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第184話 野宿にて
しおりを挟む「……よし、今日はここで休憩しよう」
日が暮れ、空が橙色に染まりそうなのを見て、みんなに言う。
みんな遠征に慣れているのか、あまり疲れたようには見えないけど、そんなに逞しかったっけ?
「いてて…さ、流石に一日中馬車に乗ってると腰に響くね……」
「あなた。しっかりしなさい。引退した身とはいえ領主様が腰の痛みでそう嘆かないでください」
「き、きみは平気そうなんだねリア―ヌ……」
……否。どうやら父上の腰が限界を迎えたようだ。この時代ってただ車輪をつけただけの馬車だから、流石に一日馬車に乗ってると腰に来るよな……。
ここで野宿する時と決めたみんなの動きは早かった。
ローレンスやユニーレは広範囲に結界を張って外野から攻められないようにしたり、マリアやジークは事前に準備していたテントをそそくさと立てている。
残りのメンバーは今日の夕食を探すべく道沿いにはずれている森の中に行ってしまった。
「……これ、俺何もやることないよな?」
「いいじゃない。いつも頑張ってたんだから、このときぐらい休みなさい」
「そうだぞアクセル。お主はもう少し自分を大切にしないか。そのうち身体がぶっ壊れるぞ」
「い、いや……別に無理をしてるつもりは……」
……どうやら自覚がないだけのようだ。魔女組の目線が何故か鋭いものに変わったのが分かった。
「お二人に心配させるとは……だめじゃないかアクセル」
「あなたはまだ学生なんだから、少しは気楽に過ごせないの?」
親にもそう言われる始末だが……確かに今の実年齢は十五歳ぐらいだが、前世で合わせると三十路……やめよう、悲しくなってきた。
「はっぴばーすでーアクセル」
「……なんのつもりだユニーレ?」
いきなり指先に小さな炎を出したかと思えば、何故か聞いたことはあるが流暢のない声でそんな言葉を言われてしまう。
「?なにって……これで元気でないの?」
「……元気なさそうに見えたのか?」
「だってさっき妙に遠い目をしているように見えたわよ?」
なんで分かったんだよ……というかよく分かったな。あまり顔には出さないようにはしていたが。
「なによ。気のせいってこと?折角驚かせようと思ったのに…」
「十分驚いたから大丈夫だ……誰かに教えられたのか?」
その言葉について気になり始める。いきなり祝われたのもそうだが、なんで彼女がそんな言葉を吐いたのかが分からなかった。
「……分からないわ。でも……ぼんやりした記憶だけど、昔誰かに教えられた気がするの」
「お前にも何かを教えてくれる人がいたんだな」
「そんな気がするってだけよ?混沌に埋め尽くすって使命が頭の中に支配されるまえに脳裏に残ってた言葉よ。深い意味なんて存在しないわ」
「その割にはまじないの言葉みたいに使ってたけどな」
「違うの?私、ずっとそう認識して使っていたけど……」
「……違うからな?」
なんでそんな認識になっちまったんだ……誰だよ、数千年以上前に間違った言葉を教えた奴は……。
「……なんだか仲間はずれにされたようで気に食わん」
すると、さっきまで俺達の会話を聞いていたであろうローレンスが俺とユニ―レの間に割り込んで、そのままこちらにくっついてきた。
「あなたって前から思ってたけど、私とアクセルが会話しているといつも邪魔をしてくるわよね」
「何故かお主とアクセルが仲よしで話してるのはムカッとくるのは自覚している。安心せい」
「それのどこが安心出来るっていうのよ……束縛女は嫌われるわよ」
「そんなことでアクセルは我を嫌わん。のぉ?」
「俺に聞かないでくれ……」
返答次第では大暴れしそうな質問に俺は黙秘を貫く。こんな時ぐらいゆっくり休ませてほしいもんだ。
「お兄様~!食材を調達して参りました~!!」
すると、森の中からソフィアの声が聞こえ……何故か大量にあるキノコや果物に、巨大な鹿のような魔物が見えてくる。
「や、やっと着いた……これ、弱い割には重いから運ぶのに手間取るのよねぇ……」
「し、仕方ありませんよ。ラーナ様……これもマエル様方の為と考えれば」
「ほら二人とも。もう少しなんですから喋って頑張って運んでください」
……ラーナとレイスがその大きな鹿……ギガントディーアだったか?を運んで、何故かそれの指揮を取っているルシアと満面な笑みでこちらに手を振っているソフィア。
「案外いいグループかもしれないわよあの四人」
「そんなこと言ってないで私たちも運ぶわよ……」
マリアとジークがそんな光景を見て、それぞれの感想を呟いてるが……聖女様って意外と姉御肌かもしれないな。
「ほらアクセルは休んで休んで」
「えっ、だけど……」
「いいからそこに座っておれ。あとは我らがやるから」
無理矢理座らされて、そのままみんなの方に行ってしまった。
「……俺にはなにもやらせてくれないのね」
そう悟った俺は、僅かに仲間外れを感じつつも、父上と母上とともにみんなのことを見守るのであった。
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