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番外編

幸せな事件

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 驚きと嬉しさで上手く反応ができなかった。
 子供ができたと報告するのはきっと勇気が必要で、俺に伝えるのには随分緊張したはずだ。
 それなのに報告した後、何のリアクションもなければ、そりゃあ不安になる。

 罪悪感に苛まれながら真樹をヨシヨシと撫でた。


「真樹、ごめんね。」
「うぅ……」
「不安になったよね。ごめん。嬉しくて上手く反応できなくて」
「……い、嫌なのかと、思った」
「嫌じゃないよ。本当に嬉しい。」


 そういうと真樹は漸く顔を上げる。
 涙でぐちゃぐちゃだ。そっと手で拭うと、勢いよくキスをされて少し歯が当たった。痛い。


「っ!痛い!」
「っ……勢いが、良すぎだよ……」
「また涙出てきた……」
「こっち向いて」


 また涙を拭って、また唇を重ねる。


「あの……だから、結婚式は一回やめて、子供が生まれてからにしたいなって……。何かあってからじゃ遅いから、大人しくしてたい。」
「うん。わかった。そうしよう」
「ありがとう」


 そっと真樹のお腹に手を当てる。
 まだ何も変化を感じられないけれど、ここに真樹との子がいると思うと信じられないくらい幸せで。



「妊娠検査薬って、いつしてたんだ。」
「先に帰らせてもらった時とか、朝早く、とか。」
「最近はずっと先に帰ってただろ。それに朝早くって……気付かなかった……」


 真樹は苦笑して、そっとまだ何の変化も無いお腹を撫でた。


「すっごい不安だったし、凪さんに知らせるのも緊張するし、勘違いだったらどうしようとか……色々考えるのに一人になる時間が欲しかった。」
「そうか」


 眉を八の字にし「黙っててごめんね」と言う真樹に慌てて首を左右に振る。
 そういえば、妊夫の体は冷やしてはいけないと聞いたことがある。
 急いで真樹をソファーに座らせ、ブランケットを掛けた。


「え、何?暑いんだけど」
「そのまま、必要最低限動かないこと。」
「ん?」
「体が温まるものを食べよう。今から作るから遅くなるけど……。あ、その間風呂に入るか?──いやでも一人で入らせて滑って転げたりしたら大変だし……。」
「……凪さん」
「ん?」


 どうしたものか、考えていると名前を呼ばれた。
 顔を上げると真樹が呆れたような表情をしていて、どうしてそんな顔をするのか理解ができずに首を傾げる。


「今までと同じでいいよ。お風呂洗って、沸いたら入るね。」
「俺が洗うから座ってて」
「凪さんはご飯作っててほしいな」
「転けたら危ない。俺が全部やるから座ってテレビでも観てて」
「……過保護だぁ」


 これは過保護じゃない。
 ただ真樹の体が心配なだけだ。

 子供が無事に産まれてくるまでは、真樹に無理をさせたくない。


「あ、真樹。今度病院に行く時は俺もついて行っていいかな」
「もちろん。次は一緒に行こうね」


 そうして、結婚式のことは一度忘れることにして、代わりに近い将来、この家で真樹と子供と、三人で暮らすのが楽しみになった。


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