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第159話 向き合う覚悟
しおりを挟む王都周辺に聳え立つ法廷の中。その中でも激闘を繰り広げている者たちがいた。
「フハハハ!!ドウシタジーク!!ソンナテイドデハワタシニハカテンゾ!!」
「くっ……!」
魔族の化したクリフトの鋭い爪がジークに襲いかかる。
今のジークは確かに兄という対象に恐怖を抱いてはいなかった……しかし。
「……どうしても……どうしてもこうするしかなかったのですか兄様!!」
……自身の兄という存在を消すことに未だ躊躇いを持っていた。
ジークは片方の剣を逆手に持ち、鋭い回転攻撃を仕掛けるが、クリフトは彼女に斬られた部位を再生し、反撃した。
「イマサラワタシニナサケヲカケルツモリカ!!ソウヤッテキサマモワレヲアナドルノカジーク!!」
「違う!!私は兄様のことを……!」
「イイワケハイイ!!」
流星の如くスピードで放ってきたクリフトの攻撃。ジークは剣を交差して防御するが……その重みのある攻撃に思わず顔を顰める。
「ぎぃっ!?」
そしてそのまま吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。
「オモエバソウダ……キサマガ……キサマガニククテニククテシカタガナカッタ」
「……に、にい、さま……!」
再びジークに向かって渾身の一撃を仕掛けるが、彼女は横に飛んで回避する。
「キサマガニンゲンノスガタニニテイタコトガキニクワナカッタ!!エルフノチヲヒイテイルニモカカワラズキサマハ……キサマハニンゲンドモトタワムレテイタ。ワタシハソレガズットキニクワナカッタ……ニククテ、シカタガナカッタ……!」
「ッ!……私だって……私だってずっと一人で……!」
「チガウダロウ!!」
「ッ!」
「ナラナゼキサマニハ……キサマノマワリニハニンゲンガイル!!エルフノチヲヒイテモナオ、ウケイレテクレルニンゲンガイル!?ナゼキサマには……きサまニはぁあああああ!!!」
悲痛な叫び声。ジークはそれを聞いて……クリフトの本当の姿の片鱗が見えた気がした。
「兄様……」
「……それは、ジーク様がお強いからです」
今にもクリフトの攻撃が当たりそうになった瞬間、魔法で発生した透明な障壁が彼女を守った。
「ルシア様……!」
「遅くなって申し訳ありません。助太刀いたします」
ルシアは法廷内に入った後、祈りを捧げる体勢になり、魔法を唱える。
「反聖結界」
すると、法廷中に先ほどとは違う結界が張られた。
そしてその結界が展開された瞬間、クリフトは苦しそうに腰を落とし始める、
「コ、コレハ……!」
「……この魔法の効果は魔そのものを打ち消す事にあります。純粋な魔族であれば効かないのですが、突然変異で生まれた魔族であれば弱体化……特攻効果が付与されます」
「キサマァ……ワタシノジャマヲォ……」
真紅に燃え広がった瞳でルシアを睨むが……ルシアは動じない。そのままクリフトと向き合う。
「……オルバドス家の噂は幼い頃から聞いております。貴族の中で忌み嫌われていた事……人々の中で迫害されてきた事を……」
「グゥ……キサマゴトギガ……チチトハハヲカタルナ!!」
「……ルシア様……」
「……でも、それを踏まえてもなおオルバドス家は……立派な貴族のリーダーでした。この王国、イメドリア王国を引っ張ってくれましました」
「ナニガ、イイタイ……!」
「分からないのですか?何故オルバドス家が地に落ちてしまったのか……それが貴方自身が招いた事だと」
ルシアは言い放つ。そこには慈悲の象徴といえる聖女の姿の面影はなかった。
「人を見下し、寄り添い合い、慈悲をかけようともしない……貴方は結局自分を可哀想な人間にしか置き換えられない卑怯な人間なのです」
「ダマレェレレレレレレ!!!!」
悍ましい雄叫びと共に魔力が解放され、ルシアに放たれようとしてきた。
ルシアは応戦しようとして……双剣を持った人物に止められる。
「ジーク様……」
「………ここは、お任せください」
彼女の中で何か決断したのか、ジークの目は覚悟が決まったように据わっていた。
「……神器解放」
二つの剣が雷と風の力により一体化、そして強靭な剣に様変わりしジークは姿勢を低くし……自身の兄に向かっていった。
「ジークぅううううううう!!!!」
「………残夢一閃」
ザンッ!!
変わり果てた彼の巨大な腕を切断、そして……命を断ち切るように……兄妹の縁を断ち切るように、もう一つの剣が彼の身体を抉り取った。
「あ、あが、くぅ………」
「…………ごめんなさい…………………兄様」
そして、クリフトは光を失った眼を宿したまま力なく倒れていった。
それを振り返り、嘗ての兄をじっと見ているジーク。
「……ありがとうございますジーク様」
「………兄様は……誇り高い人でした」
「……」
「確かに人を見下したり、私に八つ当たりをしたりもしました……でも、方向性は違えど彼は……兄様は差別という種族の壁を壊そうとしました……オルバドス家という家名に誇りを持って責務を全うしようとしました」
「………そうですね……」
「……私とは違い、とても……とても立派なお人でした……!」
ポロポロと彼女の瞳から出る涙が地面に落ち始める。
「……そんなことありませんよ」
「ルシア様……」
「ジーク様……貴方も立派なお人です。エルフという血を引き、人から見下されようとも……一人になろうとも貴方は人に危害を加えようとはしなかった……寧ろこうして守ろうとした。それは、誰でも出来ることではありません」
「……ありがとう、ございます………」
「……クリフト様みたいなお人がこれ以上増えないように、いつか私は実現しなければなりません……種族関係なく笑い合える未来を」
そこには覚悟を決めたようにクリフトのことを見ているルシア。彼女の中でも改めて再認識出来たのだろう……聖女となった意味を。
「……いきましょうジーク様。これ以上悲しむ人が現れないように私たちが守らなければ」
「……はい」
そして、彼女らは今も生き絶えそうなクリフトの姿を見守りながら、法廷から去っていった。
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