上 下
125 / 207

第125話 また会う日まで

しおりを挟む

あの後、ここに連れていきたい人がいるとルシアに聞いた所、「アクセル様の信頼できる人なら」と即オッケーを貰った。

ということで今はジークとともにバレロナ様から頂いた木箱を数個運んでいる。

「...こ、これは」

ジークはルシアの周りにいる子供の姿を見て、驚愕していた。それもそのはずだ、元々ほか種族との関わりは持ってはいけないというのに、ここではそれが関係ないように暮らしているのだから。

「驚いたか?獣人族の子供だよ」

「わ、私も姿だけは見たことがありますが....まさか人と....それもルシア様と共存しているとは...」

そんな会話をしていると、ルシアは気づいたのか、こちらに向かって走り出していた。

「おかえりなさいませアクセル様....!それと、ようこそジーク様。この異端の教会へ」

「....わざわざお出迎えありがとうございますルシア様。ジークリンデです」

彼女たちがそんな会話をしている間に俺はその木箱をこちらの方をじっと眺めている子どもたちのそばに置いていく。

「なぁ兄ちゃん。これってなんなんだ?あとあの女の人だれ?恋人??」

「そんなこといいだろ?ほらっ中身見てみな?」

.....だからジークよ、恋人といった瞬間、顔を真赤にさせないでくれ。あとルシア様?今の貴方の後ろに般若が見えますよ?とてつもなく怖いのでやめてくれますか?

『わぁあ...!』

....っと心のなかでそう訴えかけているうちに、どうやら箱に中を見たらしい。

「に、兄ちゃん!!こ、これ!食いもの!!」

「すごい!洋服もあるよ!!」

その複数の木箱の中に入っている食料や服類などに歓喜の声が上がっている。

「お前らのためにいろいろ持ってきてやったぞ。でも量はまだそこまでないから、仲良く分け合うんだぞ?」

『わぁあああああああい!!!』

一斉に木箱に向かって食べ物やら洋服やら本やら持っていこうとわちゃわちゃし始めた。その姿に苦笑しているとジークともその隣で木箱を置いた。

「どうだジーク。種族なんて関係ないだろ?みんなただの子供だ」

「...そうですね。これだけ見ていると、とても愛らしいですね」

種族間にわだかまりがあるとは思えません...と呟いてその光景を見守っている。

...どうやらジークはあまり他種族に対する嫌悪感はないらしい。

「アクセル様?これは...?」

ルシアが少し困惑気味になりながらも話しかけてきた。

「あぁ、ここにもたくさんの子供がいると思って、バレロナ様から仕送りを頼んだんです」

「も、もしかして....最初から?」

「そうですね....あ、それとルシア様」

俺は収納ボックスにしまってあった複数の木箱を彼女に渡す。

「この中にあれとは別の食料や生活に必要な物を入れております。食料に関しては魔道具で腐ることはないと思いますので、貯めて頂いて構いません。それと、もし足りなくなった時があれば、俺かナーシャ、バレロナ様に頼めばしっかりと仕送りを送るので」

「...なにからなにまで本当に...」

身体を震わせながら、ゆっくりとこちらに向けて頭を下げてきた。

「本当に.....本当に....ありがとう、ございます」

「...当然のことをしたまでですよ。もしまた困ったことがあればお頼りください。僕が出来る限り、力にならせていただきます」

「....あぁ...聖人様....聖人様....」

うーん...だからねルシア様?その聖人様連呼するのは少しやめていただきたいのですけど。原作でもそんなこと言う時なかったんだよね?なんでそんな変貌してしまったのですか貴方は?

「....なるほど、アクセル様を聖人様と評するのは合ってるかもしれませんね」

「じ、ジークさん?」

「分かってくださいますか!?」

うわぁ....これ、まさかだけど...。

「え、えぇ。アクセル様はとてもお優しく、慈悲深いお人です。聖人と呼ぶのも無理ありません」

「い、いやだからジーク?それは」
「そうなんですよ!!」
「....」

...嘗てのソフィアとユニーレみたいに俺を褒め殺すのかこいつらは?

「どのような人物にも分け隔てなく救ってくださり、ましてや他種族であるはずのみんなを当たり前のように救ってくださる....これを聖人と言わずになんと言いましょうか!!」

....もうだめだこりゃ。

二人の中に変な絆が芽生え始めるのを感じた....そのきっかけがアクセルの褒め殺しという予感を知った俺はそこからそっと離れて、二人が落ち着くまで暫く待つのであった。





「...落ち着いたか?」

「も、申し訳ありません....つい話が白熱してしまい」

ジークがバツが悪そうに頭を下げている様子を見てため息がついてしまう。

(こいつ、最初は凄い生真面目な奴だと思ってたのに....最近ポンコツ化が激しくなってないか?こんなキャラじゃなかったよねジーク君?)

....まぁ今の彼女が楽しそうにしているのを見て、今のジークの方がいいと思ってしまう自分もいるんだが。

「じゃあ行くぞ。あまりバレロナ様をお待ちさせるのはまずいしな」

「そ、そうですね...」

「...残ってもいいんだぞ?」

「ご、ご同行させていただきます!!」

ったくこいつ....はぁまあいいや。

「アクセル兄ちゃん?どこかに行くのか??」

「ん?あぁ少しな。悪いな、しばらく戻れないかもしれん」

そんなことを言うと、いつの間にか集まっていた子供の表情が一気に暗くなった。

「そんな顔するな。別に一生会えないわけじゃないんだ。終わったらまた遊びにいくよ....だからメアリー、そんな泣きそうな顔をするな」

「あ、アクセル....」

「お前はここのお姉ちゃんみたいな存在だ。そんなメソメソしていると、みんなを守れないぞ?」

そこでハッとして後ろを振り会える。そこには不安そうに...泣きそうにしている弟や妹のような存在の姿がある。

「....そ、そうだよね...私がしっかりしなくちゃ...」

「あぁ、その意気だ。ほらっそこにいるガリヤなんて見てみろ?鼻水ダバダバだぞ?」

「なっ!?そ、そこまでひどくねぇよ!!」

その姿を見て先ほどの悲しそうな雰囲気から一変、一気に笑いの声が響き渡る。

「だから、な?ここを頼んだぞ?」

「....うん...分かった!私、みんなを守れるように強くなる!!」

その決意が籠もった姿を見て、微笑ましくなる。
やっぱり、守るものがある奴は強いな....まぁ、おそらく俺の魔法とあいつがいるからここは大丈夫だと思うが。

「...アクセル様」

そして、聖母...いや、ここを守る母親的な存在であるルシアが俺に近づいてきた。

「本当に、ありがとうございます。何から何まで...この御恩は一生忘れません」

「そんなかしこまらないでください。俺は、俺のしたいことをしたまでです....神聖魔法の方も頑張ってくださいね?」

「は、はい....あ、あのっ!」

「ん?」

森を後にしようとしたところを振りかえる。そこには少しだけ不安な表情をしたルシアの姿がある。

「....また....また.....私と一緒に.....この教会に来てくれますか?」

....あぁ、なるほどね。

「...はい。その時はぜひ声をかけてください……いつでも時間は作っておきます」

「っ!.....はい....!」

...さて、そろそろ時間だ。俺も、できるだけこいつらに被害が被らないように行動しないと。

「では、またお会いしましょうルシア様」

「.....はい.....またお会いできる日を」

そうして俺はみんなの声を聞きながらジークとともに教会から後を去ったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族に転生した俺が鬱展開なシナリオをぶっ壊したら、ヒロインたちの様子がおかしいです

木嶋隆太
ファンタジー
事故で命を落とした俺は、異世界の女神様に転生を提案される。選んだ転生先は、俺がやりこんでいたゲームの世界……と思っていたのだが、神様の手違いで、同会社の別ゲー世界に転生させられてしまった! そのゲームは登場人物たちが可哀想なくらいに死にまくるゲームだった。イベボス? 負けイベ? 知るかそんなもん。原作ストーリーを破壊していく。あれ? 助けたヒロインたちの目のハイライトが……? ※毎日07:01投稿予定!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...