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第80話
しおりを挟む一階のロビーに行くと、橋本さんは椅子に座って待ってくれていた。
慌てて駆け寄り声を掛けると、柔らかく微笑まれる。
「お疲れ様。そんなに急がなくても良かったのに」
立ち上がった彼の隣を歩いてビルから出る。
会社から歩いて帰るのは久しぶりで、少し新鮮な気持ち。
「何食べたい?酒飲む?」
「肉が食べたいな。お酒は飲む……というか飲めるよ。」
「そっか。じゃあ……俺焼き鳥食いたいんだけど、それでもいい?」
「もちろん」
スーツの背広を脱いで手に持つ。
外はまだ暑くて、パタパタと手で仰ぎ自分に風を送る。
「堂山はさ、性別が変わったって言ってただろ。何かきっかけはあったのか?」
「あー……オメガの女性が発情期を起こして道で倒れちゃってて、薬を飲ませからてその人が落ち着くまで一緒に居たんだ。それがきっかけ。」
「……優しいんだな」
「いや、目の前で襲われる人を見たくなかっただけだよ。」
焼き鳥屋さんに着いて、とりあえずビールを頼み、その後橋本さんが注文をするのをぼんやりと見ていた。
「今秘書やってるのは何で?」
「……ちょっと色々あって、専務に助けられて。」
「そっか。うちの会社はオメガを採用しないって噂があったから、正直驚いた。」
「あ、俺もそう思ってた。オメガの人を見たことがなかったから。」
性別の話はそこで終わって、出身大学の話になった。
橋本さんも新木さんもアルファだから、有名な所の出なんだろうなと思っていると、案の定そうだった。
それから俺の出た大学の話になって盛り上がり、いつの間にかお酒を飲みすぎて視界がいつもと違うような気がしだした。
「おーい、大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
でも思考はハッキリしている。
ちょっと休めば元通りになるはずだ。
へらっと笑って橋本さんを見る。
「楽しくて思ってたより飲んじゃったみたい」
「楽しんでくれたのは嬉しいけど、顔赤いよ。水貰おうか」
「橋本さんは顔色変わらないね」
「あー、俺は酒好きだし、よく飲むんだよ。」
「凄いなぁ」
一切顔色を変えずに沢山お酒が飲める人は凄い。
俺はあまり飲めないし、すぐに顔が赤くなってしまう。それに今みたいに視界がいつもと較べると少し変わってしまう。
「世界が遅れてる感じ」
「……ん?大分酔ってる?」
「ううん。」
「酔ってるな」
水を飲むように言われて、素直にそれを飲んだ。
「ていうか、いつまで俺のこと『橋本さん』呼びなの?」
「橋本さんは橋本さんだから」
「せめて橋本にしない?俺はもう堂山って呼んでるんだし」
「うーん。……わかった」
ふと時計を見るともう八時になっていた。
テーブルにはもうお酒しか残っていない。
「これ飲んだら出るか」
彼もその様子を見てそう言い、お酒が無くなるとお店を出た。
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