全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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第80話 約束を果たす時

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「お兄様、ソフィア達も参加させてくれませんか?そのお話について」

その言葉が放たれると同時に、後ろにいる姉さんとジークの顔も不思議と真剣な物へと変化する。

俺は、ローレンスとユニーレに顔を向ける。

「……なんで、三人がここに?」

少し圧を込めて彼女達に問うが、それに特に臆さないで答える。

「今後のことを考えると、三人にもこの事を教えた方がいいと思ってな」

「だからって…!」

危険すぎるだろ…!そう言おうとすると、それを遮るようにジークが声を発した。

「アクセル様、二人は何も悪くありません!これは、私たちの我が儘なのです!」

「ッ!……」

「………今回の件でアクセル様がどれほど私たちのために頑張ってくれたかは、二人からお聞きしました」

その言葉からは、嬉しさ、悲しさ、不甲斐なさ……様々な想いが乗せられている言葉に動揺してしまう。

「……私たちのために頑張ってくださるのはとても嬉しいです……ですが、それ以上に……何も出来ない自分が悔しいのです」


「ジーク……」

あぁ…そうか、彼女にとって守られるというのは苦しめることと同じなんだ。守って、守られる……お互いを支え合うことが、彼女の求めること。それを……分かりきれなかったんだ俺は。

「こいつもね、アクセルのために色々と考えてるのよ」

すると、入れ替わるように姉さんが前に出て、ジークに目線を向けながら、話し出してきた。

「ねえアクセル、今日私が言ったこと覚えてる?」

……忘れるはずがない、彼女のあの表情とともに出されたあの言葉を。肯定するように俺は黙って頷く。

「……私の幸せってね……貴方がいないと、絶対に掴む事は出来ないの」

「……」

「もし、ここでまたアクセルを失ったら……今度こそ私、もう立ち直れないわ……だからね」

そう言って姉さんはこちら向いて、笑顔と言われれば酷く綺麗で…綺麗すぎてどことなくゾッとしてしまう程の迫力を出しながら、姉さんは言った。

「私は、貴方を守りたい。アクセルと……ずっと一緒に生きていたい」

「……姉さん」

……あれだけ、脆くて壊れそうだった姉さんが、今では心を強く持って生きていきたいという発言に、動揺が生まれてしまった。

「……お兄様」

そして、最後にソフィアはまで貴族の佇まいを崩さないまま、目の前まで優雅に歩いて、俺の目を逃がさないようにこちらを見続ける。

そこにはメインヒロインの格を見せられてるようで、その気迫に後ずさりしてしまう。

「……ただ、一言だけ。お兄様に告げます。これが、お兄様を苦しめるものだとしても……ソフィアは逃げません」

「ソフィア……」

「……ソフィアは、貴方の隣で貴方をお守りします。絶対に……お兄様を一人にさせない」

三人の意思、思いの強さに俺は心臓が激しく鼓動してしまう。
俺が思っている以上にここにいる三人は原作よりも強く、逞しく、美しくなって……まるで蕾が開花した花のように、輝いてて見えてしまった。

「アクセル」

「……ユニーレ」

すると俺の名前を呼んで、俺に向き合うように立ちはだかる二人の魔女が現れる。

「……お願い、出来ない?もし貴方がこの子達を守りたいなら……その想いも守るべきじゃないかしら?」

「……」

こんなこと、出会った当初なら絶対に言わなかったのにな……こいつもこいつで、俺の見てない間に成長しているんだな……ユニーレ。

「それにのぉアクセル」

今度はローレンスが彼女の口元に指を当てながら、俺に言ってきた。

「こやつらも弱いわけじゃない。寧ろ強い部類だ。我らと僅かに渡り合えるくらいにな。それを、お主が一番分かってるのではないか?」

「だから、ここで三人の協力を得ることは悪くないと思うのだが……どうだ?」

……お前の考えなんて見え見えだよ、ローレンス。だってお前の表情は……とても、優しさでいっぱいじゃないか。

「……そういえば俺、ソフィアに言ったっけな」

……一人にさせない、一緒にいるって。

それは彼女の思いを守るためにしたはずの約束なのに……やっぱり怖いんだな俺って。

でも……約束、ちゃんと果たさないとな。

そう言って、ソフィアのその柔らかい髪を撫でるように頭に触れる。

「お、お兄様……」

「……あの時の約束、ちゃんと守らないとなソフィア……だから、俺から頼んでいいかな?」

「ッ!」

彼女の瞳が揺れるのが分かった。きっと、この答えが彼女の想いも守ることなのだろう…それを理解して、俺は改めて告げる。

「……一緒に、戦ってくれないか?」

ただそれだけ、言葉だけは単純なものだ。
でも……どうやらソフィアはその言葉が一番欲しかったようだ。

「———はい!お兄様!!絶対に…絶対に、お兄様を守ってみせますっ!!」

だって……彼女の涙を流しながら浮かべるその笑顔は……とても、幸せそうだったから。

「よかったな、ソフィア」

「言ったでしょ?アクセルなら大丈夫だって」

「はいっ!ローレンスさん、ユニーレさん!本当に…本当にありがとうございます!!」

……どうやら、二人は共犯者らしいな。
まぁ、そのおかげで俺も気づくべきことに気づけたから、ここで責めるのは違うよな。

「姉さん、ジーク、二人も協力してくれませんか?」

そして、二人にも同じように言う。きっとこれでいいはずだ……と思ったんだけど。

「むぅ……」

「あっ……」

……な、なんか思ってたのと違う。姉さんはムッとしているし、ジークは少し残念そうにしてるし……えっ?今度はなにを間違えたんだ?

「あ、あのっ!アクセル……様」

すると、ジークがだんだんと弱々しくなりながらも俺に声を掛けてきた。

「?どうしたのジーク?」

「そ、その……わ、私たちにも……ソフィア様達と同じように…話して、くれませんか?」

「……え?」

そんな予想外な言葉にまた別の意味で動揺してしまった。いやだって……。

「姉さんは姉さんですし…ジークは団長だから……失礼じゃないですか?」

「姉さんだからってなによ!?私は素のアクセルと関わりたい!ていうか、ソフィアばかりずるいわ!!」

「マリア、落ち着きなさい……そのことですがアクセル様、実は少しご報告したいことが……」

姉さんを宥めつつ、俺に何か言いたいのか、そう言ってくる。

ん?なんだ?

「実はですね……私、騎士団長を辞職しました」

「……えっ?えぇええ!?」

「それで、マエル様に頼み込んで、アクセル様の専属騎士になりました」

「えぇえええ!!??」

ジークのその怒涛の言葉に驚きすぎて言葉を失ってしまった。

う、嘘だろ……そんなことあり得るのか?
というか、ジーク最近、積極的過ぎないか!?

団長をやめるって…そんな簡単なことじゃない気がするけど。

「じ、じゃあ一体誰がウィンドブルムの団長を……」

「レイスに頼みました」

「えぇ……」

なんともないように発言したであろうジークの言葉に、最早呆気に取られてしまう。

じ、ジークって意外と行動的なんだな……あ、いや、そもそも王都出身なのに、こんな所で騎士の団長やってる時点でそうか……。

「これからはアクセル様を守るために全力で頑張ります。なので私のためを思って……あの人達と同じように、関わってくれませんか?」

「うぐぅ……」

じ、ジークのそんな頼みに俺は心が揺らいでしまう。いやだって、あんなに切なそうな声で言われたら……。

「ね、姉さんはどうなんですか?流石に僕にそう呼ばれるのは……」

姉さんに助けるようにそう呼ぶが、彼女もどうやらジークと同じようで……。

「私、素のアクセルと関わる方が幸せだなぁ」

「ぐぅ……」

そ、そんなこと言われたら……断れないじゃないか。

「……お願い、アクセル……お姉ちゃんのこと……めちゃくちゃにして?」

な、なんかこれ以上いくとやばい気がするんだけど!?

……はぁ、仕方ない。

「……分かった、俺の負けだ。これでいいか姉さん、ジーク」

これのどこがいいのか分からないまま、俺は二人に声を掛けた。


……だが、未だに返事が来ない。なんだ、また何か間違えたか?

「あの、姉さん?ジーク?流石に返事ぐらいして欲しいんだが……」

「「………」」

二人の方を見ると……凄い顔を真っ赤にさせてこっちを凝視してるんだけど……。

「ね、ねぇアクセル!」

「なんだ姉さん?」

「ッ!そ、そのぉ……私のこと、マリアって呼んでくれない?」

「えっ?」

「お、おねがい……」

……な、なんだ?どうしてさっきより色っぽくなった?姉さんの……マリアのそんな様子に動揺しながらも、まぁいいかぐらいの気持ちで答える。


「…マリア?」

「ッ!!!???」

「ん?どうしたねえさ「こ、これからはマリアって呼んで!!!」……え、えぇ…?」

そう言うと、姉さん……およびマリアは未だ放心状態であるジークを連れて俺から離れて行った。


「ね、ねぇジーク………あ、アクセルがいつもより凄くかっこよく見えるんだけど……どうかしちゃったのかしら、わたし?」

「……あ、あんたに同意するのは癪だけど……アクセル様がその……いつもよりも男らしく見えたのは本当ね……」

「……かっこいいわよね?」

「……そうね……か、かっこいい…わね」

……うーん、ボソボソっと何か言ってるっぽいけど……気にしない方がいいのかな?

そうして、俺の部屋で混乱状態から落ち着くまで、また数時間はかかるのだった。





「……じゃあ、今から私が得た情報をみんなに渡すわね」

外が暗くなった頃、ようやく静まり返ったので、俺たちは魔族達の目的について話し合うこととなった。

それで今は、ユニーレが手に入れた情報を俺たちに共有する所だ。

「じゃあいくわよ?」

そうして、彼女が指をパチンッも鳴らすと……。

『ッ!』

…彼女が得たであろう魔族の情報が、俺たちの頭に流れ込んできた。

………それにしても、これは…………。


「どうやら、この集団が関わってるらしいのだけど……アクセル、なにか分かるかしら?」

ユニーレのその言葉とともに、みんなの視線がこちらに向かれる。

俺はしばらく考えた後……隠すわけにもいかないので、原作で登場した……後の主人公達の敵の一つであるその集団の名前を呟いた。


「……破壊を司る神、グラディウス」

「……その神を崇める、狂人だけが集うと言われている教団……バシリス教団」


その単語が吐かれた時、俺含む全員の緊張感が増した気がした。
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