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第133話 婚約者
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「……ナーシャに何かあったのか?」
俺がソフィアにそう聞くと、口を開こうとして……言い淀んでいる様子があった。
「……ソフィア?」
「……詳しい事は分かりません……でも、お兄様を見てたナーシャちゃん……とても悲しそうに泣いてました」
「泣いていた?」
……だからあの時ナーシャの目が赤くなっていたのか。
「最近のナーシャ、少し様子がおかしいのよ。アクセルのこと避けようとしてるし、それに貴方から貰ったイヤリングだってつけてないし……」
「……」
……ナーシャ・カロナイラ……小説に出てくる最後のメインヒロイン。
レステンクール領にいる盗賊たちに攫われ、違法である奴隷売買の商品としてランディール帝国でアレス達と出会う。
最初は心を閉ざしていた心もアレスたちにより、徐々に笑顔になっていく。そしてエピローグでは父のバレロナ様と再開する……ここでは珍しい、少しだけ報いがあるキャラだ。
だがその未来を偶然だが、俺が変えたことにより、その奴隷となる悲劇は避けられたこととなった。
……でも、今もし彼女が苦しんでるんだとしたら……。
「……ナーシャは……悲しそうだったのか?」
「はい……お兄様、なんとかしてくださいませんか?ソフィア、あんな苦しそうなナーシャちゃんを見ていると胸が痛くて……」
「……だったら、俺たちがするのは一つだ」
——もう一度、彼女を助ける。それだけだ。
その意図が分かったのか、その場にいたみんなは力強く頷いた。
「詳しいことはまだ分からない。だから、あまり動くことはないが……ローレンス、ジーク。お前たちに話したいことがある」
「ん?なんだ?」
「私たちに、ですか?」
「あぁ、まずローレンス。お前にはある場所を探して欲しい」
おそらく、ローズのこと…そして今回のナーシャにも関わってくる大事になってくるはずだ。
俺はその場所について、ローレンスに一通り話した。
「……確かに、あるにはあるが……あそこで何をするつもりだ?我ら生者が行くところとは到底思えない場所だが……」
「……少し話したい奴がそこにいるからな。今手を空いていないが、ユニーレと協力して探してもらいたい」
「……承知した。なら、今すぐにでも行って参る」
そう言って、ローレンスはその場から消えていった。彼女にしても、ナーシャのことは大事な人物なのだろうか、颯爽とする姿に思わず、感心を覚えてしまった。
「……ソフィア、マリア。ジークと二人で話したい事がある。悪いけど、外に出てもらえないか?」
「……どうしても?」
「あんまり人に聞かせたくはないかな」
マリアの返答にそう言うと、二人はお互いの方を向いて頷いてから、立ち上がった。
「分かりましたお兄様……ソフィアも、出来る事はさせていただきます」
「あぁ、その時は頼んだ」
それだけ会話して、二人は部屋から出ていってくれた。
「……さて、ジーク」
「は、はい…?」
……今回の件は、こいつが無関係とは言えない。正直に言えば、あんまり関わって欲しくない……けど。
「……今回のことは正直、お前に関わって欲しくないけど……それだと納得しないだろ?」
「えっ……は、はい。お許しであれば、私もナーシャ様のために出来ることはしてあげたいです」
……生真面目なジークのことだ。だから、余計な配慮はせずに……今回の件について話すことにした。
「……今から言うことは紛れもない真実として捉えてくれ。それで、もし動けなさそうなら……」
「アクセル様」
ジークの瞳が俺を捉えた。そこには確かな意思があった。
「私のことは大丈夫です。たとえどんな真実であろうと……私は自分のすべきことを真っ当します」
「……そっか」
……やっぱり強いな、お前は。少しだけその強さが羨ましくなる。
そう感じながら、彼女に全てを話していった。
◇
翌日、俺はカロナイラ家の屋敷にてバレロナ様と向き合っている。
ナーシャはソフィアとマリアにより、今は外にいる。理由は分からないが、俺には会いたくないらしいしな。
「……アクセルくん……いいのかい?舞姫を……ジークをこの場に居させて」
バレロナ様がそう聞くと、ジークは頷く。
「今から話す内容は私にとって大事な事な気がするんです。それに……私はアクセル様の騎士です。それならば、いつでもお側で守り抜くのが大事かと」
「……ははっ、その騎士道。ほんとに……そっくりだ」
遠い目で何かを見ているように、ジークの方を見てから、俺の方へと向き合った。
「……バレロナ様、話したい事とはなんですか?大事なことについてたおっしゃってましたが……」
「……ナーシャについてだ」
彼女の言葉が耳に入った瞬間、俺たちの目つきが鋭くなった気がする。
「……彼女のことについてですか?」
「あぁ……君たちには言っていなかったが……最近、ナーシャの……」
「……婚約者が決まった」
「「ッ!?」」
……ナーシャの、婚約者?
「……まさか、その相手は……」
「あぁ、昨日話した貴族だ……君たちに……何より、ジークには何よりも深い関係にあるものだ」
そう言ってバレロナ様は俺たちに……その貴族の名前を言い放った。
「婚約者の名前は、クリフト・オルバドス……オルバドスの血を引く一人だ」
俺がソフィアにそう聞くと、口を開こうとして……言い淀んでいる様子があった。
「……ソフィア?」
「……詳しい事は分かりません……でも、お兄様を見てたナーシャちゃん……とても悲しそうに泣いてました」
「泣いていた?」
……だからあの時ナーシャの目が赤くなっていたのか。
「最近のナーシャ、少し様子がおかしいのよ。アクセルのこと避けようとしてるし、それに貴方から貰ったイヤリングだってつけてないし……」
「……」
……ナーシャ・カロナイラ……小説に出てくる最後のメインヒロイン。
レステンクール領にいる盗賊たちに攫われ、違法である奴隷売買の商品としてランディール帝国でアレス達と出会う。
最初は心を閉ざしていた心もアレスたちにより、徐々に笑顔になっていく。そしてエピローグでは父のバレロナ様と再開する……ここでは珍しい、少しだけ報いがあるキャラだ。
だがその未来を偶然だが、俺が変えたことにより、その奴隷となる悲劇は避けられたこととなった。
……でも、今もし彼女が苦しんでるんだとしたら……。
「……ナーシャは……悲しそうだったのか?」
「はい……お兄様、なんとかしてくださいませんか?ソフィア、あんな苦しそうなナーシャちゃんを見ていると胸が痛くて……」
「……だったら、俺たちがするのは一つだ」
——もう一度、彼女を助ける。それだけだ。
その意図が分かったのか、その場にいたみんなは力強く頷いた。
「詳しいことはまだ分からない。だから、あまり動くことはないが……ローレンス、ジーク。お前たちに話したいことがある」
「ん?なんだ?」
「私たちに、ですか?」
「あぁ、まずローレンス。お前にはある場所を探して欲しい」
おそらく、ローズのこと…そして今回のナーシャにも関わってくる大事になってくるはずだ。
俺はその場所について、ローレンスに一通り話した。
「……確かに、あるにはあるが……あそこで何をするつもりだ?我ら生者が行くところとは到底思えない場所だが……」
「……少し話したい奴がそこにいるからな。今手を空いていないが、ユニーレと協力して探してもらいたい」
「……承知した。なら、今すぐにでも行って参る」
そう言って、ローレンスはその場から消えていった。彼女にしても、ナーシャのことは大事な人物なのだろうか、颯爽とする姿に思わず、感心を覚えてしまった。
「……ソフィア、マリア。ジークと二人で話したい事がある。悪いけど、外に出てもらえないか?」
「……どうしても?」
「あんまり人に聞かせたくはないかな」
マリアの返答にそう言うと、二人はお互いの方を向いて頷いてから、立ち上がった。
「分かりましたお兄様……ソフィアも、出来る事はさせていただきます」
「あぁ、その時は頼んだ」
それだけ会話して、二人は部屋から出ていってくれた。
「……さて、ジーク」
「は、はい…?」
……今回の件は、こいつが無関係とは言えない。正直に言えば、あんまり関わって欲しくない……けど。
「……今回のことは正直、お前に関わって欲しくないけど……それだと納得しないだろ?」
「えっ……は、はい。お許しであれば、私もナーシャ様のために出来ることはしてあげたいです」
……生真面目なジークのことだ。だから、余計な配慮はせずに……今回の件について話すことにした。
「……今から言うことは紛れもない真実として捉えてくれ。それで、もし動けなさそうなら……」
「アクセル様」
ジークの瞳が俺を捉えた。そこには確かな意思があった。
「私のことは大丈夫です。たとえどんな真実であろうと……私は自分のすべきことを真っ当します」
「……そっか」
……やっぱり強いな、お前は。少しだけその強さが羨ましくなる。
そう感じながら、彼女に全てを話していった。
◇
翌日、俺はカロナイラ家の屋敷にてバレロナ様と向き合っている。
ナーシャはソフィアとマリアにより、今は外にいる。理由は分からないが、俺には会いたくないらしいしな。
「……アクセルくん……いいのかい?舞姫を……ジークをこの場に居させて」
バレロナ様がそう聞くと、ジークは頷く。
「今から話す内容は私にとって大事な事な気がするんです。それに……私はアクセル様の騎士です。それならば、いつでもお側で守り抜くのが大事かと」
「……ははっ、その騎士道。ほんとに……そっくりだ」
遠い目で何かを見ているように、ジークの方を見てから、俺の方へと向き合った。
「……バレロナ様、話したい事とはなんですか?大事なことについてたおっしゃってましたが……」
「……ナーシャについてだ」
彼女の言葉が耳に入った瞬間、俺たちの目つきが鋭くなった気がする。
「……彼女のことについてですか?」
「あぁ……君たちには言っていなかったが……最近、ナーシャの……」
「……婚約者が決まった」
「「ッ!?」」
……ナーシャの、婚約者?
「……まさか、その相手は……」
「あぁ、昨日話した貴族だ……君たちに……何より、ジークには何よりも深い関係にあるものだ」
そう言ってバレロナ様は俺たちに……その貴族の名前を言い放った。
「婚約者の名前は、クリフト・オルバドス……オルバドスの血を引く一人だ」
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