81 / 256
第81話 今後の変えるべき未来
しおりを挟む「バシリス、教団……?」
ソフィアの疑念満ちた言葉が俺の部屋を静寂の支配から解放させる。
「……やっぱり知らないか」
無理ないな。そもそもこいつらが明確に登場、というより世界に知れ渡るのは、原作が始まってからだ。
バシリス教団
原作の主人公、アレスの前に何度も立ち塞がった組織。しかし彼らが明確に民間人に危害を加えるのはいつもアレス達がいる時。
何故奴らがアレス達を執念深く狙ってくるか、そもそも彼らが言ってる破壊の神「グラディウス」自体もなんなのか分からないだらけだから、小説の中でも混沌の魔女に次いて謎が多い。
「女神ヘラ、魔神アフロディアならば有名だが……破壊の神グラディウスだと…?」
……どうやら、千年以上前にもその存在は認知されてないみたいだ。ローレンスとユニーレも訳わからないまま呆然としている。
「……姉さ……マリア、知ってるか?」
頬を再び赤らめ、身体をビクつかせながらもマリアは顎に手をあてて思案するが……。
「……いえ、私の記憶上、そんな教団の事なんて見たことも聞いたこともないわ」
こっちもだめか、何回も死に戻りしている彼女なら少しでも知ってると思ったが……ほんとに認知されてないんだな……。
「アクセル様……その……そのような名前の教団は私でも……」
「…‥ジークも、か」
彼女も冒険者として長年旅をしてきたということもあって少しでも知ってると思い、目線を送ってみたが……知らないらしい。
「……これじゃあ、今の所は動けない、か」
「お兄様…その教団とは一体…?」
「うーん……」
流石に原作知識でこいつらいるよー!って言うわけにはいかないので……。
「……二年後、ある奴らを襲うことで、世界に知れ渡る……俺たちの敵だ」
「……そうですか」
それだけ聞きたかったのだろうか、ソフィアはそれ以上は何も聞かずいてくれた。正直とても助かる。
それより、少し気になることが……。
「……ジーク、今まで奴の……モルクの行動で気になることはあったか?」
ユニーレの送ってくれた記憶の中に……モルクの姿があったのだ。この教団は人間、魔族のように様々な種族が集まってるのだ。
所謂……異端者って所か。
その中にモルクがいるとは思わず、長年一緒にいた彼女に聞いてみた。
「……そうですね……一つ気になることが」
「なんだ?」
「私は団長ということもあって、ある程度の団員の住所は分かっているのですが……モルクの住所だけは、全くと言っていいほど分からなかったのです」
「……ここではない何処かに住んでたということか?」
「はい、どうやら遠くから来ているようで……それに、プライベートの方も全く……」
…‥完璧に自身の情報を隠してるな、口を滑りそうな奴なのに……抜け目がない奴だ。
「それにしても、不思議な光景ね。違う種族が一つの組織に集まってるなんて……」
改めてその記憶を間近で観察しているのか、ユニーレは驚いてるように呟いてる。
元々俺はそこまで種族については深く考えてはないが、この世界で暮らす奴らは違うだろうな。
「一応、これが世界の求める姿なんだけど……いかんせん、集まってる理由がな」
……うーん、これ以上は無理、か。
俺も奴らのついての情報は皆無と言ってもよかったから、知った時は無理だと思ったが……動き始めてるという情報だけ知れただけでも十分だ。
「……とりあえす、この件は二年後に持ちこそう。だけど、引き続き情報も集めたい。頼めるか?」
その言葉にここにいる全員が頷いてくれた。
「……とりあえず、まずは王立学園に入ってからだな」
じゃないと、奴らと関わる機会が無くなってしまう……まぁ、別に本格的に関わるつもりはないけど……今回の件を経験したら一応ね。
「……いよいよ、学園生活が始まるのですね…!」
すると、ソフィアが感極まったように目を輝かせながら、こちらを見てくる。
「絶対に一緒になれるとは限らないと思うぞ?」
「いいえなります!ソフィアとお兄様の愛は絶対に切れることなんてありませんから!!」
「あ、あはは……」
俺の…というより、アクセルのこととなるとどこか抜けるソフィアの姿を見て、つい乾いた笑いをしてしまう。
「そういえば、俺たちが学園に言ってる間、二人はどうするんだ?」
マリアはまだ卒業出来ないからそのまま登校、ジークもまた俺の専属の騎士になった…らしいから護衛としてついてくる。
だけどローレンスとユニーレについては何もない。だからどうするか聞いてみたんだけど……。
「あら、私たちも行くわよ?その学園ってところに」
「……は?」
『え?』
ユニーレのその言葉に俺は意味が分からず、唖然としてしまい、ローレンス以外の三人も同様に呆気に取られている。
当の本人達はまるで、当たり前のように言ってくるが……。
「い、行くのか?」
「うむ、マエルから提案されてな。二人で行ったらどうだって」
「い、いやローレンスはともかくユニーレは…?」
「貴方でいうジークのポジションと同じよ。ローレンスの護衛として、学園に行かせてもらうわ」
「え、えぇ……」
ご、護衛?こいつを…?
……絶対に必要ないと思うんだけどな……。
「ナーシャだったか?そやつにも許可は貰ってある。安心せい。ちゃんと合法の元、行くことになっておるのだ」
い、いや…そもそもナーシャに頼って時点でそれは大丈夫なのか?
ていうか、よくもまぁ許可したなあの子……。
「あら、そうしたら……マリアだけ仲間はずれかしらね?」
まるで煽るようにジークはらしくもない揶揄うような笑みを浮かべ、目を細めて彼女に声を掛けた。
一方、マリアはというと……特になんともない様子のまま答える。
「あぁ、言い忘れてたわね。私、ソフィアの護衛として学園に通うことになるわよ?」
「え、えぇ!?」
ソフィアは突然自分の護衛が姉になったということで、訳が分からずに困惑の声を出していた。
「……い、いやマリア?そもそも卒業が……」
王立学園は前世の学校とは違い、七年制ということもあって結構長いのだ。
その時のマリアは七年生、一応最高学年ではあるが、まだ卒業出来るわけじゃない。
だから、普通なら駄目なはずなんだけど…。
「学園長には直談判して強引にでも許可は貰うから大丈夫よ」
「い、いや……それ大丈夫じゃないでしょ……」
その言葉に俺はついに頭を抑えてしまう。
い、いやまぁマリアは時折りこんな事するとは思っていたが……ほんとにしやがった。
「……なによ、つまらない脳筋女ね。そのままボッチにでもなればいいのに」
「ふん、ほんとはアクセルの護衛になりたかったけど……ソフィアで我慢してあげるわ。逆にありがたいと思いなさい」
「「……」」
あ、あはは……なんかどんどん原作とは真逆の未来が訪れようとしている。
……でもまあ——。
「…アクセル!」
すると、さっきまで喧嘩しそうになっていたマリアが俺の名前を呼んで、こちらを見てきた。
「これからも、よろしくね!!」
それに伴い、残りのメンバーもマリアと同じように俺に向けて、曇りのない笑顔を浮かべてるのが見えた。
「……あぁ」
——それが、明るい未来だとしたら……いいのかな?
その時の夜空を照らしていた月は……まるで、その未来を歓迎するかのようにこの街を神秘的な光で包んでいるように思えた。
◇
アクセルの、仲間達の活躍により、王国に、レステンクール家に忍び寄る危機は無事回避できた。
だか、彼らは知らない……ここからが、本当の闘いなのだと。
◇
「はぁあ!!」
ガンッ!
「ぐはぁ…」
「…はぁ、脆弱な奴らね。もっと骨のある奴はいないのかしら……?」
自身の手に持っている木刀を回しながら、強敵との戦いを待ち望んでいるピンク色の髪を持つポニーテールの少女———
◇
「……神よ…どうか今日もこの世界をお守りください……」
「聖女様、今日も神殿に怪我人が……」
「えぇ……では、参りましょうか」
嘗て、毒で犯されていたはずの人物が眠っていたベットを見ながら、今日も人々を救おうと奮闘する白金色の髪を待つ少女———
◇
「……やっと会えるのね……ナーシャが言っていた噂のお人……どんな人物なのかしら?」
「お嬢様、時間ですぞ」
「爺や……そうですね、名残惜しいですが……仕方ありません」
王都ラスティアにある城からの景色を名残惜しそうにしながらも、自身の責務を真っ当しようとするラベンダー色の髪を待つ少女———
◇
「…………くくっ」
月を眺めながら、自身の訪れるであろう未来を想像し、隠しきれない欲望が溢れ出るように笑みを深める、真紅の髪を待つ少年———
◇
「………」
そして、原作では全てを失い、現在はその未来を捩じ伏せた特徴的な白と黒のロマンスグレーの髪を待つ少年———
「……行くか」
——今、その時代のうねりの如く現れた、物語の主要人物達が誰も予測できないであろう舞台に集結する。
ペレク家編 完
25
お気に入りに追加
426
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる