全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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第97話 転生者

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アレスのその発言で自身の心臓がドクッも飛び跳ねるような感覚に陥った。

「ねぇアクセルさん。どうなの……?いやこう言うべきかな?………君の中にいる誰かさん?」

「………さて、なんのことでしょうか?」

心臓をバクバクと音を立てながらも、動揺を見せないようにポーカーフェイスをする。

「あれ?答えてくれないの?うーん……ここは素直に答えるべき所だと思うんだけもなぁ……あっ!ラーナが渾身の奴いれた!」

客観的に見れば、純粋と思わせるその様子に思わず笑ってしまう所なんだが、今の俺はこいつの言っていることの不気味さに戦慄してしまっている。

「……仮に僕が転生者だとしたら、どうするんですか?」

「うん?別にどうもしないよ?」

そう答えて、俺の方を向いているアレス。俺は彼と視線を合わせないように視線を試合に向けている。

「えぇ……ねぇこっちに顔向けてくれないの?寂しいんだけど?」

「試合に夢中すぎて、ついですよ」

「僕の話を聞いていたのに?全くアクセルさんは……まぁでもいいや」

「ただ確認したかったの。それと……お礼かな?」

まるで俺が転生者という前提のように、アレスは試合に視線を戻して語る。

「ほら、この世界のキャラ達ってアレスも含めて凄い悲惨な運命に辿るでしょ?今戦っているあのラーナだって、親全員を失って国の為に一人で永遠に頑張る……虚しいじゃない?」

「………」

「君に憑依しているアクセルも同じだよ。家族や権力、住民……何もかも全て失って敵として立ちはだかる。まぁ僕的にはそれ含めて、とても最高だと思うんだけどね」

「……それは、どうして?」

「えっ?だってそうでしょう?困難に何度も何度もぶつかって挫折して、それでも立ち上がる……それが味方側のアレスも同様だ。それってさ……とっても素敵じゃないか」

……こいつは、彼ら彼女らを襲う悲劇も含めて最高だと言っているということなのか?

俺は正直なところ……理解できない。いやそんなのしたくない。

「だからさ、驚いちゃったんだよなぁ……君たちがこの学園に来ることにね」

「それも、アクセルさんだけじゃない。ソフィアやナーシャのようなメインヒロイン、本来いないであろうマリアやジーク、それに……あの混沌の魔女って言われている人達も……心の昂りを覚えたね」

奴のことを少しだけ視界に入れると、高揚しているのか、自身のすべすべな頬が少し赤らんでおり、目も焦点があってないように見えた。

「でももしかしたら幻かもしれないじゃん?だから敢えて君の……これを本人の前に言うのはどうかと思うけど、アクセルの所業を全部隠さずに言ったよ……そしたらね!」

すると無理矢理視界が試合からアレスの方へと向けられた。

今のアレスからはこの小説の主人公だとは嘘でも思えなかった。

「僕の発言に怒りを覚えるみんなの目つき!!それにソフィアちゃんの得意技の氷魔法も僕にお見舞いしたんだよ!?凄いことだよね?感動するよね?絶対に訪れるはずのない話が!物語が!今描かれているんだ!!僕は……ここが破裂しそうになった……」

そう言うと、俺の手が彼の心臓のところに寄せられる。強い力で握られているせいで、下手に動かすことも出来ない。

「ねぇアクセルさん。感じるでしょうこの胸の鼓動……!僕は今、最高に生き生きしているんだ………!!」

「……アレスさん」

絶句。きっと今の俺の状態を表すのであればこの言葉だ。それぐらい空いた口が塞がらない。

「だからさぁ。お礼を言おうと思ってね。こんな物語を作ってくれてありがとうってね。君が変えたんでしょ?レステンクール家の悲劇を」

「……僕からは何も言えませんね」

「えぇ~!?なんでここまで言っても認めないのさ!僕、凄い暴露したんだよ?せめてアクセルさんも秘密の一つや二つ言ったらどうなのさ!!」

「プライベートのことは機密情報なので」

「え、なにその対応……そこはなんかアクセルに似てないんだよねぇ」

はぁとため息を吐いて、俺の手首を離して、再びラーナの試合を見る……と思っていたが、どうやら終わってたらしい。

『そこまでっ!勝者、ラーナ選手!!』

アレス同様、凄まじい歓声がコロシアムのステージを包み込んだ。ラーナは自分が勝ったと思うと、少しだけこちらをチラ見してそのまま戻って行った。

「うーん……でも不思議なんだよねぇ。これでも僕、ここ世界の主人公なのに……何故か三人には好かれないんだよね。逆にアクセルさんには凄い興味を持たされている……うーん、謎だなぁ」

そう言って腕を組んで、頭を捻っているが……その原因は多分お前のその狂気さだと思うぞ。

「アレスさんの魅力に三人が気づいてないだけだと思います」

ただそんなことは言わない。仮面を被りつつ思ってもないことを言うが、彼は少しジト目になってこちらを見た。

「よく言うよ……君の方が好かれているじゃないか。はぁ、これも中身の差、なのかな……」

「いやそういうわけでは……」

そんなことを話し合っていると、建物内から放送の音が部屋中を鳴り響かさせる。

『放送する。まもなく第三試合が始まる。アクセル選手、ロデリーナ選手は至急準備せよ』

……どうやら三試合目は俺が出るようだ。名前が聞かれたのが分かると、俺はすぐに向かおうとする。

「ねぇアクセルさん」

だが、アレスの声が俺の通路を塞ぐように耳に入った。

「なんですか?」

「いや、最後に質問しようかなって」

飄々な態度のまま、彼はその質問を俺にぶつけた。

「アクセルさん……君は一体、何を目指しているの?」

「……目指しているもの、ですか」

「うーん、アクセルってキャラと君って凄く似てるんだ。僕が不愉快だと思わないくらいにね。でも……少しだけ、違うところがあるの」

「それが、今言ったことですか?」

「うん。まぁなんて言うんだろ、信念みたいな?多分あの悲劇を免れるために頑張ってとてつもない強くなったんだよね?それは凄いことだよ」

「……でも、今の君にはまるで信念というものが感じられない。小説を読んでいた時の気迫が、今は感じられないんだ」

「だから問うよ……君は一体、何がしたいの?」

「………」

「まぁ急がなくてもいいよ。たた、いつか答えを聞きたいだけだから」

じゃあ頑張ってね!っと言う声を聞いて、俺はそのまま会場に向かい、彼と離れて行った
「………」

俺はアレスの言葉を頭の中に置いてから、会場に行くべく彼に背を向けるように足を歩めたのだった。
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