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第66話

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「誰にも言わないでください……!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて……」
「お願いします。誰にも……誰にも言わないで……」


 彼女はオメガ性に偏見が無かった。
 だからこそ、このお願いは聞いてくれるはず。
 けれどもしもの事を思うと怖くて仕方がない。


「わかった!わかったから!」
「っ、はぁ……」


 頭を上げて彼女を見ると、困惑した表情をしていた。


「どういうことなの……?堂山君、アルファだったじゃない。」
「……昼休みか退勤後、時間ある?その時に人のあんまりいないところでゆっくり話したい。」


 ここで話すには少し抵抗がある。
 それに今は少し落ち着きたくて。


「わかった。昼休みに連絡する」
「ありがとう」


 ドキドキする心臓を押さえて、深く息を吐く。
 彼女は心配そうに俺を見ていて「大丈夫なの?」と聞いてきた。


「大丈夫」
「詳しくは後で聞くつもりだけど……安心して。誰にも言わない。約束する。」
「……」
「安心して。」


 彼女は真剣な表情でこちらを見つめてくる。


「……うん。ありがとう」


 だから信用できた。
 もう一度お礼を伝えて、「またあとで」と伝えて彼女と別れエレベーターに乗る。
 自分のデスクのある階まで上がり、中林さんが出社しているのを見て「おはようございます」と伝える。
 彼女は同じ様に挨拶を返してくれて、それを聞いて たあと会釈してから専務室に入った。
 この胸のドキドキを早く治めたかった。


「専務」
「堂山君、ありがとう。……真樹、何かあった?」
「凪さぁん……」


 凪さんは直ぐに俺の変化に気付くと、傍に来て抱き締めてくれる。
 安心してもたれ掛かれば、無意識にホッと息を吐いていた。


「前の部署の人に何か言われたか?」
「いえ、でも……前に隣の席だった新木さんという女性にチョーカーが見えてしまったみたいで、オメガだとバレました。昼休みに少し話をしてきます。」
「……その新木さんはアルファか?」


 少し曇った顔の彼。
 コクっと頷いて返事をする。


「よく話をしていました。仲は……良いか分かりませんが、あの人は優しい人なので言いふらしたりはしないはずです。誰にも言わないって約束してくれました。」
「……何かあれば連絡すること。一人で絶対に悩まないこと。この条件を飲まないなら昼休みは行かせない。」


 肩を持たれ、体が離れる。
 じっと目を見つめられると、気付けば首を縦に振っていた。


「わかりました。連絡するし、悩みません。」
「いい子だ。」


 彼と話をし、動悸が治まると自分のデスクに戻り椅子に座る。
 漸くメールのチェックをして、今日の業務に取り掛かった。
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