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第176話

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 蒼太は少し顔を赤くして「えっと……」と床に視線を落とす。


「まずはお互いを知らないとってなって」
「うん」
「グッドアンドニューをした」


 頭に『?』が大量に浮かぶ。


「……アイスブレイクに使うあのゲーム……?」
「うん」


 モジモジとそれを話す蒼太には悪いけれど、なんでその発想になったんだと、少し固まってしまった。


「結局説明したら僕に家に来てくれて、発情こそしなかったけど、ゲームしてたら好きがいっぱい溢れちゃって……。」
「何かあったの?」
「手を、繋いで、もらった……」


 耳まで赤くして、両手で顔を覆う蒼太。
「キャー」なんて巫山戯て言うから、思わず笑ってしまう。


「よかったね!」
「うん。橋本さん、ちょっと見た目がクールな感じがするけど優しいね。手も大きくて、すごく男らしい。」



 可愛い。蒼太が乙女になっていて、この様子を誰かに共有したくなる。


「次も僕の家に来てくれるって約束したんだけど、その時は何しようかなって考えるのも楽しい。」
「ふふっ、いつ会うの?」
「明日なんだよね。考えてるのが楽しいとか言っている場合じゃない。」


 ムフフと笑う蒼太に、俺の方まで嬉しくなって、思わず蒼太の手を取ってグッと握った。


「明日は休みじゃん。それなら外にデートに行ってみたら?家で会った時発情しなかったなら大丈夫じゃない?」
「そうかなぁ……。でも、うん。デート誘ってみる……!」
「蒼太可愛い」
「え、え……可愛い……?」
「うん。頑張ってね!」
「ありがとう」


 ほんのり赤い顔のまま、「じゃあね」と蒼太は帰って行く。
 俺もウキウキしながら専務室に戻って、デスクに座った。

 それにしても、あまりにも初心で可愛かった。
 いやでも、俺も初めて凪さんとキスをした時はあんな感じだったかもしれない。

 手を繋ぐだけで真っ赤なら、キスをする時は昇天するんじゃないかと心配になるけれど、上手いこと進んでいってくれたら嬉しい。


 ニマニマしながら仕事をしていると、中林さんが「何か手伝うことはある?」と聞いてきてくれた。


「大丈夫です。中林さんはもう帰ります?」
「うん。もう時間だしね」
「え、もうそんな時間?」
「そうだよ。やけに集中してたね。ニヤニヤしながら」
「うっ、見られてた……」
「見ちゃった」


 恥ずかしい。顔を隠すと彼女は笑って「じゃあお先失礼します」と言い荷物を持って帰っていった。


  
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