出す。あの時アクセル達と出会った胸の高まりを……そして、その幸せをぐしゃぐしゃに壊してやりたいという感情が溢れ出したことを。

「いや、あの時は大変だったなぁ。僕よく耐えたって思うんだ。推しを目の前にして平然としていられる?ははっ。むりむり!」

誰かがいるわけでもないのに、アレスの言葉だけが響き渡る。
まるで誰かとの会話を楽しんでるような……そんな感情が声色から感じ取られる。

すると、後ろから黒いフードを被った複数の人物が現れた。

「……あ、なに?もしかして例のもの持ってきてくれたの?」

先ほどの感情豊かとは真逆の対応。アレスはその人物達に……バシリス教団の一員に渋々そう聞くが、その場にいる全員の様子がおかしかった。

「なぜ……なぜだ……!」

「ん?」

「なぜ……あのレステンクールの落ちこぼれのそばにあのお方がいる!」

最早殺気を感じてもおかしくない気迫。だがアレスはそんなものに動じずに応答する。

「それは後で教えてあげるよ。それよりもほら、約束の品を出して?」

「ッ!……おいっ、早くしろ!」

リーダーであろう人物が、メンバーに早く渡す様に促し、その一人がアレスに何か手渡しで渡してきた。

アレスはそれを渡されてすぐに、本物かどうかを確認する様に袋を開ける。

「………うん。どうやら持ってきてくれたね。ご苦労ご苦労」

もう帰っていいよ~と手を振るが、誰も彼の言うことが聞かないのか、逆にアレスに近づき胸ぐらを掴んだ。

「……なに?」

「答えろ!!何故アクセル・アンドレ・レステンクールのそばにあのお方が……混沌の魔女様がおられるのだ!!」

「……あぁ。そのこと?」

そう言えば教える約束だったなぁ……と心の中で思い出し、話そうとしたが……今のアレスには彼らと手を組む理由など存在しなかった。

「知らないよそんなの。自分たちで考えれば?」

「なぁっ!?貴様!我らに嘘を」
「そんなことどうでもいいからさ。全員消えなよ」

鬱陶しそうにそれだけ呟き、アレスは手を彼らに向けてから、黒い炎をお見舞いした。

『うわぁあああああ!!!』

その攻撃に誰も対応できるはずとなく……そのまま跡形もなく消え去っていった。

「知ってる?混沌の魔女を言葉にした人は全員死んじゃうんだって。まるで呪いみたいに……って誰も聞いちゃいないか」

目の前の光景を見て呑気にそう呟くアレス。そしてそのまま彼は、バロスハイヤを眺める。

「異界の勇者、5人の英雄、混沌の魔女……そして、変えることの出来ない原作という呪いに塗れた物語」

くふっと不気味な笑みを浮かべるアレス。その時の彼はまるで勇者なんて程遠い……魔王という存在と言っても過言ではなかった。

「アクセル。君がこの世界の全てを知った時、どう思うのかな?平和という目指せるはずもないものを好む君にとっては……」

着々と、深淵の闇は彼らの目の前まで迫っていた。
それを理解していたアレスは……歪んだ笑みを浮かべ、近い未来に起こり出す事について考えるのであった。

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