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第185話 バロス
しおりを挟む「……あ、見えてきましたよ!」
ソフィアの声が馬車にいた全員に響き渡る。おそらくもうすぐ着くのであろう。
王都からの遠征から二日間、俺たちは色々なトラブルがあったものの、なんとか目的地の目の前まで辿り着くことが出来た。
「やっと着きましたね。申し訳ありません聖人様。私が寄り道をしてしまったことで到着が遅くなってしまい……」
「……いや、別に謝ることでもないと思うが」
……まぁ、確かに予想よりも到着が遅くなったが。
途中何度か困っている人や怪我をしていた人たちを見つけた際に、ルシアは何度も手を差し伸べて、助けていたのだ。
怪我を治す際には光魔法ではなく、神聖魔法も扱っており、元々聖女という素質があったからか、前見た時よりも遥かに上達していた。
魔女組もそれには目を見張るものがあり、特にルシアが扱う神聖魔法に興味を持っていた。
「今度ルシアに教えてもらおうかのぉ…」とローレンスが言ったが……これ以上化け物になられたら困るからやめてほしい。
「?どうしたアクセル?」
「なんでもない」
その本人はこてんと首を傾げてこちらを見る始末である。
まぁそれはさておきだ。
「……やっと着いたんだな」
俺の目の前には港町と言っても過言ではない風景と、その中心に聳え立っている城に、広大に広がっている海原が映っている。
正真正銘、海の都市バロスヘイヤの光景がそこにはあった。
「ようやくこの馬車からおさらば出来るんだね。いやぁ、腰が辛いったらありゃしない」
「あなた……皆さんの前であまり情けないこと言わないでください」
そんな会話に馬車の中にいるみんなは苦笑していた。
父上……なんだか年寄りみたいですよ。
「あまり移動が遅くなると、検問に時間をかけてしまう可能性がありますね。レイス、少し移動速度を早くするぞ」
「分かりました団長。エイダ、もう少し頑張ろうな」
馬車を引いている……エイダという名前の馬のような生物の首筋辺りを撫でているレイス。
すると、先ほどよりも揺れを感じた。移動速度が早くなったんだな。
「楽しみねアクセル。折角の旅行なんだからお姉ちゃんと一緒に楽しみましょ?」
「……あぁ、そうだな」
少しだけ複雑な思いをしつつも、俺たちはバロスへと移動するのであった。
◇
バロスの中に入った後、俺たちはそれぞれ分かれて行動し始めた。
というのも、ルシアとラーナ、それと父と母がバロスのお偉いさん方に挨拶をこめて会いに行ったのだ。
「これでも貴族だから挨拶ぐらいしないとね……」とめんどくさそうに父上は言っていたものの、母上に強引に連れて行かれて行ったのは記憶に新しい。
また、レイスも馬車とエイダを預けてくれるところを探しに行ってるため、今はここにはいない。
それで残った俺たちはしばらく滞在するため、ルシアが事前に教えてくれた貴族用の宿屋に行っていたのだが……。
「お兄様とご一緒するのは私です!!」
「いいえ私よ。これだけ譲れないわ」
……何故か久しぶりに見た気がする。この姉妹喧嘩。
その喧嘩の光景に頭を抑え、呆れ果てているジークとローレンスに面白そうに笑みを浮かべながら眺めているユニーレ。
俺はというと……ご想像に任せて欲しい。
「お姉様はいいではありませんか!最近お兄様にベタベタくっついて甘えていて!ずるいです!こういうときぐらい譲って貰いたいです!」
「そんなこと言ったら私だってそうよ!いつもさりげなくアクセルの隣にいて……!私だってお姉ちゃんだもん!アクセルの隣にいたい!!」
「「ぐぐぐぐっ……!!」」
「……もう何の争いか分からなくなってきた」
ただの嫉妬ではないか?いやそもそもあまり二人にスキンシップをしてるつもりはないが……。
「はぁ……大方予想はしていましたが、やはり喧嘩してしまうのですね」
「仕方ないであろうジーク。二人ともアクセルに対してラブなのだからな。我らはそれを見越して譲ったというのに……」
「でも、そばから見たら面白いじゃないの。アクセルとの部屋の取り合いなんてね……ふふっ」
「3人とも……見てる暇があるなら止めてくれ」
経験上、こういう時なんて「「アクセル(お兄様)は黙ってて(ください)!!!」」なんて言われるからどうにも出来ない。
「まぁ、お二人とも喧嘩なさっているので、ここは間をとって私がアクセルとお部屋を♪」
「……なにさらっとお前は訳分からんことを言ってるんだナーシャ?」
最近変なこと言うようになったな。というか見ろ、姉妹たちがこっちを向いて……それに対してふふっと余裕の笑みを浮かべているナーシャが凄い。
「こうなったら……!」
「これしかありませんね……!」
ギリっとこちらを向いてズカズカとこちらに寄ってきた。
「お兄様!!」
「アクセル!!」
「「どっちを選ぶの(ですか)!!!」」
「なんでここで俺に振ってくる……」
どっちを選んでも駄目だろこれ……いや本当にどうすればいいの?
二人とも目が必死だ。ここで俺が間違った答えを言ったら……あ、泣き崩れる未来が見えてしまう。
「……さ」
「「さ?」」
「……3人じゃ、だめ?」
——アクセルスペシャル奥義⑥
『姉妹にちょっと甘い声で頼んでみる!!』
「「っ!?」」
そしてそんな甘い(と思う)俺の声に二人は頬を赤くさせて何故か胸を抑えていた。
……はっきり言って死にたい。
「しょ、しょうがないわね……アクセルに頼まれちゃったら……ね、ねぇソフィア?」
「そ、そそそうですね!お、お兄様に頼まれたんですもの!い、妹の私がしっかりしなければですよね!!」
だが、二人にはそんなこと関係ないみたいだ。いつの間にかトントン拍子に話が進んでいく。
「……ぷふっ」
「おい、そこにいる魔女。表に出ろやこら」
腹と口を抑えて必死に笑いを抑えているユニーレに俺は憤りを覚えてしまった。
何故かジークとローレンスは焦点が合ってない目でじっとこちらを見ているが知らん。
こちとら必死に考えたんだぞ?笑われるのは気に食わん。
「……私もアクセルに甘い声で囁かれてみたいですね」
何故かそんな変なことを呟き、少し羨ましそうにしているナーシャだが……絶対にやらない。
「……はぁ、とりあえずレイスには一人で泊まって貰おう」
きっとあいつは許してくれる。
一応俺たちは12人だから、レイス以外はひとりぼっちなんてことにはならない筈……これで解決する……。
「聖人様!もしよろしければ私と一緒に!!」
「貴方がでしゃばるとややこしくなるからやめなさいルシア!!」
……そんなことにはならなかったそうです。
ルシアたちが乱入したことでまたややこしくはなったものの、とりあえず無事にバロスに着くことが出来たのであったとさ。
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