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第七十話 ロールプレイは難しい

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 春田が診療所を出た後、俺たちは作戦会議を行っていた。

 悟「今回のシナリオはこの明野町での連続殺人事件を舞台としたシティ型。探索するにも時間がかかる。だから今回は三チームに分かれて探索を行いたい。」

 晩野「三チームとなると二組づつのペアになって一人余ることになるが、そこはどうするのかね?」

 悟「俺が一人で探索する。」

 月島「一人でだなんて危険すぎますよ!それに春田さんが言ってたじゃないですか、一人になったらいけないって。」

 悟「忘れたのか?俺にはライダーシステムがある。探索に特化したこのキャラシもな。それにだ、あの春田さんは、個人メタ的な考察もあるんだが信頼ができない。」

 伊角「私もそのことについては思うことがある。月島ちゃんが春田さんに聞いていた指輪。あの指輪には魔力が込められていた形跡があった。」

 悟「指輪に魔力を付与する呪文だろ?確か木製の指輪で行えたはず。」

 伊角「そうそれ。」

 狭間「僕も春田さんのことちょっと信頼できないかな。伊角みたいに提示できるような根拠はないけど。嘘をついているような気がして。」

 悟「そうなのか?ダイス判定でもしたのか?」

 狭間「いや、本当に感というか。」

 悟「まあ、そういった感もCOCじゃ役に立つことは少なくない。とりあえずは、春田は警戒ってことで。それじゃあ、各々の探索場所に移動ってことで……」

 そうして俺たちは診療所を後にし各々の探索場所へと向かった。

 大学では多くの学生が下校していた。どうやら今日は午前中で終わるところが多いようだ。

 いればいいんだが… 

 適当な生徒に声をかけようとしたら、ちょうど正門から女子生徒が出てきた。風貌を確認してみればあの資料で見た"宮塚晶"と然程、違いは無かった。

 どう声を掛けたらいいものか。やはりあれか?下手から出て協力を仰ぐほうがいいか?いや、相手は大学生だぞ?しかも女子。COCとは違い、時間は待ってくれない。ええーい、ままよ!

 悟「そこの君!もしかして俺のこと知ってる?」

 宮塚「…え?」

 悟「…」

 まっずー!ロールプレイミスったか!?!?

 宮塚「誰ですか?サークルの勧誘とかならお断りしますけど。それともナンパですか?…はぁ、めんどくさ」

 呆れられているがなんとか話はできそうだ。

 悟「えーと、宮塚晶さん、で合ってますか?」

 宮塚「だから、何?」

 悟「中川悟というものです。」

 宮塚「はあ、中川さん?どーもデース。」

 うーん、信用している感じがしないな。目で見てわかるほどに。ここはダイスに任せますか。確かこの場合は信用か、説得だったな。

 信用(15)、説得(15)

 うぉぉぉい!!!何で初期値なんだ!?探偵職のくせして何で「言いくるめ」なんて取ってんだ!おかしいだろうが!!!ここも信じてダイスを振るしかない!

[悟
 信用(15)→決定的成功クリティカル(1)
 信用(15)→失敗(73)
 成長2D10→15
 信用(15)→信用(30)]

 まって、今日本当に怖いんだけど。なんでこんなにクリティカルが発生するんだ?幸先が良いにもほどがある。ここまでくると後に連続ファンブルする未来しか見えない…こわい、たすけて

 宮塚「で、私に何の用ですか?」

 悟「えーっと、トーマ=レティシアって言う女性を知ってるでしょか?」
 
 宮塚「……トーマ=レティシア……?」

 宮塚は怪訝な顔を浮かべている。

 悟「あれ、知らない感じですか?」

 宮塚「いや、聞いたことないデスけど」

[悟
 心理学 (60)→失敗(75)]

 うーん、失敗か。嘘をついてるのかもわからないが、見た感じでもピンときてないっぽいな。もっと情報を与えて反応を見るか。

 悟「質問を変えましょうか、あなたの友人に外国系の顔立ちの黒髪ツインテールの少女とかいませんでしたか?」

 宮塚「ツインテール…」

 それを聞いた宮塚の表情が変わる。

 宮塚「…もしかして天白レノアについて何か知ってるの?」

 レノア?なんだそれ。聞いたことないな。
 
 悟「いえ、その方についてはご存じありませんね…」

 宮塚「じゃあタチバナっていう人のことは!?」

 ダディャーナザン!?一体何のことだ?新しい名前をポンポン出しやがって、全くシナリオの全貌が見えてこねぇぞ!!

 悟「うーん、そちらもご存じありませんね。」

 宮塚「知らない感じなら大丈夫デス。じゃあ、自分があるんで」
 
 そういってここから離れようとする。

 悟「ちょっと待てちょっと待って、まだ聞きたいことがあるんです!あなたの父親が半年ほど前に殺され、亡くなったと情報がありまして。そのことについて調査をしていまして。」

 宮塚「…それじゃあ、探偵か何かってこと?」

 悟「はい、俺は中川探偵事務所の中川悟です。」

 宮塚「えーっと、お父さんのことについて聞きたいんデスよね。ここだと場所が悪いのでうちのサークルの部屋で話しますよ」

 そう言われて、宮塚に連れられて大学内へと入っていく。

 悟「サークルは何をされてるんですか?」

 宮塚「ゲーム研究会、自分はたまにしか来ないけど。うちの大学無駄に広いんで、余ってる部屋借りてるんデス」

 悟「ゲーム研究会か、俺の大学には無かったな。」

 宮塚「大学はどこに入ってたんデスか?」

 悟「いや、二十歳の現役生だけど。」

 宮塚「大学生で探偵やってるんデスか…あっ、着きました。今日はサークル休みだから誰も来ないんで。ここだったら、落ち着いて話せると思う」

 長机に腰掛け、質問を始める。

 悟「お父さんは何のご職業についていられたんですか?」
 
 宮塚「えっと、お父さんは政倉建設で働いてたんデス。なんか、ダム建設にけっこー関わってたらしくて。確か、総責任者の部下とかなんとかって言ってたかな。それで、警察の人が言ってたんデスよ。亡くなった人達にはそのダムに関わっている人が多いらしくて、お父さんもそのせいで…」

 すると宮塚は思い詰めた表情をする。

 気になるな心理学振るか

[悟
 心理学(60)→成功(13)]

 《宮塚は何か言いたいことがあるようだが、はっきりとは言葉にしづらいようだ。聞けば何か聞き出せるかもしれない。》

 なるほどな。亡くなった親父さんのことだし言葉にしにくいのはしょうがないか…

 悟「大丈夫ですか、顔色悪くなってますけど。」

 宮塚「その…自分はお父さんが今の事件とは無関係じゃないかって、なんとなく思ってるんデス」

 悟「それはどうして?」

 宮塚「お父さんが亡くなった日…その3日前に、誰かと揉めているのを聞いたんデス。電話越しに上司っぽい人とケンカしてて。そのあと、仕事で会社の人に会いに行くって言って…お父さんが見つかったのは、近くの川沿いデス。大きな刃物で切られてたって警察の人から聞いて…」

 大きな刃物…おそらく辻斬り男だろうな。

 宮塚「…自分の勝手な憶測だけど、犯人は今回の事件と繋げるためにお父さんの死をわざとそういう風に見せかけたんじゃないかなって思ってるんデス…お父さん、バカみたいに真面目な人だったから、汚い人間とはいつも対立してたし。だからきっとそいつらに…」

 そう言い終わると宮塚はまた思い詰めた表情になる。

 なるほど。でもわざわざこの話をしたってことは、宮塚高樹の死はまた別の事件の可能性があるってことか…辻斬り男が関与している場合もあるし、遺体の事について聞いてみるか。

 悟「宮塚さん、分かることだけで構いませんので、お父さんの遺体について、警察は何か言っていませんでしたか?例えば血文字が残っていたとか。」

 宮塚「自分が警察から聞いたのは、お父さんはスマホやサイフも持ってなかったみたいデス。犯人の痕跡も残っていないって。」

 悟「なるほど」

 宮塚「けど、心臓も残ってたって…そう、言ってたんデスよ」

 ん?心臓が抜き取られていないのか!?やっぱり、別事件かこれは?

 悟「他に何か警察の方は?」

 宮塚「特に何も…あんま詳しいことは警察も言えないみたいだったんで」

 本当にわからなくなってきたな…これからどうしたものか

 宮塚「あの中川サンって…探偵なんですよね?」
 
 悟「はい、そうですが?」

 宮塚「その、依頼っていうか…お願いしたい、ことがあって…」

 悟「別に構いませんよ、探偵はみんなの味方なので。言ってみてください。」

 宮塚「えっと…『橘リュウヘイ』って人を探して欲しいんデス!」

 悟「橘リュウヘイ?その方に何かあったのですか?」

 宮塚「……実はひと月前、中川サンたちと同じように自分に訪ねてきた人がいたんデス。その人も探偵だって名乗ってて、それが『橘リュウヘイ』って人なんデス……あの人が今どうしてるか、それが知りたくて…」

 この町にも探偵がいたのか、だから探偵って気づいたのか。忘れてた、今はキャラシ変更の影響で探偵服になってたんだった。

 悟「その方の容姿は?」

 宮塚「背が高くて、茶髪で、若い感じの男の人デス。住所とか電話番号とか、貰った名刺に書いてあったけど……掛けても繋がらないし、事務所に行っても誰もいない感じだったんで…」

 悟「その名刺、お借りしても?」

 そういうと宮塚は名刺を渡してくれる。名刺には『橘龍黒たちばなりゅうへい』と書かれていた。
 
 宮塚「その人も事件について、自分に色々聞いてきたんデス。それから『レノア』のことも……」
 
 悟「……先から気になっていたのですが、その『レノア』というのは、いったい誰なのですか?」
 
 宮塚「自分の、友達デス……名前は『御上天白』。下は天井の天と白黒の白って書いて、レノアって言うんデスけど」

 おっ!?御上ってワードが出てきたぞ!ようやくわかってきたぞ、俺が探すべき人はレノアってことか。

 宮塚「……天白は、『彼女』は同級生で、大切な友達なんデス」

 悟「え?いやちょっと待てえい!「彼女」って…えっと、その子は本当に女の子でしたか?」

 宮塚「えっ、まぁ……女の子、だけど。」

 えれれーおっかしいーぞー、いや、伊角みたく、女性ほどに顔立ちが整ってる男の娘説が…いや、ないか?

 悟「少し話がそれてしまいますが、そのレノアさんから兄妹の話とか聞いていたりしませんでしたか?」

 宮塚「えっと、天白はあんまり、他人に家族のことを話したりはしなかったデス。自分にも教えてくれなかったし。多分話したくなかったのかな」

 悟「そうですか……」

 宮塚「天白は、自分が大学に入って初めて出来た友達で……誰よりも明るくて、優しい子なんデス。でも…3ヶ月前にこの事件に巻き込まれて、亡くなったんデス…」

 どこで亡くなったとか、いや流石にわからないか。心臓のことについても、遺族でもないし教えてもらってないだろうし、聞くだけ無駄か。

 宮塚「それで、橘って探偵が来て、お父さんと天白について聞いてきたんデス。その人は、2人はこの事件と無関係に殺された可能性があるって、そう言ったんデスよ。何か分かったら連絡をするって言ったきり、音沙汰なくて…その、ご迷惑とは思いますが……その探偵サンと天白について、調べてくれませんか…?」

 悟「俺としても気になることでもありますし、喜んで受けさせてもらいます。」

 宮塚「ありがとうございます…!その、あんまりお金、持ってないデスけど…」

 悟「代金の方は大丈夫です。ほぼ趣味みたいなものなので取りませんよ。」

 宮塚「これが天白の住所デス。何かあったら、いつでも連絡してくれていいんで」

 悟「はい、ありがとうございました。」

 俺は大学を後にし、ひとまずレティシアさんに連絡を入れようと携帯を取り出す。
 
 それにしてもおかしな話だよな、彼女は宮塚から紹介されたと言っていたが、肝心の本人はレティシアさんを知りもしなかった。彼女が嘘をついていたであろうに判定が出なかった。一度確かめておく必要がある。

 番号を打ち込み電話に出ようとするが

 「おかけになった電話番号は現在、使われておりません」

 くそっ!なんだこれ繋がらない?それに、あの人が部屋から出た時にコーヒーカップが割れたのもなかなかに怪しい。もしかして…いや、余計なことは考えるのは止そう。下手にSANチェックでもしたらたまったもんじゃない。こっちは色々と起きてるが、あいつは上手くいってるだろうか…念のために情報だけグルラに送り付けておくか。
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