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第155話 魔獣顕現
しおりを挟む「ッ!もう、ここまで……!」
突如として空に浮かび上がった暗雲。それを見て俺は嫌な汗が出始める。
(もしこれがバシリス教団が……ディーナが用意したものなら……まずい…!)
すぐに王都の外である門の方に出ようとして……辞める。ここで俺が王都を出たらディーナを止める奴がいなくなる。
「……チッ、人手が足りないな。いっそのこと奴らを同時に相手取るしか……」
幸い今はジークがクリフトを相手取って被害は少ないが、それでも周りの奴らはパニック状態だ。
こんな状態が続く方が面倒だ……そう考えた時だ。
「アクセル!」
横から俺の方に向かって走ってくる二人の人物が目に映った。
「ソフィア、マリア……!」
「お兄様。ナーシャちゃんは!ナーシャちゃんはご無事ですか!?」
心配そうに聞いてくるが、俺は安心させるように彼女たちに向かって頷く。
「よかった……」と呟いて二人はふぅと安堵のため息を吐いた後、空を見渡す。
「それにしても、これってどういう状況?急に空が暗くなって……周りも騒がしいわ」
「色々と話したいことがあるが、悪いが少し頼みたいことがある」
「……危機的状況なのですね?」
「あぁ。今この原因を作り出している人物が城の中にいる。そいつを止めて欲しい」
そう言うと、二人は即答とも言ってもいい速さで力強く頷いた。
「俺も出来るだけ早く対処して向かうが、遅くなる」
「……お兄様は……大丈夫、なのですよね?」
心配そうにソフィアは聞いてくるが、問題ない。
「少し厄介な奴を相手にするだけだ。やられはしない」
「……分かったわ。そういえばジークは……って聞くまでもないわよね」
ジークの姿を見た訳でもないのに、まるで全てわかってるかのように法廷の方を向いている。
なんなかんや、信頼してるんだろうな。
「……もし危険になりそうな逃げてもいい。だから……絶対生き延びろ」
心配だからそう言ったんだが……何故か二人とも、気にしてないような様子で。
「当たり前よ。私たちはそのためにここまで強くなったんだもの」
「全てはお兄様のため……その責務、今ここで果たします」
どうやら心配ないようだ。二人とも、随分と頼もしくなったようだね。
「分かった……じゃあ頼んだぞ!」
「はい!」
「えぇ!」
最後にそれだけ伝える。ディーナを彼女たちに任せた俺は王都の外を走り回り……飛行フライを使ってすぐに目的地に向かう。
(……どうやら誘導は騎士のみんながやってくれてるらしい……これはオルデリング王のお陰か?)
下を見ると、避難所に移動している人たちを騎士たちと冒険者たちが誘導している。おそらく、近くの者たちに王が、もしくはラーナかルシアが命令したのだろう。
外には近づくな……と命令されてるのか、誰も街の外に出ている様子がない。
「あら、思ったよりも早く着いたのねアクセル」
「……ユニーレ。それに、ローレンスも」
街の外に着くと空を飛び、ある一点を見ている二人の魔女がいた。
「街のみんなは?」
「既に誘導済みよ。異変を察知して今ここに来たところ」
「相変わらず仕事の早いな。助かる」
「……アクセル……お主、相手の事はどこまで知っている?」
「……大体は分かってるつもりだ」
「そうか……悪いが、今回はお主に頼りっぱなしになるかもしれん」
ローレンスとユニーレの顔が珍しく険しくなるのを感じる。
俺も、彼女らに並んで徐々に固まり始めている暗雲をみつめる。
「今回の相手は……少し厄介だからな」
「全く、なんでこいつが今になって現れるのよ。数千年前に倒したじゃない」
ユニーレの少し気だるそうな声が耳に入ってきた。
……やはり、こいつは混沌の魔女でも厄介と評されるんだな。
そして、暗雲が何かの卵のような形になり……光が放たれた。
強靭な四本の脚に、それに見劣りしない鋭い牙にツノ。目圧だけで生き物を殺せそうな目つきに王国でさえ小さく見える巨大な身体。
その姿が今、咆哮とともに世界に顕現した。
「“グオオオオオオオ!!!!!!”」
「……相変わらず、耳がキンキンするわね。どうにかならないわけ?」
「愚痴を言うのもそれくらいにしろユニーレ。久しぶりの大物だぞ」
混沌の魔女でも警戒する……嘗て、この世界を破滅に追い込んだ破壊の使徒とも呼べる魔獣——。
——魔破犇が俺たちの前に立ち塞がった。
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