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第129話
しおりを挟む夕方、仕事を終えて部屋から出てきた彼と一緒にキッチンに並ぶ。
指示を受けて野菜を切っていると「怖い」を連発する彼に呆れて顔を上げた。
「包丁の持ち方が少し怖いね。」
「手切っちゃいそう?」
「子供用の包丁でも買うか悩んでる」
「……そんなに怖いですか。」
「うん。今にも怪我しそう」
思わず切ろうとしていた人参から手を離し、包丁を置く。
「じゃああとは任せます。」
「うん。そうしてくれ」
「……お米炊きます」
「洗剤は使っちゃダメだよ」
「ちょっと!俺もひとり暮らししてたんだから!」
「そうだった」
忘れられるくらい拙い動きらしい。
悔しくって完璧に米を洗い炊飯器にセットして胸を張る。
「ほら!」
「うん。ありがとう」
「いいえ!」
キッチンを出てお風呂場に向かい掃除をしてリビングに戻る。
時刻はもう六時になりそうで、まだキッチンに立っている彼に後ろからそっと抱きついた。
意地悪されたから仕返ししてやろうと思って。
「座ってテレビでも見てていいんだよ」
「……凪」
「え」
「凪、今日は一人で寝るね。」
「はっ!?」
慌ててつけていた火を消した凪さんが、離れていく俺を追いかけてドンッと音がなりそうなほど勢いよく後ろから抱きついてきた。
「意地悪したから怒ってる?」
「別に?」
「なら一緒に寝るだろ?」
「寝ないよ」
「真樹ぃ」
「わっ!」
そのまま抱っこされてソファーに押し倒される。
驚いて凪さんを見るけれど、それより先に胸にずっしりと重みを感じた。彼が俺の胸に額を押し付けている。
「怒らないで真樹」
「怒ってないって」
「じゃあなんで一緒に寝てくれないんだ。」
「仕返ししただけ!本気にしないでよ」
そう言うと、顔を上げてにっこり笑った。
そしてそんな彼に何だか危機を感じる。
「よかった。本当に別で寝るってなっていたら、どういうプランを組んで真樹をベッドに誘うか考えないといけないから。」
「へ……」
「お風呂から一緒に入って、真樹を甘やかした後にベッドだな。」
「やめてやめて」
両手を突き出し、彼の胸を押し返して上から退かせる。
「それ、寝るだけじゃ済まないでしょ」
「寝るだけのつもりなわけがないだろ」
真顔で言う彼に、ソファーに置いていたクッションをぶつけておいた。
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