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第104話

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 お風呂から出て、ソファーに座らされた。
 彼はお風呂上がりの飲み物を取ってくるよと、キッチンへ。


 一人になってすぐ、明日どうやって中林さんに話をしようかと考える。
 俺がオメガで、凪さんが番だということを彼女は知っている。
 今起こっていることと、それに対する行動を伝えないといけない。


「……自業自得とか言われたら……」


 彼女は優しい人だから、そんなことは言わないと思うけれど、実際は分からない。


「真樹、どうかした?」


 リビングに戻ってきた凪さん。飲み物を貰い隣に座った彼にもたれ掛かる。


「明日中林さんに話すのは、いつ?」
「仕事が終わってから食事に誘おうと思う。真樹はどうする?不安なら明日は休んで、その話し合いの場に来てくれたらいいけど……」
「いえ、行きます。ちゃんと仕事して、それから……」
「わかった」


 ふわふわ、あくびが零れる。
 目を閉じそうになって、慌てて口を開いた。


「凪さん、ちょっと眠たくなってきた。」
「それ飲んだらベッド行こうか」
「うん」


 コップに入った飲み物を飲み干し、彼に支えてもらいながらベッドに移動して、ゴロンと寝転がる。
 優しく腰をさすられて、その温かさにまた眠気が増幅した。


「ん……おやすみなさい……」
「おやすみ」


 ちゅ、と頬にキスをされたのを感じて、そのまま眠りに落ちた。




 ***



 ガタッと、教室の床に押し倒される。

 発情期を起こした同級生のオメガが、俺に覆い被さってきて、同じ男のそいつは、いつもより妖艶だった。


『助けて、真樹君……っ』
『っ!』


 心臓がやけにバクバクとうるさく音を立てて、勝手に熱が上がり中心に集まっていく。


『これ、ちょうだい……?真樹君、ね、いいでしょ……?』
『は、離れて……嫌だ、やめろ、怖い……』


 近くにあったバッグを掴む。
 何とか逃げ出そうと、そのバッグを男にぶつけると、よろけて床に倒れ込んだ。

 オメガのフェロモンを辿り、教師陣がやって来た。
 その後はただ慌ただしく、双方の両親を呼ばれて話し合いの席が設けられたのだけれど、一時的に発情期が治まった同級生は、俺の両親が被害届を出すと言い出した途端に、目の色を変えた。


 その目を思い出す度、息が止まりそうになる。
 あの目はとてつもなく、恨みの篭った目だった。




「──き、真樹!」

「っ!」


 名前を呼ばれて目を開ける。
 慌てて上体を起こし、辺りを確認した。
 呼吸が荒くなっている。深呼吸をすればそれは少し落ち着いた。


「大丈夫?魘されてたよ」
「……うん」
「……まだ少し早いけど、もう起きる?」
「……起きる」


 時計を見ると、いつもの起床時間より一時間も早かった。
 体がぺたぺたする。
 嫌な夢を見て汗をかいたらしい。シャワーを浴びたい。


「凪さん、シャワー浴びてきます。」
「うん」


 心配そうな彼に、微笑みかける。
 ただ昔の嫌な思い出を夢で見ただけだ。


「大丈夫です。怖い夢見ただけなんで。」


 不安なことがあるから、こんな夢を見たんだろう。だから別に、悪いことは起きない。
 そう自分に言い聞かせるように『大丈夫』を伝えて寝室を出た。
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