全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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第96話 衝撃の発言

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係員に先ほどの暴れ回った男を渡した後、俺たちは今盛り上がっているアレスの試合を眺めている。

「……あいつ、前よりも凄い腕を上げてるわね」

「そうですね……腕を上げたと言ってたのはどうやら本当のようですね」

今のアレス達の戦闘を見ていると、それが明白に分かる。

おそらく相手も相当の手練れだとは思うけど、アレスはそれ以上だ。

今のアレスであればラーナといい勝負をすると思う。それほどまでに彼は腕を格段に上がっていた。

『そこまでっ!勝者アレス選手!!』

どうやらアレスが勝利をもぎ取ったらしい。まぁ相手も息切れしていたみたいだし、結果は明白だ。

笑顔で彼は観客に手を振っており、流石は主人公と言われた男の本質が見える。

そして、俺たちにも目に入ったのか、こちらにも手を振ってきている。

「こっちに手を振ってきてるわよ……」

少しドンヨリとした雰囲気でナーシャがこちらを向いてるが、そこまで顔を出さなくていいのではないか……いや、あれを見たら無理ないか。

「とりあえず僕たちも彼に手を振ってやりましょう」

「……分かったわ」

渋々承知した状態で俺とラーナも彼に手を振る。すると、子供のようにとても嬉しそうにしている姿が目に入った。

……今思ったけどこいつ、ソフィア達に俺の悪口言ったんだよな?なんで平然と関わってるんだ?


『では次の試合の準備をする。ラーナ選手、モブティー選手!至急するように!!」

「……次は私のようね」

それが分かると彼女は準備運動をその場でして、無言で会場に向かおうとする。

「ラーナさん!頑張ってくださいね!応援してますから!!」

声援ぐらい送ってもいいよなと思い、声を掛けると彼女はビクッと身体が跳ねて一瞬立ち止まって、ギギギっと首だけをこちらに向けた。


「……あ、ありがとう……頑張ってくる」

頬を赤らめてぼそぼそっと何かを言ってその場から立ち去っていった。

「……不思議な奴だな」

最近の彼女、いつも以上に素を見せてくれると思ったら、何故かこんなふうに頬を赤らめたり、意味不明なことを言っていたりと……理解不能な行動をしている。

「まぁ……それもいいが……ローレンス、ユニーレ」

誰もいない空間に二人の魔女の名前を呟く。すると、それに反応するようにノイズのような音が耳に入ってきた。

『こっちは異常なしよ。今の所、教団の動きは見られないわ』

『こちらもだ。ただ……観客席の中に怪しい奴らが滞在している。それもアレスに目をつけておるぞ』

『分かった……それとユニーレ。少し頼みたいことがある。少しこっちに来てくれ』

『?分かったわ』

すると、魔法陣のようなものが地面に展開されてユニーレの姿が現れた。

「アクセル。私に頼みたいことって?」

「あぁ……これを、とある奴に渡して欲しい」

「……これって……魔法薬?」

「あぁ、俺が作ったものだ」

「……貴方、とんでもないことにしてるわよ?」

ユニーレがジト目でこちらを向いているが、俺はそれに全く動じない。

これはペレク家……正確にはモルクが作った魔法薬を参考にして、俺が創造の力で作ったものだ。

「安心しろ。あれと効果は全く違うから」

「そういう問題じゃないわよ……はぁ、まぁいいわ。それで、これを誰に?」

「————」

俺はこれを飲ませて欲しい人物、その目的をユニーレに詳しく話す。

「……なるほど。そういうことね……了解、しっかりと飲ませておくわ」

「悪いな。わざわざこんなこと頼んで」

「いいえ、貴方の頼みなんだもの。これぐらいなんてことないわ……やっぱり貴方って優しいのね?」

「うるさい。ほらっ手遅れになる前にさっさと言ってくれ」

「ふふっ、りょーかいよ」

全く意味のわからないことを言いやがって……。

ユニーレは俺のことを微笑ましく顔を緩ませながら、魔法陣の中に消え去っていった。

「はぁ……ローレンスにでも頼めば良かったか?」

なんで俺がここまで弄られなきゃいけない……たまに俺のことを見るみんなの目がとても優しいような気がする。

「……いや、誰に頼んでも同じか」

諦めたようにその場で呟いて、コロシアムの舞台を眺める。

『さぁ両選手、お互い準備万端のようだ!!この決闘を勝ち取るのはどちらだ!!』

どうやらもう少しで戦いが始まるようだ。二人とも隙を見せないように構え始めている。

「アクセルさーん!」

「アレスさん?」

こちらに息を切らして走っている姿が目に入った。何か物凄く急いでるようで必死に見えた。

「はぁ…はぁ……間に合った。どうやらまだ始まってないみたいだね」

あー……どうやら二人……というか、ラーナの試合を観戦したかったようだ。その証拠に目がキラキラと輝いてるように見えた。

「いやぁ、実際に戦うのもいいけど、やっぱりこうやって観戦するのがいいんだよなぁ」

「……確かに、彼女の試合を見るとハラハラドキドキさせられますね」

「そうそう。アクセルさんも分かっちゃう?」

……これだけ見ると、推しのことを応援するファンみたいだ。

「ねぇ、アクセル君ってさ……」

「はい?」

アレスはそう言ってこちらを向き、特に表情を変えないまま、その言葉を呟いた。

『それでは試合、はじめっ!!』





































「……転生者、なのかな?」



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