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第81話
しおりを挟む地面が揺れている気がする。
橋本の肩を借りて歩いているとスマートフォンが音を立てた。
「出てもいい?」
「うん」
スマートフォンを取り出して画面を見ると凪さんからの着信で慌てて耳に当てる。
「もしもし」
「真樹?まだご飯中だったかな、ごめんね。いつ頃帰ってくるのか心配になって……」
「今ご飯終わって、橋本と帰ってるところ!」
「……酔ってるな」
「酔ってないよ」
凪さんからの電話、嬉しい。
ニヤニヤしていると、橋本がじっと俺の顔を見ていた。
「迎えに行くから、どこにいるのか教えてくれる?」
「ううん、大丈夫だよ。帰れるから安心して」
「安心は出来ないな。橋本君に代わってくれる?場所教えてもらうから」
「はーい。橋本、電話」
スマートフォンを渡すと訝しげにそれを受け取った橋本が凪さんと話し出す。
俺は道の端に寄って立ち止まった。邪魔にならないように小さくなる。
ぼんやりしているとスマートフォンを返されて、どこかに引っ張って連れて行かれた。
目の前に道路のある場所に設置されたベンチに座らされ、隣に座った橋本が「なあ」と話し始める。
「堂山って専務と暮らしてんの?」
「うん」
「何で?助けて貰ったって言うのは聞いたけど」
「何で……番だから?」
「……まじかよ」
彼の言葉を真似して「まじだよ」と言うと、頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。髪がボサボサになる。
「いや、わかる。だってすぐに懐くし……。犬みたいだなお前は。」
「橋本は猫みたい。黒猫」
「……そんな性格してないけど」
「見た目の話」
ボサボサになった髪は彼の手で整えられて、されるがままになる。
「もし堂山に番がいないなら狙ってたのに」
「ダメです。俺の番は凪さんだけなので」
「わかってるよ。番が居るやつに手を出す程落ちぶれてないから。」
「そもそも落ちぶれるような人じゃないでしょ。」
少しの間そうやって話していると、目の前に車が停った。何度も見た車だ。
運転席から凪さんが降りてくる。
「真樹」
「凪さんだ」
立ち上がり、彼に近付く。
凪さんは微笑んで、俺の後ろにいる橋本に目を向ける。
「橋本君、見ていてくれてありがとう。どうやら真樹は凄く楽しんでいたみたいだし、良かったらまた付き合ってあげてくれ。」
「はい。俺でよければ」
「家まで送るよ」
「ああ、いえ、大丈夫です。すぐそこなので」
「そう?……じゃあ気を付けて。」
「はい。失礼します。」
橋本に手を振って別れる。
車に乗って凪さんと手を取り何度も握って弛めてを繰り返した。
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