全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

文字の大きさ
上 下
155 / 256

第155話 魔獣顕現

しおりを挟む

「ッ!もう、ここまで……!」

突如として空に浮かび上がった暗雲。それを見て俺は嫌な汗が出始める。

(もしこれがバシリス教団が……ディーナが用意したものなら……まずい…!)

すぐに王都の外である門の方に出ようとして……辞める。ここで俺が王都を出たらディーナを止める奴がいなくなる。

「……チッ、人手が足りないな。いっそのこと奴らを同時に相手取るしか……」

幸い今はジークがクリフトを相手取って被害は少ないが、それでも周りの奴らはパニック状態だ。

こんな状態が続く方が面倒だ……そう考えた時だ。

「アクセル!」

横から俺の方に向かって走ってくる二人の人物が目に映った。

「ソフィア、マリア……!」

「お兄様。ナーシャちゃんは!ナーシャちゃんはご無事ですか!?」

心配そうに聞いてくるが、俺は安心させるように彼女たちに向かって頷く。
「よかった……」と呟いて二人はふぅと安堵のため息を吐いた後、空を見渡す。

「それにしても、これってどういう状況?急に空が暗くなって……周りも騒がしいわ」

「色々と話したいことがあるが、悪いが少し頼みたいことがある」

「……危機的状況なのですね?」

「あぁ。今この原因を作り出している人物が城の中にいる。そいつを止めて欲しい」

そう言うと、二人は即答とも言ってもいい速さで力強く頷いた。

「俺も出来るだけ早く対処して向かうが、遅くなる」

「……お兄様は……大丈夫、なのですよね?」

心配そうにソフィアは聞いてくるが、問題ない。

「少し厄介な奴を相手にするだけだ。やられはしない」

「……分かったわ。そういえばジークは……って聞くまでもないわよね」

ジークの姿を見た訳でもないのに、まるで全てわかってるかのように法廷の方を向いている。

なんなかんや、信頼してるんだろうな。

「……もし危険になりそうな逃げてもいい。だから……絶対生き延びろ」

心配だからそう言ったんだが……何故か二人とも、気にしてないような様子で。

「当たり前よ。私たちはそのためにここまで強くなったんだもの」

「全てはお兄様のため……その責務、今ここで果たします」

どうやら心配ないようだ。二人とも、随分と頼もしくなったようだね。

「分かった……じゃあ頼んだぞ!」

「はい!」
「えぇ!」

最後にそれだけ伝える。ディーナを彼女たちに任せた俺は王都の外を走り回り……飛行フライを使ってすぐに目的地に向かう。

(……どうやら誘導は騎士のみんながやってくれてるらしい……これはオルデリング王のお陰か?)

下を見ると、避難所に移動している人たちを騎士たちと冒険者たちが誘導している。おそらく、近くの者たちに王が、もしくはラーナかルシアが命令したのだろう。

外には近づくな……と命令されてるのか、誰も街の外に出ている様子がない。

「あら、思ったよりも早く着いたのねアクセル」

「……ユニーレ。それに、ローレンスも」

街の外に着くと空を飛び、ある一点を見ている二人の魔女がいた。

「街のみんなは?」

「既に誘導済みよ。異変を察知して今ここに来たところ」

「相変わらず仕事の早いな。助かる」

「……アクセル……お主、相手の事はどこまで知っている?」

「……大体は分かってるつもりだ」

「そうか……悪いが、今回はお主に頼りっぱなしになるかもしれん」

ローレンスとユニーレの顔が珍しく険しくなるのを感じる。
俺も、彼女らに並んで徐々に固まり始めている暗雲をみつめる。

「今回の相手は……少し厄介だからな」

「全く、なんでこいつが今になって現れるのよ。数千年前に倒したじゃない」

ユニーレの少し気だるそうな声が耳に入ってきた。
……やはり、こいつは混沌の魔女でも厄介と評されるんだな。

そして、暗雲が何かの卵のような形になり……光が放たれた。

強靭な四本の脚に、それに見劣りしない鋭い牙にツノ。目圧だけで生き物を殺せそうな目つきに王国でさえ小さく見える巨大な身体。

その姿が今、咆哮とともに世界に顕現した。

「“グオオオオオオオ!!!!!!”」


「……相変わらず、耳がキンキンするわね。どうにかならないわけ?」

「愚痴を言うのもそれくらいにしろユニーレ。久しぶりの大物だぞ」

混沌の魔女でも警戒する……嘗て、この世界を破滅に追い込んだ破壊の使徒とも呼べる魔獣——。


——魔破犇ベヒーモスが俺たちの前に立ち塞がった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...