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第75話 改変した未来、守り抜いた日常
しおりを挟む「ちょちょ!ま、待ってくれソフィア!?」
「あはは!お兄様!早く早く!!」
現在、俺たちはレステンクール領に向かっているのだが……俺は今、妹に手を引かれながら走ってるため、転びそうになっています。
というか、ソフィアの様子がおかしい。
なんか今までに見たことがないくらいに、幸せオーラを出しており、表情ももう次の日には顔が引き攣るんじゃないかってぐらい笑顔だ。
………ってそんなこと考えてたらやばい!
こ、転ぶ!?
「うおわっ!」
「きゃあっ!」
ついに俺がバランスを崩して転んでしまう。
そのせいで手を繋いでいたソフィアも一緒に転んでしまい、共倒れになってしまう。
「いてて……」
「……ふふ、あはは!お兄様!!」
そんな笑い声を出しながら、同じように地面に倒れているソフィアが俺に抱きついてくる。
「そ、ソフィア?」
「ふふっ、楽しい……楽しいです!お兄様!おにいさまぁ!」
よくよく見ると、まだ涙が引いてないのか、瞳が潤んでいる。そんなに嬉しいのかな?
なんか、今のソフィアを見ると、本当に妹と遊んでいる気分になる。
彼女が人として結構完璧に近いから、こういう姿を見れるのは嬉しいのだが……。
「……ソフィア」
「はいっ!」
「……帰ろっか」
……うん、この状態まま帰ると絶対に遅くなる。それでみんなにまた心配させるのもよくないしね。
彼女にそう言うと、今も俺にひっついているソフィアを抱き抱えたまま起き上がる。
「きゃあっ……えへへ、おにいさまぁ」
だが、未だに彼女は余韻が抜けきれてないのか、俺にギュッと抱きしめている。
うーん嬉しいような、苦しいような……。
そう思いながら、ソフィアを抱き抱えて歩き始める。
幸い、この森はレステンクール領から近いところにある。というか、ここで昼寝をしたりしてるので見覚えがある。
なので、特に迷うことはなく帰ることが出来る……のだが。
(……虚無活性:気配察知)
その魔法名を使うと、街のすぐそこにある平原の様子が分かるようになる。
その様子を見て俺は……ひとまず安堵の息を吐く
(……どうやら、全員倒したようだな。それに魔物の気配も感じない……ユニーレがやってくれたようだ……ただ)
そう考えながら前方を見ると、そこにはあの戦場で生き残った魔物達がこちらに向かってきている。
「……まぁ、数は多くないし、後始末だと考えるか」
そう言いながら、こちらに気づいて襲おうとしてくる魔物に対して魔法を……使おうとした。
「氷結の槍」
すると数百はあってもおかしくない氷の槍が奴らに向かって放たれる。
奴らは悲鳴をあげることなく、そのまま氷漬けにされた……って待って、突然すぎて驚いてしまったんだけど?
「…ソフィア?」
「はいっ!」
その魔法を使ったであろう妹に目を向けると……さっきと変わらず満面な笑みを浮かべている。
「ソフィアが、やってくれたのか?」
「はいっ!ここでお兄様の手を煩わせるわけにはいきませんので、ソフィアがやらせていただきました!」
「そ、そうか……うん、助かったよ、ありがとう」
そう言うと、ソフィアはパァっとさらに笑顔にさせ、顔に手を当てて身体をもぞもぞしている。
「そんな……当たり前ではありませんか……ソフィアはお兄様を隣で支える……妻、なのですから……きゃっ!」
俺の耳には聞こえないぐらいの声量で何かを喋って、その後恥ずかしそうに手で顔を隠している。
なんか、色々と聞いてはいけないと思った俺は、あははと笑って受け流してそのまま氷漬けになった魔物の横を通り過ぎる。
(……あんな強かったか、ソフィアって?いや確かにメインヒロインで魔王とやり合う実力は持ってたが……今の強さは……)
そう思いながら、今も幸せそうにしているソフィアの方を目をやる……うん、なんか、この子なら誰にも負けなさそうな気配を感じてしまう。
「……と、そろそろ森を抜けそうだな」
いつの間にか森を抜けそうな所までやってきたので、ソフィアを下ろす。
あっ……と声を出して少し名残惜しそうにしている姿に少し苦笑してしまう。
「ほら、帰るぞ。みんなに言わなきゃいけないことがあるだろ?」
「……はい、そうですね」
すると、ソフィアが何かを決心したように顔を険しめる。いや、別にみんなに謝ればいいだけだからそこまで緊張する必要ないと思うのだが……。
「……行きましょう、お兄様」
「……あぁ」
そして森を抜け出して、戦場となった平原へと向かっていき……その光景に俺たちは唖然としてしまう。
俺たちの目に映ったのは……俺たちの帰りを待っていたかのようにこちらを見守っている大量の人々の姿。
「「アクセル!!」」
すると、その人だかりから抜けて猛スピードで俺の方に向かって来ている二人の人物が見える。
「「アクセル!!!!!」」
「うおわぁ!!」
再び俺の名前を呼んで、勢いよく抱きついてきた。二人の勢いある突進に顔を顰めてしまうが、なんとか倒れずに彼女達を受け止める。
「……ね、姉さん……ローレンス」
俺の身体と首に物凄い力でしがみついている二人になんとか声をかける。ズビッズビッと鼻を啜るような音を立てながらも姉さんが答えてくれた。
「……よ、よがっだ……!アグゼル……もどっでぐるの、おぞいがら……でっぎり、じんじゃっだどおもっで…!!」
「……約束したでしょ?必ず生きて帰ると……無事に帰りましたよ。マリア姉さん」
「…ゔん……ゔん……!!!」
何度も頷いて俺の首に顔を埋める姉さん。
そんな姉さんを宥めてると、今回の件で一番頑張ってくれた一人を放っておけないなと思い、今も腰にしがみついているローレンスに声をかける。
「ローレンス」
「アクセルっ!」
するとポロポロと涙を流しながらも、俺の方を向いて、まるで幼い子供のように話しかけてくる。
「我、ここにいる人達を死なせずに守り抜いたよ!お主の父も無事に助けたよ!世間から恐れられて、混沌の魔女と呼ばれて、独りだったこの我が……みんなを…!!」
「……あぁ、お前が頑張ってくれたのは、俺が一番知ってるよ。改めてありがとうな。俺の大切な場所を、大切な人達を守ってくれて」
「ッ!!う、ゔぅ……うわああああああああああんん!!!!アクセルウゥゥウウウ!!!!」
俺の言葉についに涙腺が崩壊したのか、ローレンスは今まで辛かった分を吐き出すように大号泣をする。
その二人の様子を頭を撫でながら宥めてると……ユニーレがソフィアを抱きしめてる様子が目に映る。
「ゆ、ユニーレさん……」
「……兄妹揃ってバカな子達ね。どれだけ心配したと思ってるのよ」
「そ、その……」
「……ごめんなさいね、アクセルを守り切る事が出来なくて。貴方の想い……考えてなかったわ」
「そ、それは…!」
「……無事で良かったわ。生きてくれてありがとうね、ソフィア」
「ッ!ゆにーれ、さん……ごめんなさい…!
ごめんなさい!!ユニーレさんも辛かったはずなのに……私……!!」
「ふふっ、いいのよ……あなた達が、無事に戻ってきてくれるだけで……それで……」
どうやら、あっちも仲直りは済んだようだな。お互い涙を流しているが、その様子は少なくとも悪くないようだ。
「…‥アクセル様」
すると、前方から俺に声をかける人物がいる。
「ジーク……」
そこには傷つきながらも、少なくない涙を流しながらも控えめな笑顔を浮かべているジークの姿があった。
「……ごめん、モルクのこと……」
「いいんです」
ジークはそんな俺の言葉を遮るように首を横に振り、こちらを見つめる。
「貴方が無事に帰ってきたんです……それだけで、今は十分です」
「ジーク……」
「改めまして」
すると、今度は俺に向かって跪いて、彼女は戦況を報告した。
「ウィンドブルム、一人を除いて全員無事です。この戦いは……私たちが勝利しました…!」
すると後ろから騎士達の勝利の雄叫びが轟響いた。それは俺たちの完全勝利だと伝えてるような、そんな気がした。
「……そうか」
俺は今も号泣している二人を抱きしめながら、跪いているジークの方を見た。
「ジーク」
「……はい」
「……よく、頑張ってくれた。ジークの想い、ちゃんと伝わったよ」
「ッ!はいっ!!」
すると、ジークは顔を上げ、俺の方を見ており、おそらく彼女の中では過去一とも言ってもいい程の笑顔を俺に向けていた。
「…み、皆さんも、二人をお待ちしておりますよ」
器用に指で涙を拭きながら、ジークがそう言って道を開けると、そこには四人の人物が目に映った。
「アクセルッ!ソフィアッ!」
すると一生懸命走りながらこちらに向かっている人物が見える。
空気を読むようにジークとユニーレは今も俺に抱きついてるマリアとローレンスを引っ剥がす。
そして、入れ替わるように、一生懸命こちらに走ってきた人物が俺たちに抱きついてきた。
「お母様…!」
「母上…!」
そんな母上、リアーヌの様子に驚きながらも、泣きながら話しかけてくる。
「ごめんね……ごめんね…!貴方たちが辛い思いをしてる時に、何も出来なくて…!」
「そ、そんなことありません…!お母様は私たちのことを大切に……う、うぅ……」
母上のそんな様子にソフィアは耐えきれずにまた涙を流してしまい、俺はそんな二人の様子を黙って見守っている。
すると、がらがらと音を立てながらこちらに歩いてくる二人の人物と今も横になって運ばれている人物が目に映る。
「兄上……父上……ナーシャ」
「……はい、アクセル様。ナーシャ・カロナイラ、只今参上しました」
すると穏やかな笑みを浮かべながら、鎧を着てもなお、品のなさを感じさせない令嬢、ナーシャが声をかけてくる。
「アクセル様……本当に、よくぞここまで頑張ってくれました……王国を代表して、お礼を申し上げます」
「……当然のことをしたまでです……それにお礼を言うのは僕の方ですよナーシャ。我が儘を聞いてくれてありがとうございます」
「いえ……私も、貴方を信じて良かったと心から思っております……騎士様」
目を細めながらこちらを見つめ、笑みを深めるナーシャ。
そして、彼女は自分の言うべきことを終えたように後ろに下がると、今もストレッチャーのようなもので横になってる父上とそれを運んでいる兄上がこちらに来た。
「……アクセル」
兄上はそれだけ言うと、俺に抱きついてくる。勿論父上も一緒にだ。
「ふ、二人とも…」
「……今は、何も言わないよ。ただ一言だけ……よく無事に帰ってきてくれたね」
「ッ!……はい」
父上のその言葉に俺はグッとくるものを抑えて、なんとか返事をする。
兄上の方を見ると、彼もまた穏やかな表情をしながらこちらの方を向いてくる。
それに対して俺は目を逸らしてしまう。
「なんだいアクセル?恥ずかしいのかな?」
「……うるさいです、兄上」
そのやり取りに兄上はあははと笑っている。
……何故かこの人を見ると恥ずかしくなってしまう。
「……マリア」
「ッ!」
父上の小さな声は彼女に届いたようだ。姉さんは躊躇しながらもこちらに少しずつ寄ってくる。
「……と、父さ…ッ!」
「………頑張ってくれて、ありがとう。マリアが命を掛けてここを守り抜いてくれたこと……私は誇りに思うよ」
「ッ!!お、おとう…さん…!」
父が姉さんを抱きしめ、そんなことを言ったせいだろうか、再び引っ込めたであろう涙が溢れ出てしまうかのように姉さんもまた、泣き始める。
「マリア…!」
「お姉様…!」
「ッ!おかあさん!ソフィア!」
父上を抱きながら、母上とソフィアに抱きつく。
最早もみくちゃ状態だ。だが、父も、母も、兄も、姉も、妹も……そして俺アクセルも、全員が揃っている。
……あぁ、そうか……俺は……変えられたんだ。
今まで夢見た光景が、ずっと願っていたこの光景が……家族一人として欠けてない……そんな未来を……ハッピーエンドを迎えられたんだ。
『……ありがとう』
「ッ!」
どこからか声が聞こえた。すると、人気のない場所に誰かがいるのが見える。
“………あぁ……守り抜いたぞ……”
そんな俺の想いが伝わったのか、今まで深い憎悪と悲しみを持った彼は、俺に向けて口元を緩ませて、瞬きした時には、まるで何もなかったかのように消え去った。
(……お礼を言うのは、俺の方だ……俺に、未来を変えるチャンスを与えてくれて……ありがとう)
空を見ながら、光となって消えていく彼を見ながら、俺はそんなことを思う。
「……ははは、そうか……みんなを……守れたんだ」
その呟きで俺も限界を迎えてしまう。
ただ、誰にも気づかれないように一粒……一粒だけ、水を垂らして目を閉じる。
これが……俺の望んだ未来だと思いながら。
「……あ、あのっ!!」
すると、俺の隣から誰かが大きな声で叫んでいる。
その声の主は……ソフィアだ。
「み、皆さんに……お伝えしたいことがあります!!」
さっきの感動していた様子とは裏腹に、頬を真っ赤にしており、その場にいた全員が我慢に思ってしまう。
大事なことなのだろうか、俺たちはお互い抱きしめるのをやめて、ソフィアから距離を取る。
「ソフィア、どうしたんだ改まって?」
俺がそう聞くと、ソフィアは落ち着かせるように深呼吸をしながら俺の隣に立つ。
(?なんだ…?)
そんな疑問を抱きながら、彼女の言葉を待つと……超特大級の爆弾発言をソフィアは全員に言い放った。
「……………わ、私とお兄様は………し、将来を誓い合って………結婚します!!!!」
…………………
………………………………
…………………………………………ん???
『……え?』
『……は?』
反応が二つに分かれた。
一つは意味が分からず唖然とした者達の反応。
もう一つはそんな言葉に怒りを覚えた者達の反応。
もちろん俺は前者だ………って違う!?
「何言ってるんだソフィア!!??」
その言葉に俺は叫んでしまう。ソフィアはというと俺の方を蕩けたような表情をしながら見つめている。
「だってお兄様、言ってくれたではありませんか……ソフィアが望む限り、ずっと一緒にいると……これってもう、結婚することを意味しますよね!!」
「いやなんか違う!?ずっととは言ってないし、それは結婚を意味してるわけじゃないぞソフィア!!??」
「そんなこと言ったって無駄ですよ?ソフィア達は……愛し合ったではありませんか?
きゃっ!」
そんな妹の様子に俺は頭を抱えてしまう……それにしても何故だ、俺の周りからとてつもない殺気を感じるのは?
「……ソフィア……それは、聞き捨てならないわね」
「……ユニーレ、今回ばかりはお主の弟子だからといって手加減できんぞ」
「ふふっ……遠慮なんかしなくたっていいわよ。元々、私がそうするつもりだったわけだし」
あ、あぁ……主に三人からとてつもない程の殺気が……!?
ていうか待て!あいつらが暴れ出したら街が終わるぞ!?
「……あ、あの…アクセル様」
「……えっ、じ、ジーク?」
するといつの間にか俺のそばに近づいたジークが瞳を潤わせながら、今にも泣きそうな雰囲気を出して俺に聞いてくる。
「ご、ご結婚、されるの、ですか?そ、その……私は、二人が幸せなら、お、お祝い……お、いわい……ふ、ふぇ……!」
「じ、ジーク!?違う、違うから!?確かにソフィアとは約束とかはしたけど、結婚とかしないから!?」
な、なんだ!?ジークが泣きそうなことだったのか!?と、というかジーク、こういうことに興味なかったよね!?
「アッハッハッハ!!父上、母上みてください!!アクセルが、修羅場にあってますよ!!ハハハハ!!」
「「はぁ……」」
「……アクセル様……後で事情を聞かなければ」
な、なんか見守ってないで助けてくれよみんな!?あ、ナーシャは少し嫌な予感がするからパスで……。
「アクセル様がついにご結婚されるぞぉ!みんな!!精一杯祝おうじゃないか!!」
『うおぉおおおおおおおおおお!!!!!』
あ、あの野郎ども…!
こっちは必死だってのに…!あとで絶対にぶちのめしてやる!!
「お兄様!!」
すると、この騒ぎの元凶でもあるソフィアが頬を赤ながら笑顔で俺に言ってきた。
「おかえりなさい!!」
……はぁ、これは……また大変になりそうだな。
そう思いながら、俺は笑みを浮かべながらソフィアに……みんなに返した。
「………ただいま」
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