上 下
185 / 201

第184話 野宿にて

しおりを挟む

「……よし、今日はここで休憩しよう」

日が暮れ、空が橙色に染まりそうなのを見て、みんなに言う。
みんな遠征に慣れているのか、あまり疲れたようには見えないけど、そんなに逞しかったっけ?

「いてて…さ、流石に一日中馬車に乗ってると腰に響くね……」

「あなた。しっかりしなさい。引退した身とはいえ領主様が腰の痛みでそう嘆かないでください」

「き、きみは平気そうなんだねリア―ヌ……」

……否。どうやら父上の腰が限界を迎えたようだ。この時代ってただ車輪をつけただけの馬車だから、流石に一日馬車に乗ってると腰に来るよな……。

ここで野宿する時と決めたみんなの動きは早かった。
ローレンスやユニーレは広範囲に結界を張って外野から攻められないようにしたり、マリアやジークは事前に準備していたテントをそそくさと立てている。

残りのメンバーは今日の夕食を探すべく道沿いにはずれている森の中に行ってしまった。

「……これ、俺何もやることないよな?」

「いいじゃない。いつも頑張ってたんだから、このときぐらい休みなさい」

「そうだぞアクセル。お主はもう少し自分を大切にしないか。そのうち身体がぶっ壊れるぞ」

「い、いや……別に無理をしてるつもりは……」

……どうやら自覚がないだけのようだ。魔女組の目線が何故か鋭いものに変わったのが分かった。

「お二人に心配させるとは……だめじゃないかアクセル」

「あなたはまだ学生なんだから、少しは気楽に過ごせないの?」

親にもそう言われる始末だが……確かに今の実年齢は十五歳ぐらいだが、前世で合わせると三十路……やめよう、悲しくなってきた。

「はっぴばーすでーアクセル」

「……なんのつもりだユニーレ?」

いきなり指先に小さな炎を出したかと思えば、何故か聞いたことはあるが流暢のない声でそんな言葉を言われてしまう。

「?なにって……これで元気でないの?」

「……元気なさそうに見えたのか?」

「だってさっき妙に遠い目をしているように見えたわよ?」

なんで分かったんだよ……というかよく分かったな。あまり顔には出さないようにはしていたが。

「なによ。気のせいってこと?折角驚かせようと思ったのに…」

「十分驚いたから大丈夫だ……誰かに教えられたのか?」

その言葉について気になり始める。いきなり祝われたのもそうだが、なんで彼女がそんな言葉を吐いたのかが分からなかった。

「……分からないわ。でも……ぼんやりした記憶だけど、昔誰かに教えられた気がするの」

「お前にも何かを教えてくれる人がいたんだな」

「そんな気がするってだけよ?混沌に埋め尽くすって使命が頭の中に支配されるまえに脳裏に残ってた言葉よ。深い意味なんて存在しないわ」

「その割にはまじないの言葉みたいに使ってたけどな」

「違うの?私、ずっとそう認識して使っていたけど……」

「……違うからな?」

なんでそんな認識になっちまったんだ……誰だよ、数千年以上前に間違った言葉を教えた奴は……。

「……なんだか仲間はずれにされたようで気に食わん」

すると、さっきまで俺達の会話を聞いていたであろうローレンスが俺とユニ―レの間に割り込んで、そのままこちらにくっついてきた。

「あなたって前から思ってたけど、私とアクセルが会話しているといつも邪魔をしてくるわよね」

「何故かお主とアクセルが仲よしで話してるのはムカッとくるのは自覚している。安心せい」

「それのどこが安心出来るっていうのよ……束縛女は嫌われるわよ」

「そんなことでアクセルは我を嫌わん。のぉ?」

「俺に聞かないでくれ……」

返答次第では大暴れしそうな質問に俺は黙秘を貫く。こんな時ぐらいゆっくり休ませてほしいもんだ。

「お兄様~!食材を調達して参りました~!!」

すると、森の中からソフィアの声が聞こえ……何故か大量にあるキノコや果物に、巨大な鹿のような魔物が見えてくる。

「や、やっと着いた……これ、弱い割には重いから運ぶのに手間取るのよねぇ……」

「し、仕方ありませんよ。ラーナ様……これもマエル様方の為と考えれば」

「ほら二人とも。もう少しなんですから喋って頑張って運んでください」

……ラーナとレイスがその大きな鹿……ギガントディーアだったか?を運んで、何故かそれの指揮を取っているルシアと満面な笑みでこちらに手を振っているソフィア。

「案外いいグループかもしれないわよあの四人」

「そんなこと言ってないで私たちも運ぶわよ……」

マリアとジークがそんな光景を見て、それぞれの感想を呟いてるが……聖女様って意外と姉御肌かもしれないな。

「ほらアクセルは休んで休んで」

「えっ、だけど……」

「いいからそこに座っておれ。あとは我らがやるから」

無理矢理座らされて、そのままみんなの方に行ってしまった。

「……俺にはなにもやらせてくれないのね」

そう悟った俺は、僅かに仲間外れを感じつつも、父上と母上とともにみんなのことを見守るのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

処理中です...