127 / 208
第127話
しおりを挟む「こめん、そろそろ仕事するから行くね。」
「あ、それならここ使う?俺はちょっと散歩で出てきただけだから。」
まだ残っている飲み物も持ち帰りできるし、問題無い。
立ち上がると、蒼太は申し訳なさそうな顔をしていたけど、彼が気にしなくていいように小さく笑って見せた。
「お仕事頑張ってね。無理しない程度に……」
「ありがとう。いつでも連絡してね。」
「うん。じゃあ、またね。」
蒼太と別れ、元来た道をたどって家に向かう。
今日あったことは凪さんにちゃんと説明しよう。
きっと、昔のトラウマももう大丈夫だと伝えたい。
ドリンクを片手に家に着き、それを飲みながら凪さんに帰ってきたことを報告した。
それから蒼太の連絡先を登録して、スマートフォンを手放しソファーに寝転ぶ。
「ちょっと、成長できた気がする。」
トラウマをひとつ乗り越えて、大人になれたような、そんな気がした。
時刻はもう十一時。
キャラメルマキアートのおかげでお腹はいっぱいで、正直昼ご飯は必要無い。
けれど何か食べていないと、凪さんが怒るだろうなと思って、ゆで卵を作って食べた。
やることと、一緒にいる人がいないとつまらない。
お昼の情報番組を見ながらあくびを零す。
眠たいな……と思っていると、玄関の鍵が開く音がして凪さんが帰ってきたのがわかった。
「──ただいま」
「おかえりなさい!」
掛けられた声に返事をすると、彼は柔らかく微笑む。
「昼ご飯は食べた?」
「食べました。あの……ちょっといい事があったんです。聞いて貰えますか?」
「もちろん。ちょっと待っててくれる?着替えてくるね」
ぎゅっと抱きしめられ、顔を上げると唇が重なる。
それから着替えに行った彼を見てから、どこから話そうか……と頭を悩ませる。
トラウマのことは話しているから、今日のカフェのことだけ話せばいいか。
「お待たせ。……ところで真樹、昼ご飯は何を食べたの?」
「ゆで卵です」
「……お腹空いてない?」
「うん。大丈夫」
ソファーに腰を掛け、隣をポンポンと叩くと凪さんがそこに座ってくれた。
「それで、いい事って?」
「あのね」
蒼太に再開したこと。話をしたこと。蒼太自身も三森に困っていること。
凪さんは静かに話を聞いてくれて、話終わると頭をそっと撫でられた。
「蒼太君と話ができてよかったね」
「うん。何かあったら連絡してって言われたし、友達になれた気がする。」
「真樹がトラウマを克服できたなら一安心だ。」
大きく頷いて、彼に抱きつく。
それから手を繋いで、二人でふふっと笑いあった。
96
お気に入りに追加
1,972
あなたにおすすめの小説

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます


たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております

とろけてまざる
ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで──
表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる