150 / 208
第150話
しおりを挟む
***
そんな日から一週間が経った。
特に何事もなく、いつもの日常を過ごしている。
けれど、珍しい事に凪さんが会社に持っていくはずの書類を家に忘れていったことでそれが変わった。
今はどうしても手を離せないらしく、頼まれて書類を届けに行く。
人通りの多い道を通って会社の前に着いた。
ビルのドアを潜り、エレベーターのボタンを押そうとしたところで、着ていた服の襟首を掴まれる。
「久しぶり」
「っ!」
本当に、久しぶりに聞いた声。
驚いて振り返ることも、ボタンを押すこともできずに固まる。
「ずっと逃げ回りやがって。こんなにぎっしり番の歯型付けたオメガのくせに」
「っ!離せよ!」
番がいる証を見られたことに羞恥心が湧いてくる。
俺を見て苛立っているのか、襟首を掴む三森の声は僅かに震えているように思う。
「ちょっとツラ貸せ。」
「ぅ、離せってば……」
「ていうかお前、オメガなのに何でまだここにいるんだよ。アルファじゃなくなったお前をこの大企業が必要としてるのか?そんな訳ないだろ。」
ぐっと後ろに引かれ、仕方なく三森について行く。
凪さんに書類を届けるのが遅くなりそう。すぐに必要な物かも知れないのに。
「おい、三森。話があるなら聞くから、先にこれを届けに行かせてくれ。」
「嫌だね。俺の言うこと聞け。じゃないとお前、番じゃない奴に抱かれることになるぞ。」
「っ、な、何、言って……」
「大人しく着いてこい」
それが例え出鱈目だとしても、恐怖心を煽るには十分な言葉だ。
凪さんの所に行くのは諦めて、三森に着いていく。
足取りは重たくて、気がつけばビルを出て人通りの少ない細い道に来ていた。
三森に押され、壁に背中がトンとつく。
じっと睨むように三森を見ていると、目の前に顔が迫った。
「なあ、何でお前はオメガなんかになったんだよ。」
「……」
息がかかるほどの至近距離。
顔を逸らせば、頬を挟むようにして顔を掴まれ、視線を無理矢理合わされる。
「いつだって成績優秀の、誰からも頼りにされる堂山が……。可哀想にな」
ぐっと拳を握る。
そんなこと他人に言われなくたって、オメガになって最初に自分自身に思ったことだ。
「もう、やめてくれないか。こういうこと。」
「はあ?可哀想なお前を慰めてやってんだろ」
「必要ない。仮にそう思っていても『可哀想』なんて言わずに、励ましてくれる人が居るから。」
「ははっ、お前の番のことか?どうせ体が目当てなんだろ。発情したオメガは最高らしいな。それでなくてもイイって聞くぞ。」
違う。
彼は俺自身を見て好きでいてくれている。
そう言えるだけの自信がある。
「あーあ、話すだけにしようと思ったけど……。一々腹が立つこと言うよな、お前。」
「っう……」
「知ってるか?オメガは何も出来ない癖に貴重だから、一晩でも高く売れるんだ。」
突然、襲ってきた圧迫感。
首を絞められて、呼吸が出来なくなる。
三森の腕を掴み、離させようとひっかいても、酸素が回らなくて上手く力が入らず、虚しくも無意味に終わる。
俺が意識を飛ばしている間に、何をする気だ。
「っ、は、ぐ……っ」
生理的に溢れる涙で視界がぼやける。
意識を保っていられなくて、目の前が真っ暗になった。
そんな日から一週間が経った。
特に何事もなく、いつもの日常を過ごしている。
けれど、珍しい事に凪さんが会社に持っていくはずの書類を家に忘れていったことでそれが変わった。
今はどうしても手を離せないらしく、頼まれて書類を届けに行く。
人通りの多い道を通って会社の前に着いた。
ビルのドアを潜り、エレベーターのボタンを押そうとしたところで、着ていた服の襟首を掴まれる。
「久しぶり」
「っ!」
本当に、久しぶりに聞いた声。
驚いて振り返ることも、ボタンを押すこともできずに固まる。
「ずっと逃げ回りやがって。こんなにぎっしり番の歯型付けたオメガのくせに」
「っ!離せよ!」
番がいる証を見られたことに羞恥心が湧いてくる。
俺を見て苛立っているのか、襟首を掴む三森の声は僅かに震えているように思う。
「ちょっとツラ貸せ。」
「ぅ、離せってば……」
「ていうかお前、オメガなのに何でまだここにいるんだよ。アルファじゃなくなったお前をこの大企業が必要としてるのか?そんな訳ないだろ。」
ぐっと後ろに引かれ、仕方なく三森について行く。
凪さんに書類を届けるのが遅くなりそう。すぐに必要な物かも知れないのに。
「おい、三森。話があるなら聞くから、先にこれを届けに行かせてくれ。」
「嫌だね。俺の言うこと聞け。じゃないとお前、番じゃない奴に抱かれることになるぞ。」
「っ、な、何、言って……」
「大人しく着いてこい」
それが例え出鱈目だとしても、恐怖心を煽るには十分な言葉だ。
凪さんの所に行くのは諦めて、三森に着いていく。
足取りは重たくて、気がつけばビルを出て人通りの少ない細い道に来ていた。
三森に押され、壁に背中がトンとつく。
じっと睨むように三森を見ていると、目の前に顔が迫った。
「なあ、何でお前はオメガなんかになったんだよ。」
「……」
息がかかるほどの至近距離。
顔を逸らせば、頬を挟むようにして顔を掴まれ、視線を無理矢理合わされる。
「いつだって成績優秀の、誰からも頼りにされる堂山が……。可哀想にな」
ぐっと拳を握る。
そんなこと他人に言われなくたって、オメガになって最初に自分自身に思ったことだ。
「もう、やめてくれないか。こういうこと。」
「はあ?可哀想なお前を慰めてやってんだろ」
「必要ない。仮にそう思っていても『可哀想』なんて言わずに、励ましてくれる人が居るから。」
「ははっ、お前の番のことか?どうせ体が目当てなんだろ。発情したオメガは最高らしいな。それでなくてもイイって聞くぞ。」
違う。
彼は俺自身を見て好きでいてくれている。
そう言えるだけの自信がある。
「あーあ、話すだけにしようと思ったけど……。一々腹が立つこと言うよな、お前。」
「っう……」
「知ってるか?オメガは何も出来ない癖に貴重だから、一晩でも高く売れるんだ。」
突然、襲ってきた圧迫感。
首を絞められて、呼吸が出来なくなる。
三森の腕を掴み、離させようとひっかいても、酸素が回らなくて上手く力が入らず、虚しくも無意味に終わる。
俺が意識を飛ばしている間に、何をする気だ。
「っ、は、ぐ……っ」
生理的に溢れる涙で視界がぼやける。
意識を保っていられなくて、目の前が真っ暗になった。
104
お気に入りに追加
1,972
あなたにおすすめの小説

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます


たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております

とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる