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第78話
しおりを挟むランチを終えて三人で会社に戻る。
エレベーターホールで話をしながら待っていると、上から下りてきたエレベーターのドアが開いた。
「あ、堂山君。」
「専務!」
たまたま凪さんが乗っていて、新木さんと橋本さんは彼に会釈をした後、先にエレベーターに乗って行ってしまった。
「ランチに行ってたの?」
「はい」
「……真樹、ちょっとこっち。」
腕を掴まれ、一階の男子トイレに連れ込まれる。
何事だと思っていると、誰もいないそこでいきなり強く抱きしめられた。
「うっ!苦しい……っ!」
「一緒に話していた男は?」
「ぁ、あの人は新木さんの友達……!」
「新木さんはあの女性か。三人でランチ?」
「はいっ!ねえ苦しいから離して!」
「もうちょっと我慢して」
苦しいのは、本当は我慢できる。
ただこんな場面を誰かに見られたらどうするんだ、という不安が大きくて、彼の背中をバシバシ叩いた。
「凪さんっ、お願い、離して……誰か来るかもしれないから……っ」
「じゃあこっち」
個室トイレに連れ込まれ、後ろ背に鍵を閉めた彼は、俺の頬を撫でると顔を上げさせて唇を塞いだ。
驚いて目を見開く俺を優しい目で見るものだから、心が勝手に絆されてうっとりしてしまう。
気付けば舌を絡ませ、力の入らなくなった腰を彼の腕で支えられていた。
「ん、ちゅ……ふ……」
「橋本さんとは何の話をしたの?」
「あぅ……ん、もう一回、キスしたい……」
「答えて。そうしたらキスしてあげる」
すぐにランチ中に話した内容を伝える。
やましい事なんて全く無い。それに早くキスが欲しい。
「橋本さんか……」
凪さんは一度だけ、橋本さんの名前を呟き、かと思えば優しい笑顔を見せてくれて、そっと唇が重なる。
「真樹、トロトロになっちゃたね。その顔では戻せないな」
「ん……凪さん、もう一回……」
「だめ。もう昼休みも終わるから。」
「っ、ひどいぃ……!」
俺のファーストキスは凪さんで、凪さん以外とは誰ともキスをしたことがない。
彼にキスの気持ちよさを教えて貰ったんだ。
そんな彼から、俺の大好きな凪さんから、キスをされたら、ここが会社だろうと期待してしまうに決まってるのに!たった二回で満足するはずがないのに!
「帰ったらしようね」
「……」
「ごめんね」
「……許しません。今日はもう家でも専務って呼びますから。」
「え、嘘。許して。ごめんなさい」
そもそもどうしてわざわざトイレに連れ込んだんだ。
橋本さんと話した内容を気にしていた理由だってわからない。
凪さんを無視して、俺と凪さん以外の音がしないことを確認してからドアを開ける。
手を洗って鏡に映った自分の顔があまりにも変で、両手で強く叩いてからトイレから出た。
腕時計を見れば、昼休み終了時刻まであと五分しかない。
凪さん……家に帰ったら文句を言ってやる。
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