上 下
113 / 208

第113話

しおりを挟む

 ハッとして目を覚ますと夜の九時だった。
 飛び起きて凪さんを呼ぶ。


「どうかした?」


 お風呂上がりなのか、濡れた髪をタオルで拭いていて目をぱちぱちとさせる。
 お腹がぐーっと音を立てた。


「ご飯にしようか。気持ちよさそうに眠ってたから起こすのが申し訳なくて、先に食べたんだ。」
「……うん」
「真樹?」
「ごめんなさい、寝てしまって。」


 ご飯、一緒に食べたかったな。
 そんなわがまま、何もしていなかった俺が言うべきでは無いと思ってぐっと飲み込む。


「何か言いたいことがある?」
「う……」


 唇をぐっと噛んで、彼に抱きついた。
 これは俺が我慢しないといけないこと。
 そう思ってグリグリと額を押し付けると、頭を優しく撫でられる。


「お腹空いてない?」
「空いてる」
「食べようよ」
「うん」


 体を離して、一緒にキッチンに行く。
 味噌汁を温めご飯をよそってテーブルに準備した。


「納豆食べる?」
「食べる」


 おかずと一緒に納豆を持ってきてくれた彼は、俺の前の席に座って炭酸のジュースを飲んでいる。


「いただきます」
「召し上がれ」


 肘をつき、そこに顎を乗せた彼は、俺の食べている姿をじっと見てくる。


「……食べれない。そんなに見ないで」
「食べてる姿が可愛い」
「何か……裸をジロジロ見られてる気分」
「それはまあ、いつもの事では?」
「……」


 ムカッとして睨みつける。
 それとこれとは全く別だと思う。


「あ、怒った?ごめんね、可愛くて。」
「……少しの間、放っておいて。」
「今日は機嫌が悪いね?」
「……自分に嫌気が差してるだけです。」
「何かあったの?」


 箸を置いて、溜息を吐く。


「前に凪さんが言いました。俺は完璧主義者だって。」
「そうだね。」


 彼は表情を変えることなく、ウンウンと頷いた。


「今日、そのせいで仕事が終わりませんでした。……いえ、仕事自体は終わったんですけど、ちょっとしたことが気になって気になって仕方がない。」
「ああ、それで紙がいっぱい落ちてたのか。」
「ごめんなさい」


 無駄遣いをしてしまったことに謝ると、凪さんはふんわりと笑って「大丈夫」と言う。


「気になっちゃうことを気にするなって言うのは無理だと思うし、それは性格だからね。」
「直したいです。」
「性格を?これまでと同じ年月をかけないと、そういうのは直せないんじゃないかな?」
「……じゃあ、四十八になれば直りますかね。」
「わからないな。でも、今のままでいいよ。」


 伸びてきた手が頭を撫でる。
 それを受け入れて、もっと撫でてほしいなと思っていると、手が離れていく。


「さあ、早く食べちゃって。食べたら風呂に入って、それから真樹が眠れるまで話そうか。さっき寝たから、眠れないかもしれないけど……」
「凪さんは寝てくださいね」
「んー……でも、今日はあんまり真樹と話せなかったから、もっと話したいなぁ。」


 微笑む彼を改めて好きだと感じ、ちょっとだけ恥ずかしくなりながら食事を再開した。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...