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第83話
しおりを挟むお風呂から出ると着替えがなかった。
そりゃあそうだ。ここまで真っ直ぐ来たんだから。
凪さんも着替えを持っていなくて、バスタオルを腰に巻き、一緒に着替えを取りに行こうとして思い出した。
「服着る前に片付けしてくる……」
「したから大丈夫。おいで」
「え……したの?」
「したよ」
自分の粗相を片付けられるなんて。
放心しているとそっと横抱きにされた。
「えっ、何で!?」
「ぼんやりしてたから。あと真樹に言いたいことがあってね」
「……やっぱり怒ってるんだ。そりゃあ怒りますよね。成人済み男性が家に帰ってきた安心感で漏らすなんて……」
「いや、その事じゃなくてだな……」
凪さんの寝室。
番になってからは毎日一緒に眠っている場所。
ここに俺の着替えは置いていない。
「じゃあ何ですか……」
「外食をするのはいいんだ。全く問題ない。真樹の好きにしてもらって構わない。……でもね、突然行ってきますって言われて……今日も真樹と一緒に帰って、金曜日だから二人でゆっくり出来ると思っていた俺は寂しくて仕方がなかったよ。」
「あ……」
凪さんが零す本音に胸がキュッとする。
確かに、自分が彼の立場になると寂しかったはずだ。
「それに……さっきの橋本君はアルファだね。俺も少し面識があるから橋本君の事を知っているけど、ほんのちょっとでも危機感は持たなかったのかな?」
「……友達ができたのが嬉しくて」
「同年代のしかも男性の友達なら話も弾むだろうし嬉しいのはわかる。でも、だからってあんなに酔うまで呑んじゃうのは……んー、気をつけないとね。」
怒られてる。
凪さんが静かにメラメラと怒っている。
確かに初めて会った人の前であんなに酔うなんてどうかと思う。凪さんにも事後報告をしただけでご飯に行っていいかと相談もしなかったし……。
「ごめんなさい……」
「……心配なんだ。もしも真樹が傷つく事があればと思うと不安で仕方ない。できるだけ俺の傍に、目の届く所にいてほしい。……まあこれは、ただの俺の我儘だな。」
もっと他に伝え方が有ったし、橋本の前でもしっかりして居られた筈。
嬉しくて、楽しくて、羽目を外すなんてはしたない。
「俺……凪さんを不安にさせたいわけじゃないです。今日も急にご飯に行くって言って、自分勝手してごめんなさい。お酒を飲みすぎたのも反省してます。」
頭を下げると、凪さんは突然慌てだした。
俺の肩を掴んで首を左右に振る。
「違う!俺だ、俺が束縛しすぎた。申し訳ない……」
「え、いや、俺が……」
「……やめよう。この話はもう終わろう。真樹にそんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。とにかく……服!服を着よう!」
「……俺の服はここに無いです」
「俺のを着ればいいよ」
そう言ってクローゼットから服を取りだした凪さんは、甲斐甲斐しく俺に着せてくれようとする。
そんな彼に少し気になることがあって、咄嗟に腕を伸ばし彼の首に回して強く引き寄せた。
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