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第152話
しおりを挟む──ピンポーン
軽快な音が部屋に鳴り響く。
三森は舌打ちを零すと、俺をじっと見下ろした。
「絶対に声を出すなよ。わかったな」
「……わ、かった……」
そう言って玄関に向かう三森を目で追いかけた。
声を出すことは簡単で、ここに来た誰かに『助けて』と伝えれば多分、全てが収まる。
けれど、そうする事で三森から何をされるかがわからない。今すぐ誰かが助けてくれる保証も無い。
少しすると三森は戻ってきた。ただ荷物が届いただけだったらしい。
そんな彼は目を潤ませていた俺を見てフッと笑う。
「何泣きそうになってんの」
「っ、」
「助けて貰えると思った?」
はは、と笑ってすぐ傍に腰かけた三森は、突然大学の頃の話を始めた。
「お前に初めて会った時さ、こんな人間がいるんだって本気で思ったよ。」
思い出しているのか、目を閉じて口角を上げている。
「綺麗だし、頭もいい。性格も別に悪くない。しかもアルファだ。」
「……」
「憧れたんだ。俺もそうありたいって。自分の考えをしっかり持って、凛としてる姿が良かった。」
そんなの、知らなかった。
ただ思うように生活を送っていただけだ。
それをこんなふうに思っていてくれていただなんて。
「だから、そんなお前の隣でいつまでも友達で入れるようにって思ってるうちに、いつの間にか……ベータなら良かったのにって思うようになったんだ。」
「……アルファな俺に、憧れてたくせにか」
「ああ。アルファとベータじゃ釣り合わない。ベータ同士なら釣り合わないなんてことは無い。」
ギョッとして目を見開く。ポロッと涙がこぼれた。
「お前がベータだったら、きっと俺はお前に告白してたよ。」
「っ!」
「でも、そんなの無理だからさぁ……諦めて友達の位置にいたわけ。」
ギシ、とベッドが軋む。
三森の手が、顔のすぐ横に置かれて呼吸が少しづつ乱れていく。
「就職は別になったけど、たまたま一緒に仕事することになって嬉しかった。」
「は……」
「やっぱり何かしらの縁があるんだってさ」
「っ、や、やめ」
頬を撫でた手。
それが輪郭をなぞって首に触れる。
力は込められていないのに、呼吸ができない。
「なのに、オメガになっちまったらダメだろ。俺の憧れを潰すようなことするなよ」
「っは、ぅ……」
「俺を裏切るなよ」
パッと手が離される。
ようやく息ができて、ゲホゲホと咳が出た。
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