全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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第168話 苦戦

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マリア達が外で奮闘する中、アクセルとアレスはお互いに激闘を繰り広げていた。

魔獣の体内の中で鳴り響く金属がぶつかり合う音、度々出現される魔法の数々。

そんな中、アクセルの顔は……苦しそうに顔を顰めながらアレスの攻撃を受けていた。

「チッ…!」

アレスにより出現された魔法陣から出される真紅の炎をアクセルは危機一髪に避けながら、彼に接近する。

アレスもまたアクセルが近づいたことで自身の剣を振り下ろす。

カキンッ!

再び鳴り響く金属音。しかし、アクセルが顔を険しくさせていた。姿勢を低くさせアレスを渾身の蹴りで吹き飛ばす。

(……厄介な空間…魔獣の中に入っちまったもんだな)

そう思うのも無理はない。彼の魔力の代りである虚無力の配給ができなくなってしまったのだ。

魔獣の中の魔素が満ちていること、外と完全に遮断されていたことが原因であった。

そのため、アクセルは自身の限りある虚無力で戦うほかなくなってしまった。

だがそれなら混沌の魔女と戦った時と条件は同じ、立ち回りは分かっていた…つもりであった。

「あっはは!どうしたアクセル!!いつもより調子が悪いじゃないか!!」

狂気に笑い狂いながら永遠の剣による飛ぶ斬撃がアクセルを襲う。

それに対して、彼は神威で受け止めることはせず、そのまま横に走り抜けながらお返しと言わんばかりに複数の斬撃を放つ。

だが、それは無慈悲にも永遠の剣で打ち消され、アレスはそのまま彼に接近する。

「喋る余裕もないのかい?そりゃあそのはずだよね!!この環境と……僕の剣がこれ以上にないほどマッチしてるからね!!」

「くっ…!」

やむを得ない神威で再びアレスの剣を受け止める。そしてその直後、永遠の剣が光って、アクセルの顔が険しくなる。

伊邪那岐イザナギ!」

距離を離し、彼に向けて鋭い斬撃が放たれる。

闇夜の衣ツクヨミ

だが、剣が怪しく光だし、それの影響で発生した衣がアレスを包みこんで、いつもよりも威力の低い神威の斬撃を防いだ。

「中々ってところかな。でも、攻撃が届いてないよ」

「……だめか」

アレスの様子を見て、再びアクセルの顔が険しくなり始める。

(正直な所、永遠の剣があるのは予想外だった……攻撃を受け止めるたびに力の吸収……虚無力を吸い取ってやがる)

「……これだとまるで、奴と立場が逆転してるみたいだな」

思い出されるのは2年前と戦いあったモルクとの戦闘。

神威による特殊効果、当たるたびに虚無力による相手の弱体化。それにより、攻撃を受け止めることも剣で当たるのもリスクがある状況……そんな中、彼はアクセルと戦い抜いた。

「いいぜ。なら……受けてやるよ」

ピンチなはずなのに不思議と笑みを浮かべ始めるアクセル。それに対してアレスはなんとも言えない不安が襲いかかる。

(少し決着を早めたほうがいいか…?)

そう思い、彼は体内にある魔力を活性化させる。

「魔力活性:身体強化フィジカルブースト魔法強化マジックブースト

そしてその勢いのまま彼はアクセルに接近する。自身の鋭い太刀筋による攻撃、しかしアクセルはまるで見切ったかのように身体を傾け避ける。

だがそのまま怒涛の連撃がアクセルに襲いかかる。しかし、それでも当たらない。人が変わったかのように攻撃をいなしていく。

(なんだ……?何かが変化した……?)

「どうした?お前の力はそんなもんじゃないだろ?もっと踊ってみろよ」

「……ははっ。言わせておけば……!」

アクセルの軽い煽りに敢えて乗っていくアレス。彼は初めてのアクセルの変化に気づいてないみたいだが……アクセルの目は、先ほどとは違い完全に戦闘狂のものへと変化していた。

「黒炎!!」

永遠の剣に黒い炎が纏い始める。そして、身体能力の向上により一つ一つの攻撃が、一瞬だが青黒く変化する。

(確か炎って青色が一番熱いんだっけ?まぁそんなの…)

「当たらなければどうってことないけどな」

アレスの攻撃を宙に舞うようにアクセルは空高く飛んで回避する。

(空中じゃあ上手く身体を動かせない!このまま……!)

だが、アクセルの方を向いたとき、彼は驚きのあまり身体が膠着してしまう。

それもそうだ。なぜなら……彼が見たとき、アクセルは神威を持たず手ぶらの状態であったのだから。

「少し遊ぼうぜ勇者。付き合ってくれるんだろ。だって……俺はお前の宿敵なんだもんな?」

―――指先から怪しく光る糸を放ち、不敵に笑みを浮かべる悪役が、今踊り始める。

「悪役スペシャル奥義――演技者ピエロ
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