全て失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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第66話 向き合わなければならない事実

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魔法でペレク家の奴らを一方的に蹂躙していった後、俺は戦場をウィンドブルム、そして彼女らに任せることを決めて、自分の妹であるソフィアを探すべく、空を飛び、ある場所に向かっていた。

「ローレンスやユニーレの様子を見る限りソフィアが行方を晦まして数日は経ってるはずだ......だが、なんで母上は連れ去られてない?」

飛んでいる途中、俺はある疑問が思い浮かぶ。
原作では盗賊に襲われて、連れ去られたのはソフィアとリア―ヌである母上だ。
なのに、彼女達の情報からは攫われたのはソフィアだけ。母であるリア―ヌについては特に言及されていなかった。

「......いや、そもそもがおかしい。なんで今じゃない?明らかにソフィアが行方を晦ました次期が早すぎる。それに父上の様子から見るに今日までに外部から傷を負わされたとは思えない……一体なにが?」

考えば出せば出すほど浮き出る疑問。
これも歴史を変えた影響……?
だとしてもここまで変わるものなのか……。

「……少し急ぐか」

嫌な汗を垂れ流しながら、移動速度を上げながらある場所へと移動していった。







"……あれ?ここは……?"

辺りを見渡すとそこには見覚えのある……忘れるはずがない、彼女の……ソフィアの故郷であるレステンクール領の街並みの光景。

嘗て誰かが言っていた平和で何気ない日常の数々が彼女の目に映っていた。

そんな街を眺めていると、そんな日常が続いて欲しいと自分に言った人物の後ろ姿がある。

"お、お兄様…!"

その姿は今よりも少し幼いが、そんなものソフィアには関係なかった。

目の前にいた人物……アクセルの姿を見て自分の身体をすぐにでも動かそうとする。

今すぐに会いたい、話したい、抱きしめたい、そして、聞きたかった。

どうしてあの時、自分を犠牲にして私たちを守ったのか、何故私たちに何も言ってくれなかったのか……自分の無力さを感じながらも彼の本音が聞きたかった。

だが、彼女の想いとは裏腹に身体は鉛のように動かず、声は何かに塞がれているのか発することも動かすことも出来ない。

ソフィアはそれを理解すると、自分の動かない口で歯を食いしばりながら、大人しく彼の後ろ姿を眺める。

その時のソフィアから見たアクセルはどこか遠くを、そして何かに抗うように一人で進み続けてるように見えてしまった。

孤高の一匹狼の呼ばれている自分の姉や、嘗て世界を滅亡させかけ、生きるためにその道を進み続けた二人の混沌の魔女が可愛く見えてしまうような……そんな重く、重圧で息が詰まりそうなアクセルの雰囲気をソフィアは彼の後ろ姿だけでも明白に理解できた。

そんなことを考えると彼は自分達の家でもある屋敷を少し眺め、また別の所に進む。

すると視界が光に包まれ、あまりの眩しさにソフィアは一瞬だが目を閉じてしまう。

そして視界が落ち着き、目を開くと次に映ったのは、自分の大切な師であるユニーレと死闘を繰り広げているアクセルの姿。

"……ユニーレさん"

ユニーレのその感情を感じさせない表情を見て、ソフィアは密かに胸が痛んだ。

あの人も、そしてもう一人の片割れであるローレンスも全てを諦めたように目の前にいる自分の大切な人物を消し去ろうとしていた。

今の彼女達が笑えているのはアクセルのお陰だと、ソフィアは理解できた。

そして自分のために彼女なりに慰めようと、手を伸ばし続けようとしていたユニーレを思い出し、咄嗟に顔を曇らせてしまう。


"……謝らなければ……私はまだ……"

だが、自分の薬指に嵌っているキラリと薄らと光る指輪。

それを見て彼女の表情が悲痛に歪めてしまう。分かっている……自分の兄は……今、毒に犯されているのだと。そして……それは、この世界の「死」を表してるのだと。

そう……彼は、兄は死んだのだと。

それを理解しようとすると……息が苦しくなり、出来なくなる。乾いていたと思っていた涙も目から溢れ出てしまう。


"……無理です……私には、お兄様がいないと……なにも……"

すると、さっきみたいに視界が光に包まれる。
次はなんだと思いながら涙を流しながら、目の前にある光景を見る。

そして彼女の目に映ったのは、男爵会議により赴くこととなった王都ラスティア。


ソフィアはアクセルを探すべく辺りを見回し、そして現在と同じ年齢であろう姿である彼を見つけた。

アクセルが見ているのは……全てが狂い始めたであろう出来事が起こった、イベルアート家の屋敷。

"ッ!だ、だめっ!!"

本能で悟ってしまった。このまま放っておけば兄は……アクセルはまた何かに呑み込まれてしまうと。

これがたとえ夢であっても、それは…それだけはあってはならないという思いで鉛のような身体を必死に動かそうとするソフィア。

だが、いくら想いが強くてもそれは虚しいと言っているかのようにアクセルは前へ進み続けている。


"お兄様……!お兄様!!私を……ソフィアを置いていかないで!!!"
























「ごめんな」


"ッ!"

そんな声が聞こえた気がした。前を見ると、寂しそうに、それでも心配させないように微笑んでいる兄の姿。

そんな彼の姿を見て、ソフィアは悲痛で埋もれてしまう。

あぁ、違う、そうじゃないんですよと。私はただ、貴方に幸せになってほしくて……これからも一緒に居てほしいだけなのですよと……そんな届かない思いを胸にだんだんと意識がぼやけていった。

「……おにい、さま」





「……着いた……ここにいるはずだ」

そこにあったのは一つの洞窟。
それはユニーレやローレンスに頼んで探してもらったあの魔石鉱脈が見つかった場所でもある。

彼女達にこの場所を探してもらった理由にゼノロアに一泡吹かせるのと他にもう一つあった。

それは原作でアレスがソフィアを見つかったのがこの場所だからだ。

正確に言えば、魔石鉱脈を探していたら、ソフィアとリアーヌの死体が見つかったって感じだな。

だからもし原作が変わってないのならこの場所にソフィアは見つかると思ったのだ。

俺は改めて息を整えて、収納ボックスから政宗を取り出し、その暗闇とも言える洞窟に光魔法で明かりをつけながら入っていく。


足元がボコボコになってたり、視界があまり安定しないが、少し嫌な予感を感じてたのであまりもたもたしている訳にもいかず、慣れない場所で走り続ける。

「ん……?な、なんだお前っ!」

すると、おそらくソフィアを攫ったであろう盗賊共が数人、目が入った。

だが、俺はそんな奴らに手間をかけるわけにはいかなかったので——

「邪魔だ」

——疾走しながらそのまま鞘から刀を抜いて、一瞬にしてそいつらを首を刎ねた。


「おい、質問に答えろ」

一人だけ残して今も地面に転がっている盗賊の首に刀を向け、圧を放ちながらそいつに問う。

「ここに俺と同い年の白髪の女の子がいるはずだ。場所は分かるか?」

「ひ、ひぃっ!た、助け…!」

だが、そいつは俺の質問に答えずそのまま立ち上がり逃げようとする。

それが答えだと理解して、すぐに刀で目の前の奴の首を切断し、返り血を浴びずに再び疾走する。

「チッ…!素直には教えて貰えないか」

だが、まだ洞窟の中は一直線。
このまま進めばソフィアが見つかるはずだと信じて、途中で出てきた魔物や熟年であろう盗賊達を斬り捨てながら進んでいく。


しばらくすると、洞窟にしては少し広い空間であろう所が見える場所まで着いた。

俺は一旦その入り口にあった大きな岩に潜めてその空間を見まわした。

そこには先ほどよりも人数が多い……少なくとも五十人はいるであろう盗賊の数々。

だが、それだけじゃない。奥を見ると何か牢屋のような場所が見える。
場所が遠くであったり、奴らの身体でその中がどうなってるのかが分からなかったので、
少し魔法を使う。

「虚無活性:視覚強化クリア・ビジョン」

すると遠くでぼやけていた物が嘘のようにはっきりと見えるようになった。

俺は極限までに強化した目でそのまま見渡す。


(……奴らがここに居座ったのは最近みたいだな。あの牢屋の鉄格子も真新しい。ここだけじゃないかもしれないが、物資も少ない……それに)

牢屋の中を見るとそこには少なくない女性や子供の数々が目に入った。

生きているように見えるが、目は死んでいる。地面にはおそらく奴らに慰み物にされたであろう人たちも存在する。

流石にその光景は胸糞が悪く、思わず顔を顰めてしまう。

「なぁ、最近攫ったあの貴族の娘はいつ遊ぶんだよ?」

すると盗賊の一人である奴が周りの仲間にそんな事を聞いてるのが耳に入る。

貴族の娘……ソフィアのことか…!

その情報をいち早く聞くことが出来たことに対する安心と……聞き捨てならない言葉に
俺の頭の中で何かが切れた物を感じながらそのまま奴らの話を聞く。

「まぁ慌てるな。そのうち貴族のお偉いさんの許可が出るはずだ。それまで気長に待とうぜ」

「偶然拾ってきたが娘、まさかあんな美少女だったとはな。いやぁそれにしても早く襲ってやりたいぜ。俺たちのために泣き叫ぶ姿を想像したら……あぁ、ゾクゾクする!」

「おいおい、順番にやれよな?まずは俺からだ。おそらく貴族の娘だからな、すぐにでも屈服させてやるよ」

「はぁ!?お前からやるとすぐに使えない女になれじゃねえか!!やめろよ!あれは滅多に見れないものなんだぞ!!」

「だからこそ壊し甲斐があるじゃないか?それに最近、遊んでいた奴が壊れて飽きてきた所なんだ。ここらでじっくりとあの貴族娘を味わおうぜ」

下品に広がっていくそんな胸糞の悪い発言の数々。

……………

「……あ?なんだお前?」


周りの奴らが俺に気付いたのだろう、コツコツと靴底を石床を踏む音が洞窟内に反響し、
五十人余りの盗賊共の集団に近づいく。

「あー、こいつあれじゃね?前俺たちが逃した奴の仲間とか」

「にしては少し服がしっかりしてねぇか…?
まぁいいや。おいガキ、ここは近々、俺たちのアジトになったんだ。そこに近づくってことは……どうなるか分かるよな?」

ギャハハハと再び盗賊達の下品な笑い声がこの洞窟内を支配する。

よく見ると、牢屋にいた女性や子供も俺の存在に気がついたようだ。だが、そこには諦めの表情が映し出されており、目は暗く澄んでいた。

………だが、そんな周りの空気など関係なく、俺は目の前にいた盗賊の手を奴らの目では見てないであろう速度で刀を抜いて切断する。

「……………………あ?」

沈黙が支配していた中、本人は手を間近に見て、そして斬られたと理解した瞬間、絶叫が響き渡った。

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!手!!俺の手がぁあああああ!!!!」

「黙れよ」

二連撃。今度は奴の首に斬撃を入れそのまま絶命していった。

「………おい」

自身の腹の底から絞り出すような声に、奴らは青ざめ、足をガタガタと震わせている。
人数はそっちの方が多いのに、おかしな奴らだな。


「…………うちの妹に、何するって?」







そこから先はあまり覚えていない。だが、落ち着いた時には目の前は血の海になっていた。

そして牢屋の人たちはその光景に全身を震わせ、涙を流していた。

どうやらここにいた盗賊を全員皆殺しにしたみたいだ。

まぁ……怖がられるのも無理ないかと思った。普通、人を殺すのは躊躇することであり、この世界でもあってはならないことだ。

だが、大切な人達を守るためにそんな倫理を捨てた俺はそれを平気でやってのけている。

だから、今彼女達に映ってるのは俺は悪魔か何かだろうな。

そんなことを考えながら牢屋を見回すと……自分が今、最も会いたかった人物が目に入った。

「ソフィア!!」

牢屋を断ち切り、今も意識を失ってるであろう彼女の身体をそっと起こす。

周りの人は俺が近づいたことで声にもならない悲鳴を上げていたが、そんなもの関係なかった。


「………良かった。少し痩せ細ったかもしれないけど、それ以外は特に何も問題ないみたいだ」

ふぅっと緊張が発散するように息を吐いてしまう。

痩せてしまったのはきっと俺が原因なんだろうな……とそんな考えをして苦笑した時……
後ろから突然声が聞こえた。





「いやぁ、流石っすねぇ」


「ッ!」

その声に俺は得体の知らない物を感じてしまう。今も意識を取り戻さないソフィアと周りにいる人たちを守るべく、牢屋から出て、刀を構える。

「まさか毒が含まれた魔法薬を飲んで生きているとは。あれ、俺の自信作なんですよ?なんで生きているんですか?ハハッ、ウケますね」


その声とともに徐々に見え始めるその姿に俺は………当たってほしくない予想が当たり、悲しみと怒りで顔を歪めてしまう。


「にしてもなんで英雄ブリュンヒルデじゃなくて貴方が飲まれたんですかね……まぁ相手が相手にしろと言われたらそれまでなんですが、少なくともここまでバレるとは思わなかったっすのにねぇ、いやぁ
やはり俺の見解は合っていたということっすか」

そう言いながら顔の笑みを深める人物……おそらくこの事件にいたもう一人の黒幕、そして……俺たちの中にいた裏切り者が立ちはだかる。







「ここで一番警戒するべきなのは貴方だったんですね……アクセル様」


その声に対して俺は………その向き合わなければならない真実に目を逸らさないように
真っ直ぐと目の前にいる人物へと告げる。

































「………君のナンパ程じゃないよ。モルク」

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