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第147話 敵としての、味方として

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「……こうなるから、私は貴方を巻き込みたくなかった……」

証言台に立ち、こちらを向いて悲痛な様子で発言してくるナーシャ。それに対して俺はただ無言を貫く。

「貴方に……私の事情を巻き込ませたくなかった。迷惑をかけたくなかった……幸せに、なってほしかった」

彼女の想いが言葉として伝わってくる。そこには彼女特有の笑顔は見られずただただ苦しそうにしていた。

「……でももう……ここまできたら後戻りはできません」

「……ナーシャ」

「全力で、貴方を潰しに行きます。この国のため……オルバトス当主の妻として」

そして、彼女の目が一気に覚悟を決めたような目に変わる。

「……一つ勘違いしてるようですね」

「……なんですって?」

「僕はまだ、貴方のことを諦めてませんよ」

「ッ!……どの、口が」
「ナーシャ」
「……」

……まだ、彼女は苦しんでいる。だから今俺に出来ることがあるとすれば……。

「……信じろ」

たった一言、それだけ伝えること。ナーシャは一瞬だけ動揺して見せたものの、それも束の間。感情を感じさせない目に変えて前を向いた。

「……では証人。彼が元々この国を破滅させようとしてきたことを証言しておくれ」

「はい……クリフト様」

そんな言葉を交わしながら、彼女は証言する。

「彼には……脅されました。カロナイラ家を滅ぼされたくなければ、従えと」

彼女の言葉が淡々と呟かれた。彼女のことを知っている人からすればとても驚愕なものと同時に酷く悲壮感を感じてしまうであろう。

「彼には一度、救われた経緯があります。ですが、アクセル様は私たちカロナイラ家の力を利用しようとしていたのでしょうか、出会ってすぐに脅されました」

「ペレク家のこと、バシリス教団のことなどについての情報を彼の命令通り渡したりもしました。5年間ずっと……彼はずっと、この国の滅亡を望んでおりました」

「ッ!そんなはずありません!!」

弁護席で怒りが宿った叫び声がナーシャに向かって叫び出した。
視線を見ると、歯を食いしばり、彼女のことを目の敵にしているルシアの姿があった。

「アクセル様はどんな人にも平等にお救いしてくれました!種族や子供大人関係なく……彼は救ってくれたのです!そんな彼が王国を滅ぼそうなどと考えるはずがないではありませんか!!」

「る、ルシア…!落ち着いて……!」

普段誰にでも温厚な雰囲気を醸し出しているルシアが息を荒くして怒りを見せる姿に国王含む全員は呆気に取られていた。

「……では、その証拠をお見せしてください」

「ッ!そ、それは……」

「出来ないでしょう?そんな経歴、物として出せるはずがありませんから……でも……お優しい、ですもんね。彼は……」

無意識から出た彼女のその言葉にルシアたちは一瞬目を見開いた。
しかしそんな様子にも関わらず、クリフトは発言していく。

「如何だろうか?彼女は皆も知っている通りカロナイラ家の者だ。そんな彼女の発言……信憑性は高いであろう」

「……ふむ。確かに、水の使者ウンディーネの発言……信頼ととってもいいだろう」

「お、お待ちください国王様!彼女の証言について尋問をさせてください!」

ラーナがテーブルをバンッ!と叩き、オルデリング王に物申している。

「……我らが聞いた限り、かの者の尋問など不必要だと思うが」

「尋問は弁護をする人にとって当然の権利。ならばさせていただくのは当たり前かと」

「……ふむ、ならばよろしい。では弁護人、かの者に尋問を」

ラーナはその発言に頷いて、ルシアと共に再びナーシャと向き合う。そこには失敗は許されないという雰囲気が醸し出されていた。

「……証人。先ほどの発言を聞いた限り、前々からバシリス教団のことを知っていたようね。何故知っているの?」

「……彼から事前に色々とお聞きしたのです。そのおかげで色々と知ることが出来ました」

「それを誰かに伝えることは出来なかったの?少なくとも貴方の周りや王族には出来たはずよ」

「彼は幼い頃からとてつもない強さをお持ちしておりました……私には周りに話す勇気などありませんでした」

「ならば、どうして今ここで証言しようとお思いになったのですか?今目の前には被告人がいるのですよ。リスクがとても高いようにも見えますが」

「確かにそれもそうでしょう。ですが、彼は頭も回ります。こんな公の場で騒ぎを起こすような真似はしないと思ったのです」

「「「…………」」」


メインヒロイン達による尋問というなの攻防戦。しばらくそれが繰り広げられていた。
その間も俺は頭の中で思考する。

(……出来るだけ時間を稼いでくれよ二人とも)

今回の裁判を目的は、オルバトス家とバシリス教団の繋がりを認知させること。

そして……ナーシャたちを救い出すこと。

(……頼むぞ、みんな)

命運を彼女たち……ソフィアたちに託しながら、俺は裁判の行方を見送った。
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