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第67話

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 昼休みになり、ランチを誘ってくれた中林さんに今日は用事があるとお断りして、昼休み直前に新木さんから届いたメッセージに書いてある待ち合わせ場所に直行する。


「堂山君」
「ごめん、待った?」
「ううん。行きましょ」


 ビルの外に出て、近場のカフェに入った。
 中林さんと行ったところとは全く違うお店で、穴場なのか比較的に人は少ない。
 一つ一つの席も離れていて、これなら安心して話せると思った。
 料理を頼み、一息つくと彼女は小さめの声で聞いてくる。


「それで、どういう事?」
「えっと、まずは……」


 そこであったことを全て話した。
 凪さんとの関係については置いておいて、発情期のオメガに接触した事でオメガになった事。
 自殺しようとしたところを助けられた事。
 たまたま専務にそれを知られる機会があって、事情を知る専務が秘書として雇ってくれている事。


「……後天性オメガって本当にあるのね」
「そうみたい。……不用意に近づくべきじゃなかった」


 今更後悔しても遅いけれど、あの行動はあまりにも軽率すぎた気がしないこともないし。


「でも堂山君がそのオメガの女性を助けてあげなかったら、その人は悲惨な目に遭っていたと思う。結果的に堂山君の性別が変わってしまった事は貴方にとって辛い事だと思うけど、貴方の優しさや勇気を私は尊敬する。」
「……ありがとう」


 面と向かって『尊敬する』なんて言われると思っていなかった。恥ずかしくて視線を逸らす。


「トラウマがあるって言っていたのに。本当に凄いと思う。」
「……いやでも、そんな大したことじゃないよ。目の前で襲われているのを見る方が濃いトラウマになると思うしね。」


 そう伝えると彼女は首を左右に振った。


「違うの。絶対にフェロモンに対抗できるって保証がないでしょ。だから私は発情期になった人を見ても警察に電話するくらいしかできない。もし私が襲ってしまったらって考えると怖くて……。」
「ああ、それで言うと俺は常日頃から抑制剤を飲んでいたし、そもそもそこまで考えてなかったな。」


 確かに、そういう考えもあったのか、と関心する。
 だからこそ、もし今後街中でオメガ性の人が発情期を起こしてしまっていたら、オメガの俺が率先して助けてあげないといけないんだ。


「堂山君は優しい人なのね。勘違いしていたわ」
「別に優しくはないよ。自分に対して何かしらのメリットがないと動こうと思わない。トラウマが増えるくらいなら助ける、これもメリットだから。」
「そう。」


 会話をしていると料理が運ばれてきた。
 それからはどうでもいい様な会話で笑いながら食事ができた。


「じゃあね、またご飯行きましょ。」
「うん。ありがとう!」


 新木さんとの間にあった微妙な雰囲気も無くなり、良い友達になれそうだなと嬉しい気持ちでデスクに戻った。
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