全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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第81話 今後の変えるべき未来

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「バシリス、教団……?」

ソフィアの疑念満ちた言葉が俺の部屋を静寂の支配から解放させる。

「……やっぱり知らないか」

無理ないな。そもそもこいつらが明確に登場、というより世界に知れ渡るのは、原作が始まってからだ。


バシリス教団
原作の主人公、アレスの前に何度も立ち塞がった組織。しかし彼らが明確に民間人に危害を加えるのはいつもアレス達がいる時。
何故奴らがアレス達を執念深く狙ってくるか、そもそも彼らが言ってる破壊の神「グラディウス」自体もなんなのか分からないだらけだから、小説の中でも混沌の魔女に次いて謎が多い。

「女神ヘラ、魔神アフロディアならば有名だが……破壊の神グラディウスだと…?」

……どうやら、千年以上前にもその存在は認知されてないみたいだ。ローレンスとユニーレも訳わからないまま呆然としている。

「……姉さ……マリア、知ってるか?」

頬を再び赤らめ、身体をビクつかせながらもマリアは顎に手をあてて思案するが……。

「……いえ、私の記憶上、そんな教団の事なんて見たことも聞いたこともないわ」

こっちもだめか、何回も死に戻りしている彼女なら少しでも知ってると思ったが……ほんとに認知されてないんだな……。

「アクセル様……その……そのような名前の教団は私でも……」

「…‥ジークも、か」

彼女も冒険者として長年旅をしてきたということもあって少しでも知ってると思い、目線を送ってみたが……知らないらしい。

「……これじゃあ、今の所は動けない、か」

「お兄様…その教団とは一体…?」

「うーん……」

流石に原作知識でこいつらいるよー!って言うわけにはいかないので……。

「……二年後、ある奴らを襲うことで、世界に知れ渡る……俺たちの敵だ」

「……そうですか」

それだけ聞きたかったのだろうか、ソフィアはそれ以上は何も聞かずいてくれた。正直とても助かる。

それより、少し気になることが……。

「……ジーク、今まで奴の……モルクの行動で気になることはあったか?」


ユニーレの送ってくれた記憶の中に……モルクの姿があったのだ。この教団は人間、魔族のように様々な種族が集まってるのだ。
所謂……異端者って所か。

その中にモルクがいるとは思わず、長年一緒にいた彼女に聞いてみた。

「……そうですね……一つ気になることが」

「なんだ?」

「私は団長ということもあって、ある程度の団員の住所は分かっているのですが……モルクの住所だけは、全くと言っていいほど分からなかったのです」

「……ここではない何処かに住んでたということか?」

「はい、どうやら遠くから来ているようで……それに、プライベートの方も全く……」

…‥完璧に自身の情報を隠してるな、口を滑りそうな奴なのに……抜け目がない奴だ。

「それにしても、不思議な光景ね。違う種族が一つの組織に集まってるなんて……」

改めてその記憶を間近で観察しているのか、ユニーレは驚いてるように呟いてる。

元々俺はそこまで種族については深く考えてはないが、この世界で暮らす奴らは違うだろうな。

「一応、これが世界の求める姿なんだけど……いかんせん、集まってる理由がな」

……うーん、これ以上は無理、か。
俺も奴らのついての情報は皆無と言ってもよかったから、知った時は無理だと思ったが……動き始めてるという情報だけ知れただけでも十分だ。

「……とりあえす、この件は二年後に持ちこそう。だけど、引き続き情報も集めたい。頼めるか?」

その言葉にここにいる全員が頷いてくれた。

「……とりあえず、まずは王立学園に入ってからだな」

じゃないと、奴らと関わる機会が無くなってしまう……まぁ、別に本格的に関わるつもりはないけど……今回の件を経験したら一応ね。

「……いよいよ、学園生活が始まるのですね…!」

すると、ソフィアが感極まったように目を輝かせながら、こちらを見てくる。

「絶対に一緒になれるとは限らないと思うぞ?」

「いいえなります!ソフィアとお兄様の愛は絶対に切れることなんてありませんから!!」

「あ、あはは……」

俺の…というより、アクセルのこととなるとどこか抜けるソフィアの姿を見て、つい乾いた笑いをしてしまう。

「そういえば、俺たちが学園に言ってる間、二人はどうするんだ?」

マリアはまだ卒業出来ないからそのまま登校、ジークもまた俺の専属の騎士になった…らしいから護衛としてついてくる。

だけどローレンスとユニーレについては何もない。だからどうするか聞いてみたんだけど……。

「あら、私たちも行くわよ?その学園ってところに」

「……は?」

『え?』

ユニーレのその言葉に俺は意味が分からず、唖然としてしまい、ローレンス以外の三人も同様に呆気に取られている。

当の本人達はまるで、当たり前のように言ってくるが……。

「い、行くのか?」

「うむ、マエルから提案されてな。二人で行ったらどうだって」

「い、いやローレンスはともかくユニーレは…?」

「貴方でいうジークのポジションと同じよ。ローレンスの護衛として、学園に行かせてもらうわ」

「え、えぇ……」

ご、護衛?こいつを…?
……絶対に必要ないと思うんだけどな……。

「ナーシャだったか?そやつにも許可は貰ってある。安心せい。ちゃんと合法の元、行くことになっておるのだ」

い、いや…そもそもナーシャに頼って時点でそれは大丈夫なのか?
ていうか、よくもまぁ許可したなあの子……。

「あら、そうしたら……マリアだけ仲間はずれかしらね?」

まるで煽るようにジークはらしくもない揶揄うような笑みを浮かべ、目を細めて彼女に声を掛けた。

一方、マリアはというと……特になんともない様子のまま答える。

「あぁ、言い忘れてたわね。私、ソフィアの護衛として学園に通うことになるわよ?」

「え、えぇ!?」

ソフィアは突然自分の護衛が姉になったということで、訳が分からずに困惑の声を出していた。

「……い、いやマリア?そもそも卒業が……」

王立学園は前世の学校とは違い、七年制ということもあって結構長いのだ。

その時のマリアは七年生、一応最高学年ではあるが、まだ卒業出来るわけじゃない。
だから、普通なら駄目なはずなんだけど…。

「学園長には直談判して強引にでも許可は貰うから大丈夫よ」

「い、いや……それ大丈夫じゃないでしょ……」

その言葉に俺はついに頭を抑えてしまう。
い、いやまぁマリアは時折りこんな事するとは思っていたが……ほんとにしやがった。

「……なによ、つまらない脳筋女ね。そのままボッチにでもなればいいのに」

「ふん、ほんとはアクセルの護衛になりたかったけど……ソフィアで我慢してあげるわ。逆にありがたいと思いなさい」

「「……」」

あ、あはは……なんかどんどん原作とは真逆の未来が訪れようとしている。

……でもまあ——。


「…アクセル!」

すると、さっきまで喧嘩しそうになっていたマリアが俺の名前を呼んで、こちらを見てきた。


「これからも、よろしくね!!」

それに伴い、残りのメンバーもマリアと同じように俺に向けて、曇りのない笑顔を浮かべてるのが見えた。


「……あぁ」

——それが、明るい未来だとしたら……いいのかな?

その時の夜空を照らしていた月は……まるで、その未来を歓迎するかのようにこの街を神秘的な光で包んでいるように思えた。





アクセルの、仲間達の活躍により、王国に、レステンクール家に忍び寄る危機は無事回避できた。

だか、彼らは知らない……ここからが、本当の闘いなのだと。



「はぁあ!!」

ガンッ!

「ぐはぁ…」

「…はぁ、脆弱な奴らね。もっと骨のある奴はいないのかしら……?」

自身の手に持っている木刀を回しながら、強敵との戦いを待ち望んでいるピンク色の髪を持つポニーテールの少女———



「……神よ…どうか今日もこの世界をお守りください……」

「聖女様、今日も神殿に怪我人が……」

「えぇ……では、参りましょうか」

嘗て、毒で犯されていたはずの人物が眠っていたベットを見ながら、今日も人々を救おうと奮闘する白金色の髪を待つ少女———





「……やっと会えるのね……ナーシャが言っていた噂のお人……どんな人物なのかしら?」

「お嬢様、時間ですぞ」

「爺や……そうですね、名残惜しいですが……仕方ありません」

王都ラスティアにある城からの景色を名残惜しそうにしながらも、自身の責務を真っ当しようとするラベンダー色の髪を待つ少女———





「…………くくっ」

月を眺めながら、自身の訪れるであろう未来を想像し、隠しきれない欲望が溢れ出るように笑みを深める、真紅の髪を待つ少年———





「………」

そして、原作では全てを失い、現在はその未来を捩じ伏せた特徴的な白と黒のロマンスグレーの髪を待つ少年———


「……行くか」


——今、その時代のうねりの如く現れた、物語の主要人物達が誰も予測できないであろう舞台に集結する。





ペレク家編 完

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